見出し画像

西尾幹二『日本と西欧の五〇〇年史』を読む⑥本書を読んで想起した「現在の光景」

前回からの続きです。

本書は内容そのものが実証に徹する禁欲的な歴史家の筆と異なり、西欧中心史観を根こそぎ斬り倒す大きな史論から触発されることは非常に多く、「歴史から考えるヒント」が満載されています。

「ネタバレ」を避けることもあって、内容から少し離れますが、読み進めながら「ピン」と来て、想起した点を挙げたいと思います。

というのも、本書のもとになった雑誌『正論』での連載は2011年~2016年です。しかも出版された今年とでは西尾先生の病気等から間隔が随分と空いています。そう考えると最近のトピックスは本来なら時系列的にも織り込まれていないのが普通です。

ところが、まるで最近の騒動を「予見」していたかのような、本書の叙述を感じるからです。さらに考え見ると「予見」というより、「西欧の本質を衝いている」からだと思います。

(1)先日のミセスグリーンアップルMV炎上騒動は謝罪の前に本書を読んで欲しい

ちょうど本書発売から数か月も経たないうちに、ロックバンドMrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)が6月に公開した新曲「コロンブス」のミュージックビデオに「人種差別的な表現がある」として炎上しました。私は動画そのものは見れないままでしたが、その後の論評などを興味深く見ています。

私が注目したのは、ロックバンドの子たちが、なにやら勝手に?「名誉白人」のようにコロンブスやベートーベン、ナポレオンに扮している点で、自分たち日本人が「猿」の側に扱われるという発想が全く見られないことです

自分たちが猿の側に扱われた歴史、言い換えると「差別する側ではなくされる側の視点」が教育の場や一般にあまり無いことを示す好例かもしれません。また、SNSで「西洋中心主義の肯定」という批判が散見されたことも注目しました。

しかし、若い歌い手の子たちだけの問題でしょうか。レーベルや広告代理店など関係者の問題だけでしょうか。

むしろ現在の教育界における西欧に寄り添っただけの「西洋中心史観」による世界史教育の結果であり、若い子たちはその犠牲者ではないかとすら私は感じました。

(2)英国の「謝罪騒動」を手本に日本を叱る出羽守が性懲りもなく湧いてくる

先年エリザベス女王の逝去とチャールズ国王の即位があり、英国王室の文化にも注目が集まりました。特に日本の婦人雑誌などが関心を持ったのは王冠のダイヤモンドのようです。

ところが、これが政治的な問題としてインドとの間の問題が浮上していました。フランスのフィガロがしっかり報じています。日本のメディア報道もこの点表面的な報じ方に終始し、掘り下げることはありませんでした。

しかし、これだけでなく、ここ数年で、西欧での「歴史問題」が急速に顕在化しています。

西尾先生がGHQ焚書図書開封10巻『地球侵略の主役イギリス』で指摘していましたが、まさに「予見していたかのように」今次々に英国で炎上中です。

2020年6月にイングランド銀行がapologisesと言った事に驚きました。

それに続いてあのロイズ保険組合まで謝罪という騒動が起きています。これらの背景や論理、根底の発想は充分抑えておく必要があります。

なぜかと言うと、日本でこれを手本に叱る出羽守知識人が性懲りも無くまた出てくるからです。

日経の2015年の記事見て下さい。日本とドイツの相違を相変わらず混同した議論が出てます。

90年代に西尾先生が既に主張し、論破した(はずと私は認識していましたが)ものがまだ燻っていることに不満と苛立ち、そして危うさを感じます。

西欧に先行して(?)90年代に対応したものが再度(再度どころか再々度)蒸し返しになる危惧あり、特に昨今の韓国側の攻勢はこうした西欧の風潮にうまく便乗しており、未だに日韓の2国間問題と考えている日本政府の甘さをまたしても感じます。

(3)本書の「補助線」として「もしトラ」の陰にある米国「文化大革命」とその反発を眺める

さて、3つ目にピンと来たものは、米国での「文化大革命」(私の勝手な命名でなく出所Global Times(環球時報)マルCあるのか知らんけど)があります。

本書のもとになった雑誌『正論』連載開始当時の2011年ごろには、自分としても想像つかなかった変化でアメリカがまだ理解できていない反省もあります。

日本だと、現在進行形の「もしトラ」(「ほぼトラ」?)の表面的な報道が多すぎます。日本のメディアは「分断」の背景をめぐる解説が、何か自主規制しているかのように不十分ではないかと感じます。

なお、アメリカのいわゆる「分断」の現実については西山隆行氏のデータを用いた議論が興味深く、私は参考にしましたが、「歴史の補助線」があるのとないのでは、やはり理解が異なると思います。

特にトランプ大統領のアメリカファーストの考え方について、「関税」など従来の「自由」を重視する考え方と根本的に異質な面がありますが、本書でも紹介されている「純粋」という自己認識の延長と捉えると、理解しやすいのではないか、と仮説を立てて見ているところです。

(4)パリ五輪開会式での「騒ぎ」はフランス革命の本質を曝け出したが西欧史を日本の立場から読み解く良い契機

パリ五輪は、特に開会式が話題になりました。中でも生首が出てきたりにはさすがに驚きました。

特に話題になった生首パフォーマンス。革命と言うより西欧の根底にあるこうした残虐さは知られていいと思います。西尾先生の論壇デビュー作でもこうした西欧の残虐さに触れられていました。(『全集3巻』でも画像が紹介されています)

ところが、興味深いのが、日本でさすがに礼賛するのは無いだろうと思いきや、日本のリベラル系知識人が、礼賛していていました。特に法曹界がやたらにフランス憲法を引き合いに政教関係や人権などで日本を叱る風景の根幹はこれであることを肝に銘じておくべきと思います。

こうしたフランス革命も反革命も双方の残虐さは、地球の片隅で行なわれた西欧の悲劇に過ぎず、これを歴史の基準であるかのような錯覚は、いい加減卒業し、日本の、自分の立場で西欧を見直す良い契機であると思います

本書を読みながら、パリ五輪の開会式を、そんなふうに眺めました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?