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倒れた男(Deseo)

今にも死にそうな面持ちの、鎧を身につけた厳つい男が一人ぽつんと地べたに倒れている。
助けを呼べる環境にいるのに助けは何も呼ばず、ただ呆然と仰向けになり空を見上げている。
草原に転がる男の周りは何も無く、空には星空のみが広がっている。

『もしもここで死んだら』

と声も出ずに心だけで考える。

部下は何人かはいれど、助けは求めない。
声をかければ人は集まるが、声もかけない。
遺言書も書く気力は無ければ、致命傷だが少し休めばすぐに回復する可能性が見えるので何も声には出さない。

部下も一人の人間だからこそ、彼は歳を重ねるにつれて誰にも頼れなくなっていた。自分がやるのが早いだの優柔不断でフラフラと考え方が変わる自分が命令するのは、周りを振り回すだの。
自分より弱い奴らや、今悩みを抱えてる者、不調な者にSOSは送れない。更にこんな自分を救う命令など、する価値も無いという自己否定に苛まれていた。

男は過去に、数多の人を動かす凄腕だった。
しかしそれは男の欲望に塗れた動かし方で、今では男は過去の自分のやり方を嫌っている。
だからこんなにボロボロになってもSOSを送らないのだ。

一見馬鹿げた話でもあるが、この世界に来たあなたも。この男と同じ感覚の持ち主なのかもしれない。

男は左胸に手を当てる。

『原因は知っているが、痛い。』

その男が抱え込む原因は己が住まう国の問題であり、小さな問題ではなかった。己が剣を振るえば少しは解決するかもしれないが、暴虐な王の支配下である我が祖国に対して絶望と空虚の念を抱いていた。

男はその場で朽ち果てたのならば楽だと考え目を瞑る。しかし、己の心の中に死ねぬ理由は複数存在していた。

さて、男が死ねぬ理由とは。
なんだろうか。

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