運動会

 もう夏も終わったはずなのに、太陽が燦々と輝く休日の昼。普通ならば、まだ暑いのかとうなだれる人もいようが、今日は違う。まさに絶好のアウトドア日和である。
 今日は仲間みんなそろっての大バーベキュー大会。
代々この地域で酒造業を営んでいる角田家は、実は広大な敷地を有しており、地主的な側面もあった。そのため今回は、角田家の敷地内でバーベキューを行うことになったのだ。
 普段は和太鼓チームの全員が、その活動とは別に仕事をしたり、学校に通っていることもあり、なかなか時間を合わせて一堂に会することができず、せいぜい練習終わりの飲み会が関の山だった。
しかし、こうして年に何回かだけはこういったイベントを開催するのが、角田をはじめとしたメンバーたちの楽しみでもあった。
「みんな気兼ねなく飲めや歌えや、楽しんでくれ。」
 皆声にならない声で一堂に答える。
 社会人のメンバーとなると多少の参加費は払ったり、何かしらの手土産を持参してはいたが、それでもこれほど大規模なバーベキュー大会が行えるのもひとえに角田あってのものだった。
「竜さん、ありがとうございます。」
 そう感謝の言葉を述べる面々に、おお、と軽く手をかざす角田。決して押しつけがましくないその振る舞いが、みんなから尊敬され、慕われる所以でもあった。
「どうだ、二人とも楽しんでるか。」
 清志と玲央に話しかけてきたのは、ビールの入ったプラスチック製のコップを持った石嶺だった。
「はい、もちろんです。」
「いやあ、いいっすね!」
「そうかそうか。」
 お日様の出てる時間からビールを飲み、酔っていつもよりも上機嫌な石嶺は満足そうな笑顔を浮かべた。
「そういえば、二人とも参加は今回が初めてだもんな。」
 二人は頷く。
「こんなイベントがあるなんて、やっぱりここは最高ですね。」
「おお、そうだろう。真壁くんもなかなか見る目があるなあ。」
「何言ってんですか、兄貴ー!」
 当然、成人している玲央も飲んでおり、二人ともいつもより饒舌だった。
「おいおい、清志はまだ飲めねえんだ。酔っぱらいはあっちで飲んでろ。」
 そう言いながら角田が入ってくると、二人は一礼し、お互い肩を組みながら、酔っぱらいたちの群れの中に戻っていった。
「どうにも酔っちまうとしょうがねえ。すまねえなあ。」
「いえいえ。」
「お前、飲んでないだろうな。」
「もちろんです。」
 清志は背筋をまっすぐにして答える。
「よし。」
 角田はゆっくりと頷く。
「それにしても、昔に¥と比べるとなかなかこういうイベントも減っちまったもんだよ。」
「え、そうなんですか。」
「そうよ。昔はそれこそ、子供のメンバーも多くてな、運動会だって言うとみんなで見に行って、そんでもって応援したもんよ。」
「へえ、すごい。」
「まあでも今が家族じゃないと見れねえとかそういう時代になっちまったから、こればかりは仕方ねえよな。」
 角田はしみじみと呟いた。
「本当はこういうイベントも積極的にやっていきてえが、もちろんみんな仕事や学校、それに家族もある。そうするとなかなかな。」
 角田はぐっと、手に持っていたプラスチックのコップに入ったビールを飲み干した。
「でもたまにでもいいので、やっぱりこういうイベントはやってほしいです。」
「おお、そうか。よくわかってるじゃねえか。」
 先ほどまでしみじみとしていたかと思えば、今度はえらく上機嫌である。
「竜さんも、酔ってますね。」
「そんなこと……あるか。」
 竜さんは豪快に笑った。
「早く大人にならなきゃなんて焦る必要はねえぞ。急がなくてもあっちからやってくるからよ。」
「はい。」
「んで大人になった暁には、酒飲むぞ。」
 そう言うと竜さんは立ち上がった。
「あっちでいい肉焼いてっから、食って来い。」
「竜さんも食べますか。」
「俺は、これがあれば十分だ。」
 竜さんはプラスチック製のコップを高らかに掲げた。

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