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不登校の息子と家族を救った、医師の話  〜 その1. 混沌のはじまり 〜


それは、ある日、突然にやってくる。
いや、そうではない。 
実は少しづつ忍び寄っていたことに、私が気づかなかっただけだ。

息子はずっと苦しんでいたんだろう。
私は愚かな母だった。

自分は子どもの気持ちがわかる親だと思っていた。
既存の権力や古い慣習に囚われることはないと思っていた。

子どもたちは、健やかに成長していると思っていた。

告白


息子が中学1年の秋。学校の音楽祭が終わった。

私たちの興奮はまだ続いていた。
だって彼のピアノ伴奏は素晴らしかったから。

部活を一旦休んで、夏休みも返上でレッスンした甲斐があった。
本当にテキトーに数年ピアノを習っていただけなのに、胸を撫で下ろすと同時に、ミスもなく見事に大役を果たしたことに、我が息子ながら尊敬の念さえ抱いた。学年優勝とまではいかず3位だったが(クラスメイトには申し訳ないけれど)そんなことはどうでもよかった。上出来だよー!

夕飯は、彼の大好物のステーキ。
で、食事の後は録画したビデオを見ながら、家族みんなで感動を噛みしめた。お兄ちゃん、かっこいいよねー。

その夜更け。私は彼に言った。
「さあ。音楽祭も終わったし、明日から、また部活頑張ろうね!」
すると彼は、ちょっと間をおいてから口をひらいた。

「もう、部活は行かない。」

いや、実際に彼がどんな言葉を発したか、正確には覚えていない。そんな意味のことを言ったのだ。私も動転していた。

「どういうこと? 疲れた? 少し休みたいの?」

「いや。行きたくない。どうしても。」


彼のただならぬ覚悟が感じられた。

あまり多くは語らなかったが、とにかく嫌なこと、いじめのようなことがあって、もう部活はやめるというのだ。

「わかった。それほど嫌で、決心しているならそうしなさい。」
そういうしかない。
とにかく、今日はゆっくりおやすみ。


夢ならばどれほどよかったでしょう


翌日、学校では早速、そのことが問題となったようだ。

我が家の早めの夕食が終わった頃、担任の先生から電話がかかってきた。
次の週には、いじめをしたらしき生徒が、強要されたのか、謝罪の電話をかけてきた。
けれど、息子の意志は変わらなかった。

さよなら、部活。

謝罪をしてきた生徒が、昔から知っている子だったことは私にとってもショックだった。母親とも部活のサポートをしながらよく話をする関係だった。
さまざまな思いが駆け巡ったが、私はそのすべてを放り出した。
いまは、息子のことだけを考えたい。そう思った。

その日をさかいに、息子は体調を壊していった。

朝は登校が遅くなり、学校に行けば保健室に通うようになった。
1週間に3〜4日は、早退で学校まで迎えに行った。帰りには、気分転換に近くの湖や公園に連れて行った。医者やマッサージにも連れていった。

だが、ある日。
いつものように保健室に迎えに行った。息子はカバンを背負い、のろのろと昇降口に向かって、そして突然、嘔吐した。

私は急いで、保健室に引き返すと先生を呼んだ。ティッシュの箱をもらってきて、彼の手や口元を拭かせ、吐瀉物を片付ける。先生に、ここはいいから、彼を連れて帰ってあげてくださいと言われ、お礼を言いながら息子を車に乗せた。家に向かって運転しながら、私はつぶやくように言った。

「絶対、治してあげるからね。」


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