『自分の好きな分人が活躍する社会 Vtuberという体験』 【株式会社コルク代表取締役 佐渡島庸平氏 京都大学寄附講義から】
自分の好きな分人が活躍する社会
今日ここにいる皆さんが、必ずしも自分の人生に満足しているかどうかはわかりません。しかし、これまで話したように家族、友達、職場、アルバイト先で、必ず皆さんの分人が構成されているはずです。
でも、どの分人にも自分で好きになれる分人がいない。
そのときにVR (Virtual Realityバーチャルリアリティ、仮想現実。コンピュータで作られた三次元空間を、視覚をはじめとする感覚をとおして疑似体験できる技術、以下VR)空間で新しい分人を持つと、全然違う人生が待っているかもしれません。
それぐらい今のVR空間は、すごい世界が広がっていて、無茶苦茶、面白いことになっているのです。
僕は今、VTuberの世界でも分人をもっています。
YouTubeで「ドラゴン桜 桜木」と検索してもらうと『ドラゴン桜』のチャンネルが出てきます。そこで僕がVTuberになって、週に2,3時間、体中にモーションキャプチャーをつけて自分のアバターである桜木が、どうやったら東京大学に入ることができるのか、東大受験におススメの本を紹介したりしています。
実際に東京大学の国語の問題を僕が解くなどの実況中継もやっています。
この間、小学生を相手に桜木として講演を行いましたが、とても大変でした。
というのは、僕は普段、何もスライドを用意せずに講演をすることが多いのです。
内容も決めずに約三時間どうやって話すのかというと、会場全体で3カ所ぐらいエリアを決めて、そこに6人ぐらい見る人を決めます。その人たちの表情を見ながら話す内容をどんどん変えていくというスタイルです。
そんなことができるのも佐渡島庸平としての経験を積んでいるからなのです。
桜木のような教育講演も日本全国でたくさん行っていて、勉強法や子どもとの接し方までありとあらゆるテーマでメモなしで話すことができます。
ところが、いざ桜木というVTuberを身にまとうと、桜木的なしゃべり方をしないといけないわけですよね。とても緊張して、何を話せばいいのか分からなくなってしまいました。予めメモを用意していたのですが、そのメモをそのまま話してしまうという結果になりました。
要するに自分の人生がVTuberになるとリセットされることを実感をしたんです。これはおもしろい経験でしたね。
VRの空間にはVRChatという機能もあります。
アバター同士が集まって会話をすることができます。
VR空間だから、どんな格好でも選べて見かけも自由です。
男性だけど女性のアバターの場合もあるし、その逆もあります。見かけだけでなく、大きさまで全部自由。だから、とても小さな人もいます。
他人から、かわいい人と思われたいと思うと、アバターの見かけが、どんどん小さくなっていく傾向があるようです。強い人と思われたい人は、鎧を着けた大きな人になったり、勇ましく話をしたり。その人の欲望みたいなものがアバターとして表現される。
だから、小さくてかわいいと思うアバターは、現実ではひげを生やした50歳のおっさんかもしれません。しかし、その男性も「●●さんの仕草はかわいいですね」なんて言われると、欲望が満たされて大喜びとなってしまうのです。
こうした世界の中では、現実世界の人生の経験がリセットされ、自分の欲望や無意識が反映された形で象徴的なアバターの見た目のなかに入り込んでくるわけです。
そうした空間の中での、他人との関係性の築き方は、ここで皆さんが経験している人間関係の築き方と全く違っています。
例えばTwitterだと、相手のTwitterの発言を普段からずっと見ているから、相手がどういう思考法をするのかはだいたい把握できますよね。で、興味が深まれば、あなたの考え方を詳しく聞かせてくださいと連絡をとることもあります。
最近では、僕が親しくなる人のほとんどが、Twitterで出会った人ですよ。それくらい、人と人との出会い方は変わってきていますね。
オンラインで出会って、オンラインで信頼できた人とだけ、オフラインで会う。オンラインだったら無限につながることできるわけです。人生のあり方も、これからまったく違ったものになるでしょうね。
本質的な自分は現実の自分とは限らない
中国人と話していて衝撃を受けたことがあります。
いま日本の社会では、外出するとき化粧するのが当たり前になっていますよね。
オフラインで会うときに化粧するのが自然と思うわけです。
でも、これからの世の中、オンラインで出会ってからオフラインで出会うことになることが多くなるわけです。オンラインで出会う時間が長くなると、自分は相手に見られている意識がなくても相手は自分の顔を見ているわけです。
だから最近の中国の若い人たちは、オンラインに載せているプロフィール写真はかなり加工をした写真を使うのです。そうじゃないと失礼だと、マナー違反だというのです。この感覚が生まれだしている。そういう変化が起きているのです。
VRの話で言うと、VRのアバターを使ったほうが、より本質的な自分であると感じている人が出てきているということですよね。
何が自分なのか。オンラインの中の自分とオフラインの中の自分、どちらの自分がより本当らしいのか。そういった感覚がすべて変わってきている時代なのです。
皆さんの世代だったら、そこを早く体験、経験して、理解していって、そちら側で、どういうふうな変化が起きてくるのかを知っておくことをオススメします。そのほうが、これからの時代を面白く過ごせるのではないかと思います。
僕の周りにいるベンチャー経営者たちが何をしているかというと、今、流行っていることが5年後、10年後に社会に普遍化するかもしれないと考えているから、それを自分がいち早く先に経験して、使ってみて、それが本当に来るのかどうかを見極めているんです。
自分の体と自分の精神を実験台にしていち早く見極める。そういうことを、常日頃やっていて、お互いに情報交換をしています。
なので、皆さんも何かやってみて、自分の感覚がどう変わるのかを挑戦をしてみるといいと思います。