NYCショート vol. 1 / スタバで待つ
いま、スタバにいる。
連絡を待っているんです。
けど「シャワー浴びて、行くところがわかったらまた連絡する。20分位で」と言ってきたのはもう45分前。
40丁目とブロードウェイ。
ここのスタバはオフィスビルの一階にの角にあるから、かなり大きいし、天井が高い。
15メートルはあるように見えるけど、10メートル近くかな。
いま出て行った背の高い男の子と比べ、目安で測ったらその程度だというのがわかった。
店内の奥は、スタンディング・オンリーのテーブルが6卓。
1メートルぐらいの間隔で並んでいる。贅沢な空間の取り方だと思う。
一番奥のテーブルは、スーツを着たアメリカ人。コーヒーとケーキを食べながらラップトップに向かっている。
その次のテーブルにいるのは、セキュリティー・ガードのユニフォームを着た黒人。見たところ、スタバのドリンクじゃないものを飲みながら、携帯をいじっている。
そしてわたしの左側は、アジア系の留学生、かな。マフィンを食べている。
その隣はスペイン系の女性。
彼女の職業は一目でわかった。
裁判や供述録取の時にいる速記係。テーブルに置いてあるラップトップのようなあの独特の機材。足元には小型のキャリーバッグ。間違いない。
最後のテーブルはヨーロッパ系の若者。
携帯をいじりながらサラダを食べている。ドリンクはスタバのだけど、サラダは違うところのような気がする。
なんて言ってるわたしも、実は手にしているこのコーヒーは、スタバのコーヒーだけど、ここのスタバで買ったものではないんだよね。今朝、近所のスタバで買ったもの。
どうせ、どこかで連絡待ちになるだろう。
ならスタバを探してそこで待てばいい。そう思い、また温めて持参した、スタバのコーヒー。
わたしの右隣のテーブルにいる黒人男性が、店員と親しそうに話をし始めた。
顔見知りみたい。
そうか、この人、このビルのセキュリティー・ガードなのかも。
スタバの店員は大体どこでも楽しそうに働いている。サービスもかなり良い。特にマックやタコベルのようなところと比べると雲泥の差。スタバの方が給料が俄然良いし、福利厚生とかいろんな面でも待遇が良いんだろうな。
アメリカって大体そういうもん。わかりやすい。
この店舗に来る客のほとんどは、この辺で働いてる人たちか観光客のようだ。
観光で来ているのに、やっぱりスタバに行きたくなるものだろうか。
「あと20分」と言われてから、そろそろ1時間経つ。
さて、どれだけ待つか。
外は雨だし、一応11時に電話が来る予定なので、とりあえずここでその電話にる。それが終わっても連絡なかったら、昼飯でも食べて、帰るか。
ニューヨークに住んでビジネスをしていると、こうやって人を待ったりすることはよくあるんだよね。けど優秀なビジネスマンは、こんなに人を待たせたり、連絡が途切れるという事は滅多に無い。緊急な時以外は。
そう考えると、この人とのビジネスは良い具合で進まないかもしれないなぁ。けど既に取引先でもあるから、会わない訳にはいかないしなぁ。
そんなふうに思いながら、さて、昼飯どこで食べようかと考え始めた。
「電話に捕まってた。ごめん。ここにいる」
やっと連絡が来た。ここから歩いて15分ぐらいのダイナーか。仕方ないから行くか。
スタバを出た。
目の前に、見たことのないパブリックアートがあったので、写真を撮り、少し歩くと、大柄の黒人男性に、肩を掴まれ引き止められた。
「Why the fuck did you just cut me off!?(なんで、俺の前をあんな風に横切るんだ)」
は!?
あんたの存在にすら気づいてないし、何を!?とすぐに言い返した。
いやいや、お前、俺の目の前をいきなり横切ったじゃないか!?
意味がわからなかった。
大体さ、こんだけ人がいるんだし、前を横切ったもクソもないでしょ。
そう思ったわたしは「なんなら警察に相談する?」と言って、すぐそこに立っている警察官二人を目で指した。
「Man, what a f*ck(なんだそれは)」
あのね、その言葉、そのままあなたに返したいんですけど。
そう言おうとしたところで、その男性は、大きくため息をついて下を向いた。
ごく普通の服装だし、観光客にも見えなかったし、酔ってるとかドラッグでハイになっているという感じでもなかった。
あのさ、身体が接触したとか、そういうことでもないんだし、お互いに時間の無駄だと思うよと説明したら、この男性は、諦めたかのように首を横に振りながら「Never mind(もういいよ)」と言うと、警察官二人とは別の方向に行ってしまった。
目の前を横切られたことが、そんなにカチンときたか。
人生、イライラすること、たくさんあるからね。
けど変にトラブっても、負のスパイラルにハマるだけ。
この国では、警察官の多くはまだ黒人に偏見を持っているのもいるから、トラブルは避けた方がいいんだよね、とわたしが見ていてもそう感じるし。
そう気づいたのか、もういいよ、という決断を直ぐにしたんだから、ちゃんとした人だとは思うんだよね。
ま、頑張ってね。
そう思いながら、取引先が待っているダイナーに向かった。
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