ナチュラル

月曜日、多くの人間にとって一週間のうちで一番憂鬱な曜日。
五日間、働き、学び続けた者たちが迎える至福の週末を乗り越えた先に待っている、次の地獄への入口。
そんな月曜日、この教室に入ってきた男も他の者同様、憂鬱な顔をしていた。
「おお、九十九っち。おはよう。」
「ああ、おはよう。」
「どうした、英一。元気ないな。」
「まあ、色々ね。」
そんな英一からの返事を受けて、勇樹と陽介は心配になった。
「なんか、あったか?」
「なんでも話聞くから言ってよ!」
「いや、実は……」
「二人の真剣そうな顔を見て、英一は話し始めた。」
「昨日、彼女とデートだったんだ。」
普段なら羨ましいだなんだと言いそうなところだが、英一の憂鬱そうな顔を見た今、決してそんなことは言ったりしない。
「それで、どうしたんだよ。」
「まあ買い物したり映画見たりしてから、ちょっとお茶でもしようか、ってカフェに入ったのね。」
純粋な二人にとってデートの話はイマイチ理解できない部分もあったが、最低限の相槌で話を進めるしかなかった。
「うんうん、それで。」
「で、芸能人の話になって、最近可愛いなって思ってる女優さんの話になったんだよ。」
「誰?」
「そこ気になるか?」
「気になるでしょ、九十九っちが誰が好きなのか。」
「まあ。」
「あの、篠 望春(しの みはる)って女優さん、知らない?」
「分かる分かる。あの人可愛いよね!」
「名前聞いてもピンと来ないな。」
「ほらあの、最近やってた……ねえ。」
「うん、そう。鏡の中の白雪姫のヒロイン演じてた女優さん。」
「鏡の虜の白雪姫って、あれか。あの、自分のことがすごい好きなヒロインが、男たちバタバタフッてくってドラマか。」
「そう、それ!それの女優さん。」
「まあ確かに、可愛いよな。」
「うん、可愛いのよ。」
可愛い芸能人の話で盛り上がる、実に学生らしい会話である。
「で、その人がどうしたの。」
「まあカフェでそんな話してて、その人のSNS見たのよ。そしたらちょうど写真が上がっててね。」
そういって英一はスマホをいじり、二人に写真を見せた。
「それが、この写真。」
「うん。可愛いな。」
「そうだね。」
「おい、まさかあれか。この写真見て可愛いって言ったら怒られた、みたいな惚気話じゃないだろうな。」
「それは嫌だよ。」
「違う違う、そんな彼女じゃないから。」
「じゃあ何?」
「いやだから、この写真見て、スッピンなのに可愛いね、って言ったのよ。」
「うん。」
「そしたら、これはスッピンじゃない、って。スッピン風のナチュラルメイクだって、怒られて。」
「これスッピンじゃないの?」
「らしい。」
「スッピンに見えるのにな。」
「なんかそういう技術?そういうのがあるんだって。」
「はあ、わからん。」
再び落ち込む英一。
「まあでも、謝るしかないんじゃない。」
「うん、そうだよね。」
「とりあえずは、そうだな。まずは謝罪しよう。」
「うん、ありがとう。二人のおかげだわ。」
「いやいや。それにしても、この人可愛いよなあ。」
「そうだねえ。」
男子高校生が三人、うっとりした表情で画面に映し出された美女の虜になっているのだった。

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