The Beatles 全曲解説 Vol.51 〜Things We Said Today
どこか冷めた表情は自身のもの? “Things We Said Today”
『A Hard Day’s Night』10曲目(B面3曲目)。
ポールの作品で、リードボーカルもポールが務めます。
この時期のポールには、ジェーン・アッシャーという良家出身のパートナーがいたことには既に触れました。
この曲は、忙しいライブ活動の合間にジェーンと休暇に出かけたポールが、カリブ海に浮かべたプライベートボートの上で書かれたと言われています。
現代のイメージで言えば、カリブ海の上で書かれたラブソングなんて、きっとたいそうアイリーでロマンチックなものなんだろうな、と思ってしまうでしょう。
ところが、そんな期待はイントロの陰鬱な「ジャカジャーン」で脆くも露と消えてしまいます。
この深刻そうなイントロに引きずられるように、曲は一貫して、どことなく暗い表情が続きます。
歌詞を見てみると、
「Someday when I’m lonely, wishing you weren’t so far away 孤独を感じる時は願うよ、君が近くにいるように / Then I will remenber things we said today そして思い出すのさ、君と今日誓ったことを」
と、真っ直ぐな愛情を示す歌詞が続く一方で、
「These days such a kind girl seems so hard to find 近頃じゃこんな娘はなかなか見つからないようだ」
という一節のような、どこか他人事で冷めたような言葉もふっと現れます。
この頃の関係者の言葉によると、ポールとジェーンは表向きは良いカップルであったものの、実際はあまり仲が良くなかったと言われています。
お互いが音楽家・女優としての自分のキャリアに熱心だったのに加え、結婚前のポールはかなりの浮気性だったそうです。
そういった不満が重なり、数年後にジェーンはポールに愛想を尽かしてしまうのですが、ポールの側も、彼女との関係にどこか満たされないものを感じていたのかもしれません。
恋愛においては誰しもありますよね。相手に不満は無いんだけれども、どこか心ここに在らずというやつ(笑)。
ポールはジョンに比べて、自分の楽曲に自分の感情を込めることはあまりありません。
一方でこの曲には、若かったポールの複雑な心境が、図らずも非常によく現れています。
ポールにしては珍しく、3テイクであっさりレコーディングを済ませてしまったそうです。
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