見出し画像

またね、友達。

古い友人と、ひさしぶりに会うことになった。

彼女との出会いはもう二十年以上前。新卒で最初に入社した会社の同期だった。
配属先も、通勤ルートも、メイクや服の好みも全然違ったのに、なぜか気が合って仲良くなり、その縁が今でも続いている。

彼女のお父様が亡くなってご焼香に駆つけた時以来だから、およそ一年半ぶりだ。
待ち合わせ場所で会うなり、「あの時は来てくれてありがとう」と言ってくれる彼女を、やはり好きだなと思った。

ビアレストランで乾杯し、まずは近況報告。
ワインバルに移動して、ここ最近の少し深い話。驚いたり共感したりしながら、同じペースでグラスが空いていく。
三軒目のワインバーでは、二十年前の昔話も昨日の話もごちゃまぜで、とにかく話す話す、飲む、話す。。。

女の二十代から四十代って、とてもいろんなことがある。望むことも望まないことも、手に入れることも失うことも、本当にいろんなことが起こる。
彼女もなかなかにドラマチックな人生を歩み、今もまた、大きな転機を迎えているようだった。

昔は、悩みといえば恋愛のことくらいだった私たちも、歳を重ね、今では体調や人生設計、親の老後の話なんかで語り合うようになった。これは加齢ではなく成長だ、と言い切る彼女が頼もしい。

若さと希望でキラキラしていた二十代。酔っ払った私たちは、手を繋いで渋谷センター街をスキップした。
酸いも甘いも少しずつ経験した三十代。ほろ酔いでジュディマリと河島英五を交互に歌い、ちょっと泣いた。
そして迎えた四十代。こういう人生になるとは予想外だったと笑いながら、駅までの道をゆっくり歩いた。

彼女と会うことは、昔の自分に会うことでもある。ふだんは忘れているさまざまな過去の記憶が、彼女を通して再生され、自分の中に帰ってくる。そうしているうちに、自分という人間の輪郭がいつもより濃くなっていくような気がしてくるのだ。

どの世代のお互いも知っている、そんな存在はなかなか貴重だ。
ここまで古い友達は、今からではもうつくれない。そんな事実に最近気がつき、ありがたいなと思っている。

彼女とは、頻繁にメールや電話をする訳ではない。長い付き合いの間には、一時的に距離が遠くなったり、彼女の変化に戸惑ったりした時も、正直あった。それでも縁が切れないのだから、友人とは不思議だ。

駅に着くと、ニコニコして「じゃあまた」と言い、彼女はさっさと歩き出した。
その背中に「乗り過ごさないようにね!」と急いで声をかける。
振り返った彼女が大きく手を振って、私も振り返して、それぞれの帰路についた。
「また」がいつ頃になるのか、その時の私たちがどう変わっているのか、今はわからない。でも友達だから、大丈夫。

翌朝起きると、案の定、電車で寝過ごしたとの報告メールが届いていた。こういうところも、ずっと変わらない。
友よ、またね。


この記事が参加している募集

#今こんな気分

74,681件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?