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美術展めぐり

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実際に足を運んで見に行った美術展の感想を書き留めています。
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記事一覧

ちょっと山までアートを撮りに。

今日は天気が良い日曜だったので、電車を乗り継ぎ、みのかも文化の森まで行ってきました。目的は「みのかもannual 2024」。毎年そこで行われている現代美術作家のグループ展で、屋外展示というのがポイントです。今、岡崎市美術博物館で開催中の「ひらいて、むすんで」で作品を出している植松ゆりかさんも参加しているので要チェック。 舞台となる「みのかも文化の森」は、その名の通り森(というか山)の中にあり、とても自然豊かな環境です。その中に、自然を借景にするかのように作品が置かれるとい

ひたすら「いい…」と呟ける場所

ようやく春めいてきたかと思える3月半ば、古川美術館別館の爲三郎記念館で開催中の「Scenery―景色とつながる4つのメソッド」を見てきた。 爲三郎記念館というのは、映画配給会社ヘラルド映画創設者として知られる実業家・古川爲三郎さんの住まいだった数寄屋作りの邸宅を、展示ができるようにした施設。名古屋の池下という高級住宅街の中にあるのだけども、街なかにあるとは思えない立派な庭園を囲むように建てられ、どの部屋からも庭の眺めが見事。部屋の作りも細部まで凝っていて、とても素敵な空間に

「幻の」愛知県博物館とは

最近、美術館へ行くのは取材ばかりになってしまい、なかなかここで紹介する余裕がないのだが、先日、スケジュールの隙をついて愛知県美術館の展示を見てきた。どんな内容かというと「幻の愛知県博物館」。過去に実在した「愛知県博物館」や当時の博物館事情を紹介するという、ニッチな需要を見込んだ展覧会だ。 正直なところ、このテーマで喜んで足を運ぶのは、街歩きのプロか、学芸員資格を取ろうと勉強しているうちに、明治時代の日本の展覧会事情にハマってしまったある意味マニアックな層ぐらいではないかと思

ようやく本丸と対面できた……のかな

清須市はるひ美術館で開催されている「栗木義夫 CULTIVATION―耕す彫刻」を見に行ってきた。開催前にチラシを見かけてから絶対見に行こうと決めていたのに、実際に足を運んだのは終了日前日だったという…(あるある) 栗木氏の作品に初めて出会ったのは、忘れもしない、あの「瀬戸現代美術展」(2019年)だった。その時の展示はちょっと変わっていて、基本的に一人の作家に一部屋のスペースが割り振られていた。栗木氏の場合は、部屋全体がアトリエのようになっていて、ドローイングや作品になる

植物たちの饗宴のおすそ分け

ぽっかりと予定が空いた休日のこと、どこにお出かけしようかと迷って、そうだ久しぶりにヤマザキマザック美術館へ行ってみようと思い立った。この美術館も面白い展示を定期的にやっていて、今回は染色作家・八幡はるみの「Garden」を開催中だった。 ヤマザキマザック美術館というのは、ヤマザキマザックという「機械を作る機械」を製作している会社が母体になっている私設の美術館だ。もともとは、ここの社長がヨーロッパで買い集めた絵画を展示する美術館としてオープンした。得意分野はフランスのロココ時

何かが形をとって生まれるその直前の

最初にお断り この記事に登場する「赤平史香展」は、美術展ナビで紹介させていただきましたが(https://artexhibition.jp/topics/news/20230518-AEJ1390155/)、こちらでは初めて赤平さんの作品と出会い、「これは! 世の中に宣伝したい!」と思った時の、比較的生々しい感想が書かれています。同時開催の「収集された海外の陶磁器」についても触れています。B面的な楽しみ方をしていただけたら幸いです。 GWが終わったあと、久しぶりに雨が降った

静謐さここに極まれり

通勤で公共交通機関を使うようになると、駅に貼ってあるポスターに目が行くようになる。最近、グリーンのバックに描かれた朱色の子鹿のポスターを見かけるようになり、何かと思ったら、名都美術館の特別展「徳岡神泉 -暗暁に輝く星を求めて-」のポスターだった。 日本画は全然詳しくないけれど、名都美術館なら静かに自分のペースで鑑賞ができる。それに仕事を早く切り上げたら行ける場所にあるし、手の届く範囲にあるものはとにかく見ておくと勉強になるかと思って寄ってみた。 平日午後の名都美術館はとて

ウィリアムス・モリスって、タバコの銘柄ぽいなと思っていた

年明け最初の展覧会は、愛知県陶磁美術館にて「アーツ・アンド・クラフツとデザイン」展。 これは告知ポスターを見たときから楽しみにしていた。なにしろ素敵なデザインの数々。工芸品というくくりでまとめることで、陶磁器専門の美術館がデザインの特別展を開いてしまうことも面白くていいなと思っていた。 展示会場に入ると、たちまち植物柄のファブリックデザインに囲まれた。そう、主役は植物や動物や昆虫などなど自然の生き物なのだ。室内にいながらにして庭にいるかのように感じられるデザイン。「心豊かな

アンディ・ウォーホルに「裏側」はあるのか?

はるばる真冬の京都まで出向いて見てきましたよ、「アンディ・ウォーホル・キョウト」展。 展覧会の会場となったのは、京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」。建物自体が大変美しく、現代アートを展示するのにぴったりな空間だった。 平安神宮前にあるこの美術館を訪れるのは二度目。前回は改装前の2009年だった。当時は名称が「京都市美術館」で、重々しい和洋折衷の外観と美しい石造りの内装に感嘆したことをよく覚えている。その後、リニューアルしたという記事をどこかで読んで、ふーん、そうなんだ

四次元ダンジョンの街―常滑

国際芸術祭あいち2022の郊外会場のなかで、最後に訪れた会場が常滑。焼き物の町として、「朱泥」と呼ばれる独特の赤い陶土を生かした急須のほか、土管や植木鉢など生活に欠かせない陶器を生産してきた町だ。 展示が繰り広げられたのは、「やきもの散歩道」と言われる細い道沿いに古い窯や製陶所が入り組んだ一帯で、廃業した施設が多いものの、それらをリノベして新しく店が入っていたりして、なかなか味わい深い観光地となっている。道を歩くだけで興奮MAXになってしまい、作品の印象が薄れてしまったのは

一番初めは…というけれど

国際芸術祭あいちの郊外会場、有松の次は一宮を訪れた。ここは奈良美智や塩田千春など、大物作家による作品があるので、期待と緊張が入り混じっての訪問になった。 まず一宮がなぜ「一宮」と呼ばれるのかというと、 というわけで、一宮では「繊維の町」を意識した展示作品が多かったが、それだけではなく「STILL ALIVE」の本質に迫る作品もまた多く、収穫だった。 会場は旧一宮市立中央看護専門学校やオリナス一宮、市役所などが集まる真清田神社周辺部と、やや離れた尾西エリアに分かれており、今

具象と抽象の間で―ゲルハルト・リヒターを見てきた話―

あいち国際芸術祭の熱狂が過ぎ去り、ふと我に返ると、豊田市美術館で気になる展覧会が開かれていた。1932年にドイツで生まれ、東ドイツから西ドイツへ移動して活動を続けてきた画家、ゲルハルト・リヒターの回顧展だ。 中でも話題性が高いのが《ビルケナウ》というアウシュビッツ収容所をテーマにした作品で、リヒターは何十年にもわたってこの作品に取り組み、ようやく2014年に完成した。この作品に関する解説や画像はすでにネット上にいくつも登場しているが、それらを見るだけでは当然ながらピンと来な

今年はあいトリと呼ばないで(その2)

国際芸術祭あいち2022のメイン会場、愛知県美術館の10F、有松会場に続けて、次は県美術館の8Fを紹介する。これがまた質・量ともに大変なことになっており、全体的な印象としては、10Fが顔だとしたら、8Fは心臓(ハート)にあたるのでは、と思っている。 8Fは映像を活用したインスタレーションや複数のパーツで成り立つ作品が多く、濃い作品が多い一方で、写真で「コレ!」とわかりやすく提示するのが難しい。文章でイメージが伝われば幸いである。 ローリー・アンダーソン & 黄心健(ホアン

伝統とご新規さんと

まだまだ探訪途中の「国際芸術祭あいち2022」、本丸の愛知県美術館の次はどこへ行こうかと少し考えて、有松会場を訪れてみた。場所は名鉄有松駅のすぐ前、かつて東海道が通っていた一帯だ。江戸時代から茶屋集落として栄えただけでなく「有松絞り」という絞り染めの産地としても有名だ。現在は「重要伝統的建造物群保存地区」の指定に続いて日本遺産の認定を受けており、観光に力を入れるようになって久しい。 今回のあいトリ……もとい国際芸術祭では、このようにがっつり歴史のある街を会場に選んでいる。有