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『どん底』よりも『どん底よりちょっと上』にいる時のほうが苦しい


どん底にいるということは幸運なことなのかもしれない。自分がいる場所が底の底なら、這い上がるしか方法はない。どん底だと感じられるような状況を長く続けられるほど人間はタフにできていないので、死ぬ気で状況を変えようと頭をフルパワーでぶん回す。


「今が最低なのだから後は上がるだけ」と気持ちを振り切ることもできるかもしれない。火事場のクソ力だって湧いてくる。多少の擦り傷をもろともせず進む道中は不思議と幸福感に溢れている。一種の催眠状態だ。


ゾーンに入っているから「どうしてあの時あんなことができたんだ?」と後から思えるようなことだって、簡単にやってのけてしまうかもしれない。


どん底を経験した人はわかると思う。どん底まで落ち切った後はあまり辛くない。「やるしかないか!」と踏ん切りがついた時、不思議と視界がひらけてくるものだ。理解者がいなかろうと、自分のやっていることに周りが猛反発しようとも、失うものが何もない精神を武器にどこまでも突き進むことができる。なんでもできる気がする。


苦しいのはむしろ落ち切る前の「これ以上落ちたらどうしよう…」と嘆いている時である。全て落ち切ってしまってどうしようもなくなった時、人は開き直るのだ。


僕が考えるどん底よりも苦しいことは、『どん底よりも少し上』で生きる場所を見つけてしまった時だ。「ここは自分の居場所ではない」と感じながら、生きていくために働いて、慎ましく生きていけばなんとか生きていけるほどの、安定。


今の現状は自分にとって最高ではないのだけれど、最低ではない。最低ではないから現状を変えるために死に物狂いで何かをする必要はないし、新しいことをするにしても小さなリスクが気になってしまう。こんな状態はどん底にいるよりも苦しい。


僕はどん底を経験できて心から幸せだったと思う。どん底だったから、変化するしかなかった。起業をするときのリスクなんて全く気にならなかった。今いる場所よりも下がることなんてないから。


もうこれ以上ここにいたら自分の身体も心も、そして未来も壊れてしまう。どうしようもないから動くしかなかった。「動かない」という選択肢がなかった。だから動けた。


あのときのことを武勇伝のように語ることは嫌いだ。あんな状況を経験すれば、誰だって簡単に生まれ変われる。燃えている家の中でくつろげる人なんていない。一目散に逃げ出して当然だろう。


家が燃えたことは悲しいが燃えてしまったものは仕方がないから生き延びることだけを考える。脇目も振らず走っていたら築いた時には海に出ていた。僕が起業をして自分のビジネスを作れた理由なんて、たったそれだけの理由だった。


生き延びることだけを考えて走ってきた僕は、少しずつ何かを作ることを知らなかった。「自分を変えたい」と思っている暇すらなかった。現状維持ができなかったから。


どうしようもなく家が燃えていたんだ。どん底だった。どん底にいたことすら気づかなかった僕は、自分の生きたい人生を言葉にする対話を通して、今いる場所が燃えていることに気づいた。


あれ?ひょっとして僕の家、燃えてるんじゃない?もしかしてこのままここにいたら、煙吸い込んで死んじゃうんじゃないの?もしなんとか全焼を免れたとしても、このままここで生きていくの無理なんじゃない??僕まだやりたいことたくさんあるのに???


気づいたら止まらなくなった。止まれなかった。もう止まれないから仕方なく、「あっちの方向に行けばいい気がする!知らんけど!!止まったら死ぬ!!!」と思って走り続けた。気づいたら東京の中野区に住んでいた。


あのときの記憶は本当に断片しかない。でも楽しかったんだよなあ。初めて自分の足で歩いている気がした。誰かに準備してもらった道じゃなくて、僕だけの獣道。


でもよく見たら誰かが歩いていて土が硬くなっている。よく目を凝らせば獣道の中にも道がある。舗装された道ではないけれど、確かにそこには轍があったんだ。


「自分を変えたい」と思っているうちは何も変わらない。人間は変わらないことを好む生き物だから。できるだけ今の生活を守りたい。たとえ過ごした今日が「最低ではないけど最高でもない1日」だったとしても、明日も「最低ではないけど最高ではない1日」を目指してしまう。


それは個人の資質に依存するものではなくて、人間という種族には共通した思考。


僕達の祖先はそうやって生き延びてきた。祖先パワーには祖先パワーで対抗するしかない。そう、火事場のクソ力だ。「やばい!逃げろ!ここにいてはいけない!!」とアンテナがキュピーン!していれば、「昨日と同じ今日を過ごそう」なんて思考はぶっ飛んでしまう。


燃えてんだよ。燃えちゃったものはしょうがないんだよ。もう元には戻らないんだよ。「だから行くしかない」という状況を準備してあげないといけないんだ。


僕が「うち、燃えてますねえ」と思うようになったのは、コーチとの対話で「僕はこう生きたいんです」ということをひたすら語っていたことがきっかけだった。


僕は「自分らしく生きたい」という願望をうっすら持っていたんだけど、社会人になってたくさん研修を受けて「社会人は甘くない、最低限の結果を出さないと自分の意見なんて言っちゃダメなんだ」というマインドが染み付いていた。


だから「自分らしく生きる?そりゃ僕に力があるならそうしたいけど、僕はまだ社会を知らないペーペーの23歳でっせ。無理でしょそんなきれいごと。まずはここで結果を出してからでは??」と思っていた。


で、頑張りに頑張り倒した結果パンクしてぶっ壊れる直前でコーチに出会った。コーチは言った。「いったんそういう甘い甘くないを捨てて、なおとさんはどうしたいか教えてくれますか?」ほうほう、一回置いていいんすね。なら…僕は毎月ファミレスをハシゴしながら語り続けた。


そしてある日気づいた。「あれ、このまま僕が頑張ってここで結果を出しても、僕の理想の生活は叶わないパターンですよね??」コーチは「そのとぉぉり!!」とただでさえ大きな黒目を瞼が開くギリッギリまで見開いて僕を指差した。


あはあ、僕はこのままだと「期待に応える星人」として40歳になってしまうのですね。そして頑丈な僕のことですから、今のこの状況もきっと何年かかけてなんとかしてしまうのでしょう。


ひょっとしてこの地獄の輪廻から抜け出すには、今がベストタイミングなのでは…?「そのとぉぉぉぉり!!!」はい、これで火がつきました。メラメラ。一度ついた火はどんどん大きくなりました。


このままだと、まずい。うまくいくとかいかないとかそういう話じゃなくて、結果が出てない今は地獄だけれど、この重圧を跳ね除けて結果が出てしまったら、もっと地獄だ。


もうこの時点で限界なのに。ああ、これは「会社組織で頑張る」っていう構造が悪いですね。あーハイハイ。もうヤバいですね。義務教育ってなんなんでしょうね。


コーチ。僕は教育を変える元気はないので、先にいち抜けさせてもらいます。たくさんの人に迷惑をかけると思うのですが、僕の味方でいてくれますか。そうですか。感謝します。それではなおと、行って参ります!!


僕にとっては本当に当時の会社が燃えているように見えた。そしてその中で毎日働いている上司の皆さんは全員アイアンマンに見えた。アイアンマンなんだから熱くないのかな?すごいな。僕はアイアンマンじゃないから無理だ。


「せめて3年は頑張れよ」と人事本部長に激詰めされたときは、「3年頑張ったらアイアンマンになれるぞ」と言われている気がした。


いや、僕そのアイアンマンになるのが嫌なんで。そんな感じで誘われる時はドラキュラになるって決めてるんで。ごめんなさい。MAVELはあんま見てないんです。失礼します。ドロン。


このブログを読んでくれている人の中にもきっとアイアンマンがたくさんいるのだろう。アイアンマンになりかけのハーフアイアンマンもいるかもしれない。エリートアイアンマンはいないだろうな。アイアンマンになることがこの国の目指す教育なのかもしれない。僕はごめんだな。


ドラキュラになりたいのにアイアンマンレースに出続けたら、そりゃアイアンマンになるでしょ。「今はアイアンマンなんですけど、いつかドラキュラになりたいと思ってます!」いやいや違うでしょ。まずはアイアンマンスーツを脱がないとドラキュラさんに血を分けてもらえないよ。


でもそのスーツ脱いじゃうとそこ熱いのよね…そこ燃えてるし…お互い大変だね…


アイアンマンになりたい人はぜひそのまま頑張ってほしいのだけれど、アイアンマンになりたくない人、どうしても周りが燃えてて熱いからアイアンマンになるしかなかった人、聞いてくれ。アイアンマンになる必要、ある?そこ、燃えてるんよ?スーツ着てても熱いものは熱いよ?


そこから逃げ出したらいいじゃん。でも、逃げる時は本気で逃げようね。そのアイアンマンスーツ、追跡機能もついてるからね。「機能性が高いからスーツ着たまま涼しいとこ行きたい!」ってのはできないんだよ。センサーがいつもと違う位置情報を検知すると、人事本部長が飛んでくるよ。気をつけて。「アイアンマンスーツに似たスーツが他に見つかったら逃げるね!」っていうのもなしね。


僕はアイアンマンになりたくなかったのです。スーツを脱ぐとそこは灼熱でした。どん底にいることを確認しました。あちあちいいながら裸足で全力ダッシュしました。だからここにいます。


あなたは今、どこにいますか。そこはあなたのいるべき場所ですか。あなたが輝くべき場所ですか。アイアンマンになりたくないのに、むさ苦しいスーツの中で、「汗びしょびしょで気持ち悪いけれど、まあ死ぬほど苦しいわけでもないし…」なんていってると、心までアイアンマンになっちゃいますよ。


いつかシュワちゃんみたいに溶けちゃうかも。アイルビーバックできればいいけどねぇ、人生とやらはどうも1回らしいですよ。何回もあれば1回くらいはアイアンマン極めてみる人生も面白そうなのにねえ。困ったもんだ。


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