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お気に入りの記事まとめ

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好きだな、とか、また読みたいな、と思った記事たちをブックマーク代わりにまとめています。どの記事もとっても素敵なので、良かったら見てください。
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2021年10月の記事一覧

命の恩人

 危機一髪のところで救われた。首の皮一枚とはまさにこのこと。本当にギリギリのところだった。あと一歩で命を落とすところだった。紙一重、奇跡と言って差し支えない。その人がいなければ、いまごろお陀仏、これはあの世で語るという趣向のものになっていたことだろう。その人は紛れもない命の恩人である。 「助かりました。ありがとうございます」わたしは冷や汗でぐっしょりになりながらその命の恩人に礼を言った。 「いや、礼には及ばんよ」命の恩人は服についたホコリを払いながら言った。「まったく、礼には

結婚すると思ってた

「結婚すると思ってた」と、ぼくと彼女の共通の友人はぼくに言った。彼女の結婚の報せを聞いたのだという。彼女の結婚であり、ぼくの結婚ではない。ぼくはまだ当分独身が続きそうな塩梅だった。 「結婚すると思ってた」と、友人は言った。 「どういうこと?」ぼくは尋ねた。 「いや」と、彼は頭を掻きながら、なんだか少し言いにくそうに言うのだった。「お前と彼女が、結婚するんじゃないかと思ってた」 「付き合ったこともないよ」と、ぼくは笑った。 「いや、なんとなくさ」  確かに、ぼくと彼女は仲の良い

母の不思議な肉料理

わたしの母は、特に料理が上手いということはない。 だけど、一般に「家庭料理」とされているものはたいてい作ることができたし、調理に関しての、ちょっとしたコツを知っていたりもした。 母は元祖「ホームワーキング」の人で、自宅でずっと働いていたのに、よくそんな時間があったなぁ…と思うくらい、食事はきちんと出してくれていた。 とはいえ、母と子ども(わたしと弟)だけの食事(たとえば土曜や夏休みのお昼ごはん)には、インスタントラーメン、アルミ鍋に入ったでき合いのうどん、残ったごはんを

記事の企画を立てるにはどうしたらいい? フリーライターの頭の中身、ぜんぶ見せます

こんにちは、フリーライターの少年Bです。 ライターとして最も大切なことはなんでしょう。文章力……はそりゃもちろん最低限必要ですが、個人的には「いかにいい企画を出せるか」だと思います。そこで、今回は企画の立てかたについて書いていきます。 ライターに求められるものとは?そもそも、フリーライターって何のために仕事をしているんでしょう。いろいろ考えはあると思いますが、個人的には「メディアの価値を上げること」だと思っています。 そもそも、メディアは何のためにあるか、考えたことはあ

【“それくらいで”なんて、そんな言葉で他者の痛みを片づけていいわけがなかった】

自分以外の人間の痛みに、ひどく鈍感だった。 誰かの痛みに躊躇いなく「No」を突きつける。過去、私はそういう人間だった。他者の悲鳴を耳にするたび、「これくらいで」と思っていた。10代の終わり頃、私は自分の痛みを武器に、無意識で人を殴っていた。 * 虐待サバイバーである私は、過酷な原体験ゆえに心身に数多くの支障を抱えている。主にメンタル面がうまくコントロールできず、時々欠ける記憶にも振り回され、日常生活や人間関係を維持するために多大な労力を要する。 昨年、主治医から解離性

モスクワの黄金の秋

紅葉ではなく、黄葉のモスクワからお届けします。 10月3日の日曜日。珍しく快晴だったので、予定を変更して、近所の公園へ黄金の秋を見に行ってきました。 近所の公園と言っても、ディズニーランドとディズニーシーを合わせたのと同じくらいの広さです。広すぎて、密になる心配はありませんが、迷子になる心配があるので、いつも歩くコースにしました。 これは、公園へ行くまでの遊歩道です。カエデの木です。 ナナカマドの葉は、赤くなります。 場所によっては、まだ緑のナナカマドもありました。

メタマテリアルから考える今後10年の設計のゆくえ

本稿の概要 本稿では人類が新たに獲得しようとしている設計対象としてメタマテリアルを紹介し、メタマテリアルが新たに開拓する設計手法や製造業の進化を展望します。まずメタマテリアルとは何かについて述べ、その後メタマテリアルを産業に適用するための課題を述べます。その後、メタマテリアルを設計するためにはどのようなコンセプトや手法が必要なのかを述べ、今後の設計の在り方について展望します。 メタマテリアルとは何か? メタマテリアルという用語にはいくつかの定義が存在しますが、最も広い意味で

男爵

 電車に乗っていると時折、上向き口をポッカリ開けて寝入っている人を見掛けるでしょう?そういった人が幸せか幸せでないかはさておき、電車に乗り、吊革に手をかけて目の前に座っている人を何気なく見たら、おじさんがまさにそんな具合に眠っていたのです。スーピースーピー寝息を立てて。その様子をなんとなくボンヤリと見ていたのです。特にその暗く開いた口元を。ちょうど手持ちの本を読み終えてしまって、何もすることが無かったにしても、なぜそんなものを見ていたのかは自分でもわかりません。別に見ていても

妖精のいる風景

 むかしむかし。  ある領主のところから金が盗まれた。強欲で吝嗇で残忍なことで有名な領主である。噂は国中に広まっていたから、どんなとんまな旅人もそこを通るような馬鹿な真似はしなかった。うっかり領主に借りでも作ろうものなら、それをネタに死ぬまで搾り取られることだろう。現にそこに住むものはその祖先がその領主およびその祖先になにか借りを作ってしまったものたちである。領主は代々強欲で吝嗇で残忍で、そこから逃げ出そうものなら殺され木に吊るされることになるだろう。  そんな領主の金を盗ん