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大久保潤・篠原章『沖縄の不都合な真実』は沖縄を考える上で必読の書


SAKISIRUのウェビナーと本書

SAKISIRUの8月の2回目のウェビナーのゲストは篠原章さんです。

SAKISIRUにも多く寄稿され、沖縄の現状についての鋭い論考を出されています。

特に共著の『沖縄の不都合な真実』は8年前で2015年1月末に出版され、直後に読んで余りの惨憺たる状況にため息が出た記憶があります。今回のウェビナーをきっかけに改めて本書を読み直し、感想などを書いてみました。

なお、共著書は日経で沖縄支局長も務められた大久保潤さんです。

章立てと章ごとの執筆分担は以下の通りです。

序章 沖縄はこれからどうなるのか:篠原章
第1章 普天間問題の何が問題なのか:大久保潤
第2章 高まる基地への依存:大久保潤
第3章「基地がなくなれば豊かになる」という神話:篠原章
第4章 広がる格差、深まる分断:大久保潤
第5章「公」による「民」の支配:篠原章
第6章 本土がつくったオキナワイメージ:大久保潤
第7章「沖縄平和運動」の実態と本質:篠原章
第8章 異論を封殺する沖縄のジャーナリズム:篠原章
第9章「構造的沖縄差別論」の危うさ:篠原章

章立てと執筆分担

兵頭二十八氏は「これ一冊読めば誰でも沖縄が嫌いになる、という凄い本」
としています。

私としては「既存マスコミで報道されないものの、読者が実はうすうす感じていた」ことを抉り出した勇気ある問題提起の共著と思います。出版されたのは仲井眞弘多知事(2006年12月~2014年12月)、翁長雄志知事(2015年1月~2018年8月)での任期の端境で出版され、かつ出版から8年経ったのはあっても問題が現在も継続しています

私としては一般の書評で出ている内容とは異なる別の角度での感想にしてみました。

感想(1)沖縄のメンタリティや問題の構図が韓国と類似点が多い

私も韓国語を習得して現地にも滞在したことがあって感じたのですが、気質と言うかメンタリティというか、沖縄と韓国に類似点を多く感じました。歴史的に「中国」の周縁としての影響を受けた共通性もあると思います。見出しから抜粋してみます。

「日本一の階級社会の実態」「琉球大OBという『支配階級』」
革命的な公務員改革だった『琉球処分』」「全国最低の県民所得が意味するもの」「深刻な所得格差

見出し抜粋

基地問題の構図も、韓国では「歴史問題」と置き換えてみると非常に類似の構図ではないか感じました。
①情緒に訴える②左翼を動員して日本のマスコミも煽る③権威主義的な政治で腐敗の構図④権力闘争が好きで一枚岩には決してならない⑤政治的取引に長けている⑥観念論が好きで具体論はあまりせず当事者能力に疑問等々。
韓国については古田博司先生の著作が鋭く突いています。

何も嫌韓ではなく、朝日新聞牧野愛博記者が韓国をルポしています。紙面の韓国ヨイショとえらく差がありますが。私も現地で感じた事そのままです。韓国の貧困の現状と本書の沖縄の現状は似ている面があると感じました。

少し飛躍して、思考してみるのも面白いものです。この構図が形を変えて中朝関係にあるという点で、置き換えて「核とミサイル」を取引でポジションを高める材料にしていると考えると類似の構図でヒントにもなります。

なお蛇足ながら、辺野古の反対デモで私も見慣れたハングル文字や簡体字が散見されてもいます。

感想(2)沖縄での問題を日本の田舎の過激版として見る視点

一方で、沖縄の問題は沖縄特有でもないところがあると思います。これが今回8年ぶりに読み返してみて感じた点です。

SAKISIRUでは減税派の方々もご覧になられていますが、沖縄県庁のHPなどを減税派として見てみると、「無駄遣いの晒し上げアイテム」に減税派が使う「事務事業評価シート」当然のようにありません。事務事業評価について初見の方は滋賀県減税会の方のYouTube見てみてください。

事業評価シートの公開の無いことなどは、本土メディアもなぜ報道しないのか不思議です。事業評価シートだけでなく、行政評価のページでも資料がかなり乱雑で整理もされていません。それだけでなく行革プランも金額が1回も出てこない噴飯モノです。

県知事記者会見もテキストが無く、記者との発言内容や質疑応答の確認など一般人はできません。記者会見も少なくとも玉城デニー現知事の在任期間は全て閲覧できるのが当然ですが、これも数年で消されています(就任当初分は削除されています)。

しかし、これらは沖縄県に限った話でもありません。ここです。和歌山県庁で事業評価をやめていたことがSAKISIRUでも報じられました。

私も田舎在住ですが、篠原さんが著書で指摘されている問題は沖縄県の特殊な環境(地理的位置や歴史的経緯、米軍基地の存在)はあるにしても、沖縄での問題はどこの田舎の県でも程度の差はあるとは言え、見られる現象です。ただ沖縄はそれが余りに鮮明であるのは確かですが。

格差貧困、「公による民の支配」、空疎な経済効果、異論封殺ジャーナリズム、権力べったりの新聞、閉鎖性、補助金、特定学歴の支配階級

沖縄でのキーワード

実際、著書に出てくるキーワードのいくつかは田舎では共通しています。県紙が県庁べったりはどこの県も同じです。「特定学歴の支配階級」は県庁が地方旧帝大や旧制中学高校の同窓会状態を見てみてください。補助金や県庁の事業で喰ってる事業者が幅効かせています。ほか経済状態の項を見ても、「田舎県あるある」がゴロゴロ出てきます。沖縄だけではありません。

地方自治の無駄遣いの惨状に、有権者が無関心でいいはずありません。沖縄の事例は特殊ではなく、「今、そこにある身近な腐敗」でもあります。

感想(3)普天間移設の問題での沖縄側の核心を突いている

そうは言っても、沖縄については米軍基地の問題がやはり大きいものがあります。SAKISIRUでも梶原麻衣子氏が紹介された川名晋史氏(東工大准教授)の著作にも刺激を受けました。機会あればコメントも書きたいところです。

普天間移設については森本敏先生、小川和久先生、守屋武昌の著作があります。森本先生は特に安全保障面からです。沖縄側でなぜ辺野古なのかの核心は記述が甘いところがあるのはやむを得ないかもしれません。

小川和久先生は自身の関与も含め回顧録として書いています。小川先生の著作を読んでもなぜ辺野古の案が出てきたのか理解できなませんでした。小川先生のポジションですら当時もわからなかった闇、もしくは「書けない」闇を感じさせます。

小川先生の指摘の中で、米国の会計監査院(GAO)が辺野古に対する評価として「(基地の抗湛性から)使い物にならない」との指摘がある点は重要です。私も当初海上案と聞いて抗湛性で米軍を良く納得させたものだ感心してましたが、まるで逆でした。

なお、守屋武昌の著作は読みはじめていて自己弁護と防衛省の組織防衛の臭いがプンプンして反吐が出たので読むのをやめました。

これらと異なり、本書は沖縄から見た普天間移設問題について書かれています。ここは非常に重要です。このうち、本書では第一章で沖縄での「キーマン」の存在とその「闇」が明記されていますここはぜひ読んで欲しい部分なので、敢えて抜粋はしません。私の知る範囲ではこの闇に斬り込んだのは本書だけです。

本書と小川和久先生の著作で合わせて読んで感じたのは、「辺野古移設は結局完了しない」という観測です。本書からは沖縄として「普天間移設したら沖縄が困るから」。小川先生の著作で軍事面から「米軍側としては使用できないから」

現在工期12年経費9300億円かかっています。これからも増えます。1兆軽く超えると思います。関空や中部の工期と費用考えてても余りにも長すぎ高すぎます。当初想定の予算規模とどう違ってきたのか。政治としてもコストの検証がされているでしょうか。

沖縄に限らず、日本の行政の問題で「進めている以上は止めようがない、失敗を認められないので進めるしかない、誰がどう決めたか責任の所在もわからない、検証もされていない」の典型的な事例でもあると思います。

何人かの識者が指摘されていますが、汚職事件の可能性は十分あります。逆に辺野古が完成しないうちから汚職事件として出せないだけなのかもしれません。「安全保障での秘匿の聖域」を喰い物にしているだけに断じて許せぬものを感じます。普天間移設を沖縄の問題と考えずに、国民全体で考える必要を痛感します。

感想(4)沖縄での反応について言いたいこと

本書もここまで書けば沖縄から反発もあるとは思います。琉球新報で本書をヘイトスピーチと断ずる批判があり、篠原さんが反論の機会について交渉しましたが断られた経緯も記録として残しておくべき重要な点です。

共著者2名とも沖縄を嫌いで見下して書いたわけではありません。むしろ逆です。国民全体で深刻な沖縄の現状について考えて欲しいという2名の想いは誤解して欲しくないところです。

私は、特に沖縄での利権構造、不正や腐敗に対し強い指弾が全国メディアからもされるべきと思います。なぜなら放置しておくことで「沖縄はいつもああだ、もういいよ。」という静かな突き放しと無関心を怖れるからです。そういう状態が安全保障上の付け入る絶好の隙になることを懸念します。

なお、沖縄の方にも理解していただきたいもう一つ。沖縄を守るための戦いで本土の多くの兵士が戦死していることです。私の親族もその中の1人で平和の礎に名が刻まれています。親族の戦死を無駄にしてはならないからこそ、私も沖縄に関心を持ってみています。この愚見もその一端です。


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