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植物たちの饗宴のおすそ分け

ぽっかりと予定が空いた休日のこと、どこにお出かけしようかと迷って、そうだ久しぶりにヤマザキマザック美術館へ行ってみようと思い立った。この美術館も面白い展示を定期的にやっていて、今回は染色作家・八幡はるみの「Garden」を開催中だった。

最初の展示室

ヤマザキマザック美術館というのは、ヤマザキマザックという「機械を作る機械」を製作している会社が母体になっている私設の美術館だ。もともとは、ここの社長がヨーロッパで買い集めた絵画を展示する美術館としてオープンした。得意分野はフランスのロココ時代~印象派、近現代の絵画、そしてエミール・ガレに代表されるアール・ヌーヴォーのガラス作品と家具調度品。はっきり言って、自分の好みのど真ん中を行く。大きなディスク式アンティークオルゴールもあって、これは1日1回実演してくれる。

この美術館の面白いところは、企画展示をするときに、アール・ヌーヴォーの家具セットやガラス工芸品と一緒に作品を展示することで、現代の作品と19世紀末のヨーロッパの家具が不思議な共鳴を起こすことにある。

エミール・ガレの花瓶とその向こうに八幡はるみの染色作品

今回の八幡はるみ展では、植物をモチーフにした作品が多かったこともあり、やはり植物を扱ったアール・ヌーヴォーの工芸品とはとても相性がよく、お互いに引き立てあっていたのがよかった。

そして八幡はるみの作品であるが、これはもうチラシの説明にある通り、染色の枠をぶっちぎって、現代アートと言って差し支えないものがずらりと並んだ。大きな布地の上に、偶然の模様を生かし、大胆に描かれた花々や緑の葉。抽象化された松のデザイン。あるいは布地にデジタルプリントされた植物の拡大写真。さまざまな染色の技法を使って、独特の世界を打ち出している。

色彩を開放し、技術革新に取り組み、あらたな染色の魅力を発信しつづける八幡はるみの、1990年代の創成期から2023年の最新作の展開をお楽しみいただきます。

ヤマザキマザック美術館HPより
豪華な寝室をさらに彩る
植物柄のタペストリー

彼女の作品の前に立つと、まるでむせ返るような湿気と植物の気に満ちたジャングルにいるような錯覚を覚える。花や葉の香り、しめった土の匂い、生ぬるい風まで感じることができ、一種の祝祭的な雰囲気に包まれる。花が咲く喜び、葉が生い茂る力強さ。植物の生命力を寿いでいるかのような強烈なパワーがどの作品からもあふれており、確実に伝染してくる。その一方で、和の伝統を意識したシックな作品もあり、それらは内に秘められた豊かな世界を思わせる。

話は飛ぶが、20世紀が始まって間もない頃、パリではガートルード・スタインという女性コレクターがサロンを開き、そこでは時代の先端をゆく画家や詩人たちが集っていた。彼らは互いに影響を与え合い、キュービズムなどの新しい潮流を作ってゆくのだが、詩人でもあったスタイン女史が創作において何を目指していたかというと、「生命そのもの」を提示することだった。彼女は詩作や小説でそれを行おうと試みたが、八幡はるみの作品を見ていると「ほら、ここに生命の根源的なものが、こんなにもわかりやすく表現されているのよ」と教えてあげたくなる。

このストライプ模様は布の継ぎ合わせではなく、
染めで表現されているのだが、にわかには信じがたい。

最近、優れた工芸作品と接する機会が多く、それらは着々とアートの一員としての地位を確立しつつあるのを感じるし、逆にこれまでアートと言われてきた絵画や立体作品は、素材に関してどんどん自由になり、両者の距離は限りなく近づいていることを感じるのだ。


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