見出し画像

テキサス・インスツルメンツはなぜ強いのか 【 京都大学特別講義から】

3回に分けてお送りしてきた奥野講義も今回で最後です。

最終回は、前回お話ししたNVICの投資条件を満たす「構造的に強靭な企業®」の事例、そして最も伝えたい「投資の意味とは?」についてです。

テキサス・インスツルメンツへの投資

アメリカのテキサス・インスツルメンツ(以下、「TI」)という会社、ほとんどの人は聞いたことがないかもしれませんが、必ず皆さんのパソコンだとかテレビだとかスマホだとかに入っています。

何を作ってるのかというと、半導体のアナログチップです。
例えばスマホありますよね。
こういうものの中の全ての情報は0/1のデジタル情報です。
コンピューターが演算する時っていうのは0/1なんです。

でも0/1が何個並んでるなって、人間は全然分かりません。
人間が知覚できるのは、音の情報であるとか光の情報であるとか全てアナログ情報なんですね。0/1ではありえない。

スマホで喋る時に、喋った音というのがアナログ情報です。
アナログ情報をデジタル情報に変えます。0/1に変えるわけですね。

それでスマホの中で演算されて出てくる時はまた音になってないとダメなんです。今度はデジタルをアナログに変えるわけです。

この変換に使われるのがアナログチップです。世界のアナログチップのうちの2割はTIが作っています。

これね、面白いんですよ。

半導体市場って全体でみると、当然ながら世界の成長と共に大きくなっています。
リーマンショックの後一時的に縮んだりはしていますが、基本的に市場全体として右肩上がりです。

でも半導体にも色々あって、情報を貯めておくメモリとか、計算をするマイクロとかロジックとか色々あるんですが、その時々で流行る種類があるんですよ。

iPhoneが流行る時とかゲーム機が流行る時とか色々ありますよね。
だから結構流行り廃りがあります。

【図4:半導体市場の構成比】
画像1

それぞれ全体を100とした時の比率ですが(図4)、結構バタバタしてます。でもアナログチップっていうのは常に13-14%。

これ考えてみればその通りで結局人が使うからなんですよね。
0/1で完結するものって基本的にないんです。最終的に人が使うものだから当然アナログチップは必要なわけです。

そういったアナログチップの中で世界一の18%のシェアを持っています。二位の人たちっていうのは8%以下、半分以下です。

さっきちょっと言い忘れましたけど、この会社と戦っても仕方ないなと思わせる競争優位性といった時にですね、重要なのは相手が弱いってことなんです。

自分がどんなに強くても相手も結構強かったら勝つのは難しいじゃないですか。例えば携帯電話キャリア、いくつかありますが、誰が一番強いかなんてもはや分からないじゃないですか。

それぐらい拮抗してますよね。
明らかに強い人が一人いると最初から勝負が決まるんです。

画像2

テキサス・インスツルメンツの強さはなにか

TIには二年前に初めて訪問して、その後からずっと投資しているんですけど、今年の二月にも訪問してすごく面白かったのがTI.comの話です。

アナログチップ専用のeコマースサイトです。
顧客企業のエンジニアが自分で検索して買うんです。
検索ワードを入れるとニーズに合ったデバイスを提案してくれます。

僕はこのTI.comの話を聞いた時にこれはB2Bの世界のAmazonみたいなものだなという風に理解しました。

アナログチップっていろんなものに使われるんですが、例えば車の中にもたくさん使われます。

車の中の電気系統の部品を作ってる会社の世界の巨塔があるんですけども、ドイツのボッシュと日本のデンソーです。この二つがあります。

なんでこんな説明をしているかというと、デンソーの中で新しいウィンカーの開発が始まったという事実に、デンソー以外で最初に気づくのは実はTIです。

なぜかというと彼らは18%のシェア、ほとんど全ての種類のアナログチップを持っています。その数、実に10万点です。

だからデンソーが新しいウィンカーを開発したいと思った時には、デンソーのエンジニアは必ずTI.comに行くわけです。

TI.comではデンソーのこのエンジニアが5分以上この種類の製品を見ているっていうのを自動的にアルゴリズムで判断をして、日本のデンソーのこのオフィスのこのフロアで新しいウィンカーを開発し始めたかもしれない、ということを最初に察知します。

察知してそのあと自動的にウィンカーに使うであろうアナログチップの推奨をそのエンジニアのところに飛ばします。
と同時にデンソー担当の営業部隊もそれを見ながらどこに重点的に営業に行くべきなのかということを考えていきます。

ただ、実際に採用されるかどうかはコンペティションになります。

アナログチップが100あれば、この部分はTIにして、この部分は競合のアナログデバイセズにしましょうみたいな形になるんですけど、これもTI.comのデータで統計が取れてるんです。

このチップだったら9割方勝てる、このチップは勝率10%未満です、とか全部計算できるんですね。その中で例えば10%未満の勝率のものなんていうのはもう営業しませんと。

なぜならTIのレベルの技術をもってしても勝てないっていうのは技術以外の要因で最初から勝負が決まってるからだと。

そんなところに注力しても仕方ないということです。

それから9割以上勝つところ。ここについても一生懸命セールスしません。そんなことしなくてもどうせ勝てるんだから。

というようにセールスが効率的に動けるようにするというのがTI.comの面白いところですね。

それと同時にデンソーでこういうウィンカーの開発が始まったならボッシュでも同じようなウィンカーが開発されるだろうということでボッシュにも営業をかけます。

恐ろしいですよね。
ある意味スパイみたいでしょ。

でも、デンソーが「じゃあTI.com使うの止めよ」って言ったらデンソー自身が開発スピードでボッシュに負けるんですよ。
ビジネスは戦いですからね。

この話を聞いた時に18%のマーケットシェアっていうのが、ちょっと目をつぶったら、普通に倍くらいになっている姿というのが、これが5年後なのか10年後なのか知りませんけど、想像できるんですよ。

僕は自信満々に話しますが、あくまで仮説ですからね。想像です。

その想像力、倍のシェアになるだろうと思ったとして、それを疎外するものが何なのかということをロジカルに考えて一つ一つ潰していくのが、僕にとっての投資なんです。

次の決算が良さそうとか、誰かが売ったとか買ったとかね、「これ来ますよ」みたいなそういう話を先取りすることじゃないです。

目をつぶってジッと考える。
と同時にそれが本当にそうなのかっていうのを、その会社だけじゃなくて競合企業にも行って確かめる。世界中どこへでも行きます。自分の足を使ってね。

このアナログチップって1個大体30セント。
日本円で言うと30円ちょっとです。ものすごく安いです。

30円のものを作って売って粗利、原材料の部分を引いた部分でどれだけ儲かってるかというと、驚異の65%ですよ。
日本のメーカーの平均って多分どういっても40%以下じゃないかな。30%もないかもしれない。

作ってるものが全然違うんで、普通に比べるのは無理かもしれませんが、30円のものつくって65%利益が出ているなんて、しかも会社に言わせるとまだ上げられますよと。

粗利がずーっと上がってきてます。営業利益率で4割超えてます。株価こんな感じです(図5)。

【図5:TIの業績と株価の推移】
画像3

画像4

「投資」の意味とは?

こんなビジネスを見つけてしまうと売りたくないでしょう?っていうことです。逆に下がったら買いたいでしょう?

トランプさんが何か言って株価が下がることもあります。それはもう「ありがとうございます!」っていう感じですよね。トランプさんが何を言うかなんて全然分かんないですね。それは予想できないじゃないですか。

無理なことを頑張ってやろうとするのは人間ものすごいストレスがたまるわけですよ。それよりは自分のできることをコツコツとやる。これが大事だと思っているところです。
これが僕たちの投資のやり方です。

「それって結局金儲けやんけ」って?
「そうです。金儲けですよ」と僕は言います。

でも、僕たちが投資している会社がそれだけ儲かり続けるというのは一体どういうことなのか。
僕たちがお金を投資して、将来返ってくるものっていうのは僕の中ではその株を売却したお金じゃないです。

できることならTIを100%買ってずっと持ちたいです。
そうすれば誰から見ても「オーナー」ですが、普通そんなことはありえないですね。

でも例え話として、100%TIを買ったとすると、TIがアナログチップを売って利益をあげました。その利益は全て「オーナー」のものです。

僕たちは何を買っているのか。株券を買っているわけじゃないです。その会社の営業利益を買っているんです。
それが営業利益の100%か1%かの違いだけです。

じゃあその会社が儲かる、営業利益をあげられるというのは一体どういうことか。

さっきのディズニーの例でもそうですけど、お客さんの問題を解決しているんですね。

例えばディズニーは、「デートでどこへ行ったら彼女は喜んでくれるかな?」っていう人の問題を解決するわけですよ。

やっぱりディズニーランドのあの門を入った時の高揚感ってすごくないですか?って僕自身が興奮してもしょうがないですけど。
やっぱりすごいなと思うわけですよ。ミッキーマウスってすごいですよね。

世界中の人がミッキーマウスのTシャツとかキーホルダーとかクレジットカードとか使ってます。スターウォーズの新作が出たら普通に見に行きますしね。

画像5

その会社にとって利益が出るというのは一体何かと言うと、一所懸命コストを削って安く物を作ってるわけではないです。

利益があがるのは、お客さんにとっての問題を解決しているからなんです。

ここが一番重要なところです。

それを大きく捉えると社会の問題を解決しているということなんですね。ずっと利益を出し続けるということは社会の問題を解決し続けているということなんです。

僕たちは永久にそういう企業のビジネスを持つんだと思っているわけです。

それが本当に上手くいったら、僕たちは結果的に儲かるし、社会の問題も解決している。これこそが資本主義だと僕は思っているんです。

例えばボランティアだって社会の問題を解決する一つのやり方です。
でも、自分でもできる、他の人でもできるボランティアをやったって1の投入に対して1のリターンです。

自分たちにしかできないやり方で社会の問題を解決した時に0から1が作られます。

その1を資本の力を使って、効率的に10にし、100にする。
そうやって効率的に物事の解決をするために近代最大の発明が行われたわけです。

それが資本主義です。

もちろん色々問題もあります。貧富の問題とか、環境汚染とか。
それはそれで解決しなきゃいけません。

でもそもそも経済活動を止めて社会主義になるんだったら、それはそれで一つの解決なんでしょうけど、そうではない資本主義というシステムが歴史的に作られてきたということをちゃんと理解するべきだろうという風に思っています。

【図6:「投資」を通じた社会参加】画像6

最後に

今回の講義をまとめると、
投資って売り買いすることじゃないですよっていうのがまず一つ。

それから投資というものを本質的に捉えると、表面上はお金儲けの話だとしてもそれは社会の問題を解決する資本主義の根幹なんだってこと。

それからもっと広義に投資という概念を捉えて日々生活しましょうと。

社会に出たら個人でこのサイクルを回すしかありません。

その中で、それぞれ方向性を同じくする人たちというのが集まります。集合体になります。企業っていうのはその一つの形です。

基本的に人と人が集まるのは、きつい言い方すると能力です。
もうちょっとふわっとした言い方すると人間力です。

個々の能力にみんなが惹かれ合う。
みんなが集まって1+1が3になる、4になる。
一人でやるよりもたくさんの人でやる。
同じ志を持つ人たちでやる。
この方が効率的に物事を解決できると思っています。