明治

 四時間目を終えるチャイムが鳴り響く。
このチャイムは昼休みの始まりを告げるチャイムであると同時に、お腹をすかせた学生たちが、食堂めがけて一目散へと走り出すスタート合図でもある。
しかしチャイムが鳴ったからと言って、すぐに教室を出られるわけではない。教師からの授業終了の合図があるまでは座っていなければならない。
その合図を今か今かと待つ生徒たちの足は、既に扉の方を向いている。
「じゃあ今日はここまで。」
 教師がそう言うと、一部の生徒たちは食堂めがけて一目散に走り出し、そして陽介は、一目散に勇樹の元へやってきた。
「教室の中を走るな。」
 静かに陽介をたしなめる勇樹。
「ごめん。」
「で、どうした。」
「いや、実はまっつんに出したいクイズがあって。」
「クイズ?陽介が?珍しいな。」
「いつもまっつんに出されてばっかだからね。」
「そんなこともないけどな。まあいいや、せっかくなら出してくれよ。」
「うん。じゃあ行くよ、日本で一番最初の元号は何でしょうか。」
「大化。」
「早っ!」
 陽介はあまりの速さに驚いた。
「いや、それくらい知ってるだろ。」
「え、なんでよ。」
「なんでって。今まで歴史の授業を受けてきたろ。」
「歴史?いやでも、そんなの習わなかったよ?」
 陽介の言葉に呆れる勇樹。
「あのな、昔やったろ。大化の改新って。」
「ああ、うん、なんか聞いたことあるかも。」
「聞いたことあるかもって……小学生でも知ってるかもしれないぞ。」
「小学生は言いすぎでしょ。」
「今どきの小学生をなめるな。」
「うーん……」
 なんだか会話が変な方向に進んでいる。
「今のクイズは、どこで仕入れたんだ。」
「昨日テレビ見てたらちょうどやってて。」
「なるほどな……いやテレビだったらそのあと解説くらいやってなかったか?」
「そこまで真剣に見てなかったっていうか、いい問題だったから今日絶対に出そうってことしか考えてなくて。」
「なるほどな。」
「うーん、いい問題ってなかなか難しいもんだね。」
「別に今の問題が悪いとは思わないぞ?大人なんて学校で勉強したことなんて忘れちゃってるんだし、そういう意味ではいいんじゃないか?」
「そっか。」
 陽介は一人でうんうん、と頷いた。
「じゃあなんかさ、まっつんも元号にまつわるクイズとかないの?」
「クイズなあ……」
 勇樹は頭をひねってみたが、特に何も出てこない。
「豆知識とかならなくもないけど、クイズってなるとやっぱり難しいな。」
「じゃあ豆知識でもいいよ。」
「ああ、じゃあ……明治って元号あるだろ?」
「うん。」
「明治っていう元号は、それまでに十回も候補に挙がったことがあるんだよ。」
「え、十回も?」
「そう。まあだから、十一回目にしてようやく採用されたってわけだな。」
「そんなことあるの?」
「まあ元号にはよるけど、結構そういうこともあるみたいだぞ。」
「え、でもそんなに被るもん?しかも十回も捨てたやつなんだよ。」
「まあもともと何かしらの出店からとってるからな。そりゃあ被ることもあるさ。」
「そういうもんかあ。」
「それに、その時代背景を考慮して付けたりするわけだから、この時はダメだっただけで、また別の機会に考えたらいいかもしんないだろ。」
「なるほどね。さすがまっつん!」
「どうも。」
 勇樹は思わず少しにやけてしまった。
「ちょっと僕、もう一回鍛えなおしてくるわ。」
「鍛えなおす?」
「そう。また今度いい問題持ってくるから、そん時は頼むね。」
「わかったわかった、とりあえず飯にしよう。」
「そうだね……あ!」
「どうした。」
「今日弁当忘れた方購買行かなきゃ。」
「走るならそっちに向かって走ればよかったろう。」
 勇樹はただただ呆れてしまった。

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