スポーツ
「じゃあ高森、乾杯のあいさつやってくれよ。」
「え、俺がすんの?」
「そりゃあそうだろうな。」
初芝がそう言って笑う。
「頼むよ、幹事さん!」
照井も調子よくそう言った。
「まあそれじゃあ……」
高森は渋々ジョッキを持ち上げる。
「それでは、久しぶりの再会を祝して、乾杯!」
「「乾杯ー!」」
ここは都心にあるスポーツバー。
高森は久しぶりの飲み会の会場として、学生時代に何度も足を運んだことがあるこのスポーツバーを選んだ。
「しかし、ここも懐かしいよな。」
「大学生の頃はよく来てたもんな。」
「うん。だから今日はあえてここにしたんだ。」
「さすが高森、よく分かってる。」
初芝はそう言いながら高森の背中をパンと叩いた。
「痛いなあ。」
高森も笑ってそう返した。
「今年で俺たちも二十七だから、もう知り合って十年以上になるのか。」
照井はジョッキをテーブルの上に置くと、感慨深そうにそういった。
三人の出会いは高校生の頃だった。
雨相月士の作品のような運命的な出会い……なわけではない。入った部活が一緒、ただそれだけのことだった。
三人は三年間一緒になって白球を追い続けるうちに仲良くなっていった。早い話が野球部だったのだ。
野球部といっても決して名門校などではなく、県予選止まりの高校だった。また三人自身も、日々の練習を頑張ってはいたが決して上手ではなかったため、三年生になってやっとベンチ入りができるくらいだった。
三年の夏、県大会予選で彼らは涙を流したが、三人の友情が潰えることはなかった。
三人は高校卒業を機に上京し、お互い別々の大学ではあったが、よく連絡を取り合っては飲みに行っていた。その頃によく来ていたのが、このスポーツバーだった。
ここにきては、酒を飲みながら大画面でプロ野球観戦するのが、彼らにとっての至福の時間だった。
就職してからは、転勤などで東京にいないかったり、照井が結婚して子供ができたりで、なかなか会うことができていなかった。
それこそ前回会ったのは、照井の結婚式以来だったが、この前の雨相との一件で高森が連絡をし、今回の飲み会に繋がったのだった。
「子供はどう、やっぱり可愛いか。」
「可愛いな。待ち受けにしてるんだけどな、これ見るともうひと頑張りしよう、って思えるもんだ。」
「そうかい、そりゃあよかった。」
初芝は笑みを浮かべた。
「二人は、結婚の予定はないの?」
「俺はないなあ。」
「高森は?」
「俺もないね。」
「まあ俺も結婚したばっかりだから偉そうなことは言えないけど、いいもんだぞ。」
照井はうまそうに酒を飲んだ。
「なあ、またこうやって会おうな。」
高森がそうこぼす。
「おお。どうした、なんか変だぞ。」
「いや別にそんなことないよ。」
「いや、ちょっと変だぜ?」
「最近仕事関係の人が結婚してさ、結構仲良くしてたからなんか急にスッとしちゃって、でもその人が、根本は何も変わってないですよ、って言ってくれて。」
「なるほどな。」
「まあ確かに、結婚して子供が生まれてから物理的に距離が生まれた人はいると思う。」
照井は続ける。
「でも、多分俺たちはどこまで行っても、坊主頭で発給追いかけてた時と変わらねえから。」
そう言いながら、照井は笑った。
「ありゃあきつかったな。」
初芝も笑いながらそう言った。
そんな二人を見て高森は、連絡してよかったと、改めて思うのだった。