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読書レビュー「風神雷神Juppiter,Aeolus上・下」 原田マハ

初版 2022年11月 PHP文芸文庫

マハさん得意のアートフィクションです。
今回は架空の人物は登場しません。
登場するのはすべて歴史上、実在したとされる登場人物です。
主人公は俵屋宗達。その実像は謎に包まれているそうです。
マハさんはあえてそこに着目したんじゃないかな・・。
同時代に生きていた歴史上の人物、しかし、実際の関りは確認されていない人物たちを
縦横無尽に絡ませていきます。
狩野永徳。織田信長。天正遣欧使節。カラバッジョ。などなど。
いやはや、壮大な歴史ロマン、ファンタジーです。
いや、100%ファンタジーと言い切れないところがまた心憎いです。

・・・以下ネタバレあり・・・ざっとあらすじ説明します。

京都の扇屋「俵屋」の息子、伊三郎は幼いころから、父の仕事の扇の絵付けを手伝い、尋常ならざる才能を発揮した。伊三郎が手掛けた扇が織田信長の手に渡り、気に入られ、12歳の時、安土城に招かれ御前で作画を披露し、「見事」の一言を引き出す。
その褒美として絵師「俵屋宗達」の名を下賜される。
その後、信長の命により狩野永徳の補佐役として「洛中洛外図」の作成に携わる。
永徳も宗達の技量に惚れ込み、養子に迎えたいといわれるものの、信長の命により、
天正遣欧使節に同行してローマに渡りレオナルド・ダビンチの「最後の晩餐」に感銘を受け、若き日のミケランジェロ・カラバッジョと出会い、駆け出し絵師同士としてつかの間の友情をはぐくむ・・・。
という話です。
ちょっと歴史に詳しい人が聞いたなら、そんなバカなというようなお話でしょう。
このような話を裏付ける資料は何一つないとのことですが。
しかし、資料がないからといって100%ありえないとは言い切れません。
もしかしたらあったかもしれない・・・いや、むしろこれこそが歴史の新事実なのではないかとさえ思わされるのは、やはりマハさんの美術造詣の深さの下地あってのことでしょう。
狩野永徳と俵屋宗達が「洛中洛外図」を共作した?カラバッジョと宗達が少年時代に出会い互いに影響を受けあっていた?かも?なんてわくわくするロマンがあるのでしょう!
天正遣欧使節がたどる足跡は歴実に基づいているそうです。
ただ、そんな行動ストーリーはよしとして、内面的ストーリーはちょっとどうだろうと思うところはあります。
話の7割がたは無宗教の宗達が天正遣欧使節のイエズス会の少年たち、宣教師たちと同行し、
長い長い船旅の中で、はじめのうちは反発しながらもやがて理解しあい、友情を深めていく話が核となっています。
いつもながら、よく言えば優しく、温かく、思いやりに溢れた人情物語ですが、
悪く言えば、ぬるく、おめでたい、ご都合主義、予定調和物語ともいえるでしょう。
ただ、ご都合主義、予定調和だからといって、それでリアリティーがないとは言い切れません。現実は厳しいものですが、とんとん拍子に物事がうまくいく時だって、まして若い青春時代の一時期を切り取れば、それは十分ありえるでしょう。
 天正遣欧使節の帰国後の厳しい現実はエピローグの中の2行ほどで示唆されます。

—――歴史は時に残酷である。しかし、だからこそ、人は歴史に学び、先人たちが遺してくれたさまざまな智慧を現在に活かすことができるのだ。
美術は、歴史という大河が過去から現在へと運んでくれたタイムカプセルのようなものだ―――(下巻P389より)

僕がこのような感想レビューを投稿する理由も似たようなところがあります。
人は小説に学び、映画に学び、アニメに学び、先人たちがのこしてくれたさまざまな智慧を現在、未来に活かすことができたらいいよねぇ~
と、そんな気持ちで書いてます。


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