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空き家を整える 〜親の移住と、家族の記録#13〜

移住先の物件が決まり、両親は再び元気を取り戻した。ゴールの見えない物件探しにやや疲れ気味だったのが、俄然やる気になったようで安心する。
正式な契約も、ご近所への挨拶まわりも、移住サポート制度担当のSさんが着いてくれているので、その点でも安心だった。

両親が購入した空き家の持ち主は、もともとこの町が気に入って家を建てた人だった。事情があって数年で転居することになってしまったのだが、しばらくは売る気になれず、時々様子を見に訪れていたという。そんな想い入れのある家を手放す決断をしたのは半年ほど前。空き家を移住者に紹介する行政の制度を知り、喜んで住んでもらえるならと譲ることを決めたそうだ。

そこから、必要な書類を準備し、申請を行い、Sさんたち市の職員の物件確認を経ていよいよ移住物件として登録されるまさにその直前、父と母は別の物件を契約するか迷っていた。もう少しすれば両親が気に入りそうなこの空き家を紹介できるとわかっているSさんだったが、当然それは教えられない。そこで出た言葉が、あの「もう少し待ってみませんか」だったのだ。なんというファインプレー。Sさんの精一杯の誠意と親切だったと後から知り、両親も私も改めて感謝した。この人を頼ってよかったと心から思った。

空き家とはいえ、家具や家電などの荷物はほぼそのまま残されていた。冷蔵庫なんて、いま住んでいる家のものよりも大きくて新しい。使えそうなものはそのままどうぞ、ということなので、ありがたく使わせていただくことにする。電子レンジやダイニングテーブルも、引っ越しが完了するまでの間はあると助かるはずなので残し、それ以外のものは処分することになった。

小さな家とはいえ、不要品の処分と掃除にはそれなりに時間がかかるし、住める状態にするにもいろいろやることがある。この頃はまだ父の仕事もあったので、週末ごとに出かけて行き、片付けや準備を進めていった。

●不要品の処分(残っていた家具や家電のうち使わないものを処分)
●庭の雑草や枯れている植物を抜く
●植木の伸びた枝を切る
●駐車スペースを広げるために植木を何本か移動
●雨樋にたまったゴミを取り除く
●軒下に何ヶ所かできている大きな蜘蛛の巣を取る
●網戸を外して洗う
●風呂、洗面所など排水まわりの掃除

などなど、かなりの肉体労働だが、両親はすべてふたりでやった。私も手伝いに行けばよかったと今さらながら思うが、戦力と見なされていなかったのか、一度も召集されなかった。不甲斐ない。

作業をしていると、通りかかった近所の人が声をかけてくれたり、畑でとれた野菜を差し入れてくれたりすることもあり、そのやりとりもうれしかったという。受け入れてもらえそうだという安心感はとても心強い。時には、Sさんが様子を見に顔を出してくれることもあった。

空き家に手を入れながら、転入に必要な書類を役所に取りに行ったり、いま住んでいる家の売却に向けて不動産屋とのやりとりを始めたりと、やることは山積みだったが、すべては夢の実現のため。その忙しさを両親はどこか楽しんでいるようでもあった。

少しずつ手を入れるうちに前の持ち主の気配は薄れ、自分たちの新しい生活拠点として整えられていく。話を聞くだけの私でもわくわくするのだ、両親のうれしさはどれほどだっただろう。
朝早くに自宅を出発、空き家に到着後すぐに作業に取りかかり、昼食をはさんでもう一働き。庭で食べるおむすびが格別だと話す電話口の母の声は、とても充実しているように聞こえた。

こうして何度か通い、一ヶ月ほどであらかたの片付けが終わると、引っ越しまで待ちきれない両親は “週末移住” をスタートさせた。とりあえず生活できる最小限の荷物を運び入れ、月に何度か、数日間の短期滞在を楽しむ。完全ではないが、移住気分を少し味わえるところまでは来た。父と母の夢は、確実に叶いはじめていた。

次回へ続きます。

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