画用紙

「きりつー、きょーつけ、れい。」
「「「お願いします。」」」
「はい、お願いします。みんな座ってください。」
 子供たちは隣の子と少しおしゃべりをしながら、ガタガタという音を立てて、席に着いた。
「はい、授業始めるから静かにしてね。」
 天野がそう言って教室を見回すと、子供たちは少しずつおしゃべりをやめた。
「はい、よくできました。」
 うんうん、と頷き話を続ける。
「それでは今から図工の授業を始めたいと思いますが、今日は何するかわかる人!」
「「「はい!はい!」」」
 皆大きな声を出しながら手をあげる。
「じゃあ、小出さん。」
 誰よりも声が大きかったこともあり、クラス一のお調子者である護流(まもる)を指名した。
「はいはいはい、ねんどでおひるごはんつくる!」
 キャハハハハ、とクラス中に響き渡る笑い声。
「小出さん、粘土は食べられませんよ。」
 天野は護流をたしなめるように言った。
「はーい。」
「もう男子ってほんとばか。」
 そう言って怒り出したのは一番前の席に座っている楓だった。
「戸倉さんもそんな言い方しないでくださいね。」
「はーい。」
 少し不服そうな楓。そんなやり取りでまたクラス中が笑いだす。
「でも先生のもってるものみたら、ねんどじゃないことくらいわかるじゃん。」
 やはり不服だったのか、後ろを向き、護流めがけてそんな言葉を浴びせる楓。
「うっせーなあ。」
「なんですって。」
 やや険悪な雰囲気が教室に流れた。
「はい、小出さんも戸倉さんも、今は授業中ですよ。」
 少し怒ったようなトーンで話すと、二人とも不服そうに返事をしながら前を向いた。
「はい。じゃあ今日の説明を始める前に、まずこの画用紙を配りたいと思います。」
「おえかきかなあ。」
「おれ、えかくのうまいんだぜ。」
 また口々に話し始める子供たち。
「はい静かに。まずは出席番号順に教卓まで来て、この画用紙を貰ってください。」
「「「はーい!」」」
「じゃあ、一番の秋山さんからどうぞ。」
「はい!」

 小学校一年生ということもあり、クラス全員に画用紙をいきわたらせるだけでもなかなかの重労働である。
 だからと言って前から配っては、紙がないだの、自分の紙が折れただの、またもめてしまうに違いない。
それゆえ、こういった方法を取るのは必然でもあった。

「じゃあみんな画用紙を持ってると思うので、今から説明しますね。」
 天野は黒板の方を向くと、チョークをもって何やら書き始めた。
「11月の終わりに、『てんじかい』という行事があります。『てんじかい』はみんなわかるかな?」
「わかるー。」
「えー、知らないー。」
 様々な意見が飛び交う。
「『てんじかい』ではみんなが図工の時間に作ったものとかを飾って、それをみんなのおうちの人が見に来てくれます。」
「おもしろそー。」
「ということで皆さんには、小学校に入ってからの思い出を絵で描いてもらおうと思います。」
 そう言うと教室がにわかにざわつき始めた。
「えー、なにかこう。」
「うんどうかいかな。」
「えんそくだよー。」
「はーい、じゃあお友達と話し合ってもいいので、まずはロッカーからクレヨンを持ってきてください。」
「「「はーい!」」」
 子供たちのけらけらという笑い声が、教室にまた響いた。

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