金曜日

金曜日という言葉を聞いて、皆何を思い浮かべるだろう。
その言葉を聞いただけで、来る幸福に向けてあと少しだけ頑張れる。そんな気がする人も多いのではないだろうか。

調べたところによると、この国において約半数の労働者が土日休みだという。
半分と聞くと少し少ない気がしなくもないが、しかしこの国の労働者数を考えれば、その半数が同じ日に休日を迎えているというのはとても多いようにも思える。
就職や転職に際しての労働環境の良さのひとつとして、休みがしっかり確保されているかがあげられるように、やはりそういった部分に重きを置く人が多かれ少なかれいるということだ。

もちろん全ての労働者が同じタイミングに休むことなど不可能であり、そういった意味で土日も働いている方々への感謝を忘れてはならない。
特にサービス業に区分される職業はそうである。皆が休みの時こそ書き入れ時であり、それは間違いないことだ。
皆が休みの時に何をしているか、それがキモの職業は他にもあり……

今日は金曜日。早くも今週末に控えたお笑いライブに向けて入念なネタ合わせを行う二人がここに。

「よし、これで行くか。」
「そうだね、行ってみよう。」
数時間に及ぶ激闘激論の末、二人はこの週末にかけるネタを仕上げた。
「いやあ、一時はどうなることかと思ったけど、なんとかかんとかなったな。」
「本当、いつも完成するこの瞬間まで気抜けないからね。」
光一は笑いながら答えた。
「明日は、何時集合だったっけ?」
「明日は昼過ぎだったはずだから、ちょっと待ってね。」
そういって明日のライブについての詳細をスマホで調べる光一。
「水いる?」
「うん、お願い。」
その間に敦は二人分の水を取りに向かう。
ネタ作りやネタの原案を持ってくるのは敦だが、その分、ライブの日程調整などは主に光一が行っているのだった。
「明日は、13時集合だね。」
水を取ってきた敦に伝える光一。
「13時か、了解。集合はどうする?」
「まあ今から練習できるだけして、会場集合とかにする?」
「そうだな、まあそうするか。」
「ちなみに今日は、夜勤?」
「もちろん。」
 そう答える敦の表情は、決して明るいものではない。
「そうか。そしたら、一応11時には一回電話するよ。」
「マジか、本当ありがとう!」
「いやいや、気にしないで。」
「あれ、光一はこのあとバイトないの?」
「今日はこのあと17時から。」
「おお、それだとじゃあ、まだ1時間くらいは行けるか?」
スマホの画面を光らせてから確認する。
「そうだね、大丈夫。」
「よし、じゃあもう外出ちゃって、少し練習するか。」
「そうしようか。」

ひとしきり練習を終え、光一がバイトに向かう時間が近づいてきた。
「はあ、早くどうにかなりたいな!」
「どうにかなりたいってなんだよ。」
光一は笑った。
「最近思ったんだよ。」
「何?」
「俺たちって土日っていったらライブか、なければバイトしてるだろ?」
「まあそうだね。」
「もし売れたら売れたで、土日は仕事だろ?」
「うん、イベントとかそういうのは土日にあるイメージだよね。」
「てことはだ、この道を選んだ時点で土日休みって選択肢はなくなったってことだな。」
「まあ確かに。変な話、土日休みの時は、もう廃業した時かもね。」
「そう思うとあれだな、土日休みたくないな!」
「珍しい言い回しだよ?」
光一はまた笑いながら答えた。
「まあとりあえず、また明日。」
「うん、よろしくー。」
「金夜だから、こりゃあお互い忙しいな。」
「間違いないね。」
二人は少しだけ渋い顔をして別れた。

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