プレゼント

「ねえねえ、まっつん。今日の放課後って空いてる?」
昼休み、いつものように顔を合わせて弁当をつついていると陽介は勇樹に尋ねた。
「まあ、なんもないな。」
部活も予備校も何もない勇樹からすればいつも通りのことである。
「じゃあ、これどう?」
陽介の手には何やらチケットのようなものが握られていた。
「いや、よく見えないんだが。」
「ああ、ごめん。」
陽介はそう言うと手に握っていたチケットのようなものを机の上に広げた。
そこには、ボーリング3ゲーム目無料券の文字と、学校から二駅ほど先にあるボーリング店の名前が書かれていた。
「ボーリングの、割引券。」
「そう!」
「おお。」
「どう?」
「ああ、てかこれ使っていいのか?」
「うん、大丈夫。ちょっと前にお父さんが職場の人と行った時に貰ったらしくて、それでよかったらどうだ、って。」
「へえ。いや、それならせっかくだし使わせてもらおう。」
「ありがとう。」
「いえいえ。これ3枚あるからさ……」
「まあ、決まってるな。」
 二人はそろって英一の席に向かった。
「九十九っち。」
「わあ、ビックリした。」
 英一は大きな声で驚くとさっきまで凝視していたスマホを伏せた。
「ああ、ごめん。」
 英一の大きなリアクションに陽介も面食らったようだった。
「いや、こっちこそごめん。」
「なんかあったのか?」
「え、どうして?」
「いや、昼も一緒に食べなかったし、なんかすごいビックリしてたから。」
「ああ、いや……」
「なんか悩み事があるなら聞くよ。」
「いや、そういうわけじゃなくて。」
「じゃあなんで……」
 心配する陽介を手で制す勇樹。
「今日、ボーリング行くぞ。陽介が割引券持ってきてくれたんだよ。」
「うん、そうなんだよ。ボーリングやって、ストレス発散しよう。」
 二人は英一の肩に手を置いて誘った。
「ああ、ごめん。今日はちょっと予定があって。」
「えー、残念。」
「それなら仕方ないな。」
「ごめん。」
「いや、いいよ。」
「まだ期限はあるし、今度行こう。」
「そうだな。まあそれはそうと、やっぱり俺はどうにも心配だ。話してくれ。」
「いや、その……」
 二人からの鋭い視線が突き刺さる。
「実は、彼女の誕生日が近くて、プレゼントを探してたっていうか。」
 二人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「あ、彼女さんね。」
「おお、おお。」
「なんかごめん。」
「やめろ、謝るな。」
「ごめん。」
「おい。」
「うん。」
 何とも言えない沈黙。
「じゃあ、今日はそのプレゼントを買いに行くの?」
 陽介が切り込む。
「うん。でも、まだどれにしようか悩んでて。」
「なるほど。」
「付いてっても、意味ないよね。」
「ないな。」
 陽介からの提案に即答する。
「あ、でも、意見貰える人がいた方がいいかも。」
「いや、そういうの分からんぞ。」
「うん、分かんない。」
「でも、もし迷惑じゃなければお願いしたいなって。」
「迷惑じゃないけど……」
「まっつん、行こう。」
「え?」
「九十九っちのために。」
「……分かったよ。」
「ありがとう。」
 こうして悩める英一に、大して頼りがいのない仲間が増えたのだった。

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