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2015年3月の記事一覧

よしの山

よしの山

さんさんさくら さんさくら

花降る晩に 窓ぎわで

いぶし銀なる 公達が

桜と交わした 契約は

我が身人世の ちぎりなり

彼の人愛す 姫君も
彼の人信ず 許婚も

月日たてども かわりなし

若宮 立てば 山ざくら 

はにかみ隠し よしのやま

花吹雪 風に舞う

さんさんさくら さんさくら

さくらの樹には なにがいる?

よしのの里に なにがある?

我れのみ愛し公達の

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春の水

春の水

凍んだ滴が雲渡り 帳が降りゆく春の夜

萌え霞む山に子規は鳴き 名月照らすよ君の貌

花は落ちて散りゆけど 心に残る美しさ 

青さ増したり春の水

涙流れろ笹船に 憩う一夜の恨めしさ

思い乱れ浮かぶれば 水かさ増して淵となる

梅園にて

梅園にて

紅梅が藍滲み 山が月を背負えば
つかの間に過ぎ行く夜に合わせて
花弁を落とす白梅達

傾ぐ地で天を仰ぐ枝から
花舞う様を眺めれば
駄弁は月光に当たって砕け散り
春の息遣いが山里にそっと桜を添えてゆく

手放すこと

手放すこと

心のフォーカスが当たる場所

はじける笑顔

心のフォーカスがぶれた時

胸を刺す痛み

心のフォーカスを向けるから

どうか顔をあげて

銀河のハロー

見上げれば大きく広がるカラフルでハッピーな渦巻達

月を半分にして眺めると

芽吹いた枝が揺れて星を指す

輝く影に浮かぶかけらをポケットに入れて

口笛を吹きながら帰る春の宵に

裏腹な心がそっと映る

内と外で逆巻く思いも

あしたにはきっと素直になれるはず

お休みなさい

貴婦人

貴婦人

残雪 白く北の国 谷間を南に渡る君
青き裾を翻し 揺れる景色が目に沁みる

寄せ木細工の温もりと 君が薫りの切なさに
待ちける人へ届けよと 走らす筆の黒き筋

陽気さ湛えたゴンドラと 旅立ち見守る瞳には 
茜落ちて夕闇に 来る日の焔揺らめいて

月が登って銀の街 

君を探して幾星霜

水面に映る約束を 

すくって飲むよ金の杯

そらのひ

そらのひ

オレンジ色の時が拡がって

朗らかに 蕾は膨らんで空を見上げてる

寒さに磨かれた葉に息を吹きかけて

顔を映せば

後ろから訪れる春の音

森の出口はすぐそこだけれど

あと少しだけここに居て 冬の足跡を眺めていたい

あめたま

あめたま

 
雨が降ります ポツポツと

重なる滴は水色で 君のコートは水玉に

雨が降ります しずしずと

濡れた黒髪艶ややかに 春の薫りが登りたつ

雨が降ります しとしとと

白い簾の間から 桃色の花が揺れている

優しい雨を受けながら 君が帰りを待っている 

可愛いあの子に何あげよ

弾けるリズムに合わせれば

はやる気持ちが脚に出る

傘の下で胸はずむ 私の心は光る珠

遠い日の記憶

遠い日の記憶

満ち足りた光の中で産声を上げ

この世の冷たさに驚いて 泣き始めたころ

僕らは源の記憶から遠ざかり始めた

空は歌い

山は答え

雲の上から 生まれてくる家を決めた日に

遠くから聞こえてきた あの歌が

もう一度聞きたい

青い夜に

青い夜に

悲しみをろ過して 透き通った羽根を着けよう

キラキラとまたたき 空にはばたくそれを見送って

木々はやさしくそよぎ、風は記憶を語るよ

彼方から星々が去来し

銀色の月が 群青の湖面を滑る夜

さざ波が走ると 胸に小さな痛みを感じるだろう

記憶の水面に 浮かぶのは 金の鍵

砕けないよう そっと受け取って

あの日の自分へと還る私の背には 羽根がある。

雪虫

雪虫

 
舞う姿に時忘れ

吹いて散り 降りては積もる

白き積寂の下には春来れり

我が想いも融ける日を待つ

日輪から吹く風

日輪から吹く風

薪が醸し出す薄闇が 香ばしく部屋を包むと

鍋蓋のリズムが 子供たちの眠りを誘い

大人達は遠い日の記憶を呼び起こす

炎が紡ぐ親密な時は 全てを赤く染めあげて 

しんしんと冷えた空にオーロラを呼び 数え切れない星が夜空を飾る

思い出に寄り添って 凍てついた夜に身をさらすと

光を見届けた僕の瞳には日輪が宿り

音ひとつ鳴らない冬の中へ 太陽から最後のメッセージが届く
 

夜に思う

夜に思う

赤い月 
ぷかりと浮かぶビルの間に
タップを刻み手を叩け
浮き世の終わりの愉しさよ

橋の下 
川面に映るは懐かしの
街の灯揺れて煌めかし
昔は永久に思えたものを

耳を射つ 
トランペットが哀しいと
窓開ける背の愛しさを
一人寝の夜に抱き寄せる

いのち。

いのち。

記憶が追憶となり 風化すると

雨がやさしくふり注ぎ

川となって やがて海へと還る

海に悲しみがあふれても

魚たちは 喜びを知ると

時折飛び跳ねては 命の躍動を見せ

生の力は 悲しみを乗り越えて

喜びを噛みしめ 今日を歩く糧となる