しりとり

 お昼休みが始まるとすぐに陽介がお弁当と椅子を持って俺の席に来た。
「まっつん、一緒にご飯食べてもいい?」
「あのな、いつも一緒に食ってるだろ?毎回聞くようなことじゃないから。」
 陽介とは小学校に入る前からの付き合いになるが変なところで気を遣うところは昔から変わらない。
 陽介はホッとした顔をしてから椅子に腰かけて話し始めた。
「かわいいものしりとりしようぜ。」
 突拍子もない提案をするところもだ。
「ウシジマくんでも見たんか?」
「正解!じゃあルールは分かる?」
「かわいいものしか言っちゃいけないしりとりだろ?」
「そう!子犬、かわいい、ぬいぐるみ、かわいい、みたいな。」
 満面の笑みを浮かべてそう説明する陽介を見ると断る気にはなれず、一回だけやることにした。
「じゃあまっつんから。最初はかわいいものしりとりの『い』ね。」
 なんで「い」だよ、というツッコミをする間もなくゲームが始まる。
「かわいいものしりとり、イエーイ!」
「イルカ。」
「かわいい。カリフラワー!」
「かわ、いい?ちょっと待て、カリフラワー?」
「うん、かわいいでしょ。」
 当然という表情を浮かべる陽介。
そりゃあ世の中にはいろんな人間がいるから中にはカリフラワーがかわいいという人もいるかもしれない。カリフラワー農家の人なんて絶対かわいいというだろう。しかし一般的に見て、カリフラワーはかわいいのだろうか?一瞬の間にそんなことを考え、ひねり出すようにこう問いかけた。
「ブロッコリーの方がかわいくないか?」
 陽介は信じられないといった目でこっちを見てきた。知り合って十年以上になるがこんな目は見たことがない。
「いやなんだ、女性で言うならば、ブロッコリーはかわいい系で、カリフラワーは綺麗系だと思うんだよ。」
「意味わかんない。どういうこと?」
 それについては発言者の俺でも同意する。
「だから、『飼い犬』とか『カルガモ』とかほかにもあるのにな、と思って。」
「なんかさっきから聞いてると、まっつんは俺がほかに『か』が思いつかなかったからカリフラワーって言った、って思ってるみたいだけど、俺は、単純にカリフラワーのこと、かわいいと思ってるから!」
 あまりにも大きな声でそう言ったのでクラス中がこっちを見るのが分かった。言っている内容はほぼほぼ告白である。
「わかった、ごめん、カリフラワーはかわいいな。」
「ブロッコリーの方がかわいいって発言、取り消してよ。」
「わかったって。さっきの発言は取り消す。カリフラワーの方が、」
 陽介がものすごい目力でさえぎる。
「カリフラワー『は』、かわいい。」
 陽介はようやく納得したようでいつもの笑顔を浮かべた。
「まっつんの番だよ。」
「ああ、そうだった。」
「じゃあもう一度俺から。カリフラワー!」
「かわいい。ワンピース。」
「かわいい。スイカ!」
「かわ…」
「ああ!」
 またしても大きな声で嘆く陽介。
「かわいいのは小玉スイカだ!」
 正直全くわからない。カリフラワーがかわいいのならばスイカなんて当然かわいいように思える。しかし下手にツッコむとさっきのあの表情をまた見る羽目になるので俺は沈黙を貫くことにした。
「まっつんの勝ち!」
「あぁ、ありがとう。」
「それでは景品としてこれをあげよう!」
 そういうと陽介は俺の弁当箱のふたの上に唐揚げとブロッコリーを二つ置くのだった。俺はありがとうも言わずに唐揚げとブロッコリーを片付ける。
 そうだ、何かにつけて俺にブロッコリーを渡してくるところも昔から変わらない。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,181件