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【香港】見慣れた街がデモで覆い尽くされた報道に接して


◼︎滞在当時のことを、思い出してみる

21世紀の始めの10年くらい、香港・広東省に深く関わっていた。

「東洋に西洋を注射してできた街」それが、私の第一印象だった。

彼の地では異質である英国流の法体系の下、世界中から企業が集まって、中国を世界に開くゲートウェイとしての役割を果たしてきたことが、香港の誇りだと感じていた。

香港が返還されることになって、不安を感じた市民が英連邦のカナダやニュージーランドなどの国々に移住する動きもあった。

その後、思ったほど混乱はないと戻って来た人もいたようだが、多くの人は、中国が力をつけたことで返還後の香港の地位が相対的に低下していることに、危機感を覚えているだろう。

◼︎目の前で感じていた大きな変化

返還から10年後、人民元の価値は香港ドルを逆転し、その勢いは止まらず更に4年後には中国のGDPは日本を抜いて世界第2位となった。

あっという間に、中国は香港に押し寄せてきた。

粉ミルクや不動産や産科の予約やらが買い占められ、規制が導入されるまで混乱は続いた。大陸から観光バスで直接乗りつけてくる大勢の買い物客は、人民元が使えるようになったお店で、北京語を話す香港人の店員によって、なんら不自由のない応対を受けられる。

路上にあまりゴミの落ちてない香港市街だが、免税店の前にたむろしてた客が投げ捨てたチラシやクーポンが散らかっている光景は、日本人から見ても残念な感じだ。

香港の空港から市内へ向かう高速道路は、巨大なコンテナヤードの横を通り抜ける。

中国で作られたものが一度ここに集積され香港から出荷されるので、ここはコンテナの取扱量が長く世界一であった。しかし、いつのまにか深圳から直接出荷できる仕組みができて、物流や商流の中抜きも進んだ。

外注先だった中国でもできることが増え、人件費は上昇したが、同時に労働力の質も向上した。香港人の就職先や居住地としても、国境の向こう側が選ばれるようにもなった。

大抵のことは自前でできるようになった今、中国は、もはや香港が特別行政区である必要はないと考えていても不思議ではない。

◼︎大国の思惑と750万人の都市国家の行く末

趙紫陽総書記とサッチャー首相両首脳が、一国両制(一国二制度)と港人治港(香港人が香港を統治する)を約した中英連合声明を出したのが1984年。それを50年維持するとしたのは、その先の香港の在り方を次の世代に託す、という解釈で、社会不安を回避させたかったのかもしれない。

18世紀になって東インド会社で力を得た英国は、100年くらいに渡ってアジアの盟主にインド産のアヘンを密輸させた上に、銀を根こそぎ巻き上げ、経済を混乱に陥れて、そこに住む人間そのものを荒廃させた。

香港はその挙句に奪われた地であり、その次の100年が経ってようやく元の国に戻ってきた。歴史に翻弄されるとは、こういうことだろう。

中国はその後日本にも敗れたが、次の大戦では戦勝国となり、内戦や革命を経て強力な権力構造を確立、やがて大金持ちにもなっていった。

英国にとって、英連邦から香港が離脱しても大勢に影響はないだろう。香港はこれまでに英国に多大な利益をもたらし大きな貢献をした。それより、借りてた部分に割譲してた(小さな)ところも含めて返します。とした方が、小さな島にユニオンジャックを掲げ続けることの意味より大きいと判断したと思われる。

◼︎次の世代は何を思うだろう

やられた方は、やられた事を忘れない。(ただ、それをやたら振りかざすのは、みっともない。)どの国々も、長い歴史の中で多かれ少なかれ被害者と加害者の両方の面を持ち合わせているものだ。それは、対外的な戦争だけでなく国内への弾圧も含まれる。

1989年の天安門事件後、趙紫陽は失脚した。あの事件も、あの約束も、世代が交代していくに従って何も無かったことにできる。もしかしたら、世界最古の文明から脈々と続く長大な歴史の中で、そのような考え方が培われてきたのだろうか?

実際に、もっと内陸のどこかで何が起きているのか、我々はあまりよく知らない。しかし、どこかしら身内で繋がっている香港人や台湾人は、それらを明日は我が身と感じているはずだ。

13億人を束ねる国家を実現しているのは、世界で中国だけである。(近いうちにインドが逆転するようだが。)彼の国の統制の厳しさや強硬さ、強かさを垣間見る度、これだけの高度な情報化社会においてもなお、それを実現しようとしているかのように見える。

香港デモ拡大、習政権に誤算 強権支配に反発強く
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46220410X10C19A6EA2000/

【写真で見る】 香港デモの規模とルート
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-48658821


ずっとものづくりに携わってきました。