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ツクモリ屋は今日も忙しい(4)

【side:モガミーズ in  Tsukumori Shop】

「じゃあ皆! おやすみなさ~いっ♪」
《オヤスミナサイナノ~♪》

 お店の戸締りをした菜恵が、にっこり笑って電気を消した。真っ暗になった店内に、クスクスと笑う仲間の声が小さく木霊こだまする。

 夜のツクモリ屋は僕たちのパーティ会場!
 みんなで楽しく遊んだり喋ったりするの~!


(4)「ツクモリ屋、くらいしす!」ナノ!


《りーだー! 今日ハ、げーむスルノォ?》
《そうだなぁ。最近はしりとりばっかりだもんなぁ》

 僕は、玄関口から最も遠い位置にある棚。店内の棚の中でも古株で、言葉を、菜恵たち人間みたいにスムーズに言えるようになったから、みんな僕をリーダーと呼んでくれる。

《そういえば、人間たちにはジンローゲームが流行ってるってクロは言っていたけど、やり方がわからないんだ》
《じんろー?》《ナンダロー?》

 クロが商品チェックとかで近寄ってきたときに、僕はよく声を掛ける。店の外のことには興味がある。彼は怒りっぽい性格だけど、なんだかんだ教えてくれるから根は良い奴だと思う。

 とは言え、彼は仕事中だし、お客さんが来店したら話は中断してしまうから、聞きそびれてしまうことも多々ある。

《よし。今度、教えてもらおう♪》
《ソウシヨウ》《ウフフ~》

 結局、今夜はお喋り大会することになり、みんなでワイワイ騒いだ。話題は、みんなの生まれた場所のことや、理想の持主像、今日旅立っていった仲間への祝福などだ。

 今日もたくさんの仲間が持主とカップルになった。
 数え切れないほどの見送りをしてきた僕だが、いつも嬉しい気分になる。どうか末永く幸せにと願わずにはいられない。

 そういえば。
 菜恵とクロはカップルにならないんだろうか??


 ***


 夜も更けて、そろそろお休みしようかと話していた時、事件は起こった。

《キャァ! 何カイルヨゥ!》

 少し遠くにいる新人君が悲鳴を上げる。びっくりした僕たちは、ざわざわと情報を伝達する。

《ドウシタノ?》《大丈夫~?》《何ガイルノォ》《アッ、アレカナ?》《動物ガイルヨ~》

 え、動物??
 辺りを見渡すが、ここからよく見えない。

《何テ言ウンダッケ?》《エート》《アレダヨォーエット》《みっきー?》《違ウヨ、何カ》《アッ、ワカッタァ♪》

《ねずみダ!!》


 鼠だと!?

 ぴゅっ、と素早い影が、棚々の合間を走る。僕の棚の前でピタッと止まり、そいつはピョロピョロと尻尾を振った。

 鼠だー!
 僕は思わず《ヒッ!》と声を漏らした。動揺が伝わってしまったのか、仲間たちも次第に青ざめる。

《りーだー?》《ヤバイノ?》《ドウシヨウ?》

 鼠がこの店に入り込むことは滅多にない。ただ、2・3年に一度、隙間に入り込むように現れる。

 まさにアレだ! 鼠小僧! 聞いたことがある!

《ヒエェエ……コワイヨゥ……》

 近くの仲間たちが心細い声を出す。
 このままでは駄目だ。僕は目をカッと見開いて叫ぶ!

《みんな、『防災訓練』を思い出すんだ!!》

 僕の様子を見て、仲間たちがパラパラと察した眼差しを返すのが見えた。《ボウサイ…?》と首を傾げる新人君にも、周りの仲間が教えて、理解が深まる。

 僕はじっと、奴を睨んでいた。
 奴に僕が認識できているのかは不明だ。なぜなら奴は、付喪神ではないから。人間の言葉も通じないし、僕には翻訳できない。

 ただ、鼠はいろんな物を齧ると知っている。
 僕を含め、仲間が犠牲になるかもしれないのに、野放しにはできない!

《りーだー!》《ヤロウヨ!》

 一致団結の眼差しを受け、僕は頷く。
 今こそ戦う時だ!!

《《ザワザワザワザワザワザワザワ》》

 一斉に呟き始め、声に気持ちを込める。
 ガタガタガタガタ……と、振動音が響き始める。

「ちゅ?」

 のんびりと動いていた奴は、途端にビクッと動きを止める。きょろきょろと首を動かしている。

《《ザワザワザワザワザワァッ!》》
 渾身の想いで、僕たちは鳴った。
 ガターン!

「ちゅー!!」

 一際大きい音に、鼠は一目散に撤退した。
 途端に辺りは静まり、僕たちに敵対するものは無くなる。

《ヤッター!》《デキタノ!》《バンザイ!》

 拍手喝采、万歳斉唱のみんなに僕も笑顔で応える。
《みんなのお陰だよ! ありがとう!!》

《りーだー、アリガトウ》《ミンナ、アリガトウ》
 感極まった仲間たちを見遣って、僕も胸が誇らしかった。なんとかなって良かった。今日も無事に、今日を終われるはず。

《みんな、疲れただろう。もう休もう!》
《ソウネ》《ヨク眠ロウ》

 みんな、同意してくれる。僕たちは規則正しい。夜も起きている奴もいるらしいが、あまりこの店では見かけない。
 僕はぐっすり休もうと、意識を閉じた。


 ***


「ああなるほど、だから菜恵さんが心配してたのね」

 翌日、昨晩のことを自慢げに語ると、クロは納得したように返した。あまり褒めてくれないので、僕は不満に感じる。

《すごかったんだよ。僕らには一大事なんだから》
「わかってるよ。……でも、前にも同じようなことを聞いたし、お前から」

 言われて、端と気づく。そういえば、前回も真っ先にクロに話したかもしれない。クロは店にいる時間が長い。うかつだった。

《そうだったかもしれないね……。ごめんね》
「いや、でも深夜じゃあ、俺達にはどうしようもできないからな。お前が統率してくれて、助かったと思うぞ?」

 クロはニヤリと笑う。こういうときの笑顔が、僕は嫌いではない。真似もしてみたいが難しい。僕が人間ではないからだろうか?

「ポルターガイストが、モガミさんにもできると最初に知ったとは驚いたが、よく考えたら正当防衛だもんな。どんとこいだ」
 クロはぶつぶつ呟きながら一人で頷いている。

《ねぇクロ。菜恵と、カップルにならないの?》

 何となく話題を変えたくて訊いてみたら、殴られた。こつんと、拳の裏側で。溜息を吐きながらクロは言った。

「そういうの、デリカシーがないって言うんだぞ」

 そのまま、他の棚へ移動してしまう。仕方ないので、僕は自分で考えた。

 デリカシーって、どういう意味だろう?



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