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世界観 喧騒から少し離れた路地裏にある雑貨店「ツクモリ屋」。目立つ看板も、広告宣伝もない店だが、なぜかいつも忙しい。今日も客がまた、呼ばれるように店へ入って行く。モガミさんの声が聞こえたのかもしれない。 モガミさん 「モガミさん」の名は「付喪神」に由来している。付喪神は本来、長期間使われた道具に宿る神であるが、モガミさんは新品・量産品の状態でも息づく、言わば「付喪神の赤ん坊」も含まれる。 ちなみに、モガミさんを視るには、独特な精神統一を介する。そのため筑守家以外の一般
私には以前に、わりと長期間noteで連載して、休止している拙作がある。 長年使いこんだ物に宿るという付喪神をモチーフに、さらに若い物にはモガミさんという赤ちゃんの付喪神が宿っているという設定で、モガミさんのケアフォロー&販売を生業とする『ツクモリ屋』の話だ。 決して、休止を忘れているわけではないのですが、なかなか再開に至っていない。単純な再会ではなく、外伝にすることも考えたりするけれど、なかなか手を付けられない……という言い訳、ごにょごにょ。 とにかく、私が言い
【side:イヤリング(左耳)のモガミさん】 《これこれ、いい子だから悪戯はよしなさい》 よしよしと頭を撫でられ、猫は仕方ないと言わんばかりに爪を引っ込めた。その仕草の途中で、ちらりとモガミさんを一瞥する。言葉にならない敗北感で、モガミさんは頬を膨らませた。 (猫ヲ甘ヤカスナンテ……何者ナノ?) モガミさんは猫と会話するモノを見遣る。 自分の持主である谷本と、さほど年の変わらない男に見えた。しかし何かがおかしい。出で立ちは、谷本がテレビで観ていた時代劇のそれに似て
【side:???】 《ソウナノ! 助ケテナノ!》 ピーピー喚きながら、イヤリング……から浮き出た白いモノは訴えかけてきた。 イヤリングを咥えたままの愛猫(ちなみにこちらも白い)は、若干ドヤ気味に香箱座りをして、オレを見上げている。 ……なんかこう、投げたボールを取って戻ってくる犬みたいに、たまに獲物を見せに来る猫に育ってしまった。安直に「シロ」と名付けてしまったせいか? 本来は犬によく付けられる名前だし。 「シロ、飲み込んだら、病院行きだからな?」 〈ベッ〉《
【side:芹野さん】 今日は仕事が休みだっ♪ スッキリと目覚めて朝から気分がいい私は、サクサクと身支度を進められた。お気に入りの服を着て、いざ出発! 待ち合わせは、繁華街もある大きな駅前の広場だ。少し幾何学的なオブジェがあって、たまにちょっとしたイベントも行われる場所だ。ちなみに今日は特にイベントは無いようだけれど、人通りはそこそこあった。 「あ……もういる……!」 私の相手は既にいた。適当な街灯の傍によって、ちょうどこちらに背を向けてスマホをいじっている。
【side:筑守菜恵】 「みーちゃん、恋ってしたことある?」 鼓動の高鳴りを自覚しながら質問した。こんなこと、今まで誰にも訊いたことないからか、なんだかドキドキする。 「ええと……う、うん。ちょっとなら」 みーちゃんは曖昧に返した。慎重というか緊張が伝わってくる、ぎこちない笑顔だ。 思えば私たちは、恋バナとか女子トークっぽいはしてこなかった。私は苦手分野だし、みーちゃんはたぶん、私が避けているの気づいてて、遠慮してくれいていた。だって、恋はしたことあるんだし……。
【side:筑守美礼】 あたしは、言い様のない無力感に襲われていた。 なっちゃんが縁談なんて。なっちゃんが結婚なんて。その相手が室井玄かもしれないなんて。絶望しかない。 紅茶を飲みながらチラリとなっちゃんの様子を窺う。いつも明るく周囲を包み込もうとする眼差しが、今はぼんやりと伏せられていた。 あたしは小さい頃から、なっちゃんのことが大好きだ。よく会う従姉としても仲が良かったし、年が近いから実の姉妹くらいに懐いていた自覚がある。そして、なっちゃんに恥じないように強
【side:筑守菜恵】 「……室井玄と……結婚?」 みーちゃん親子のツクモリ屋の店の前で。抱き着いた私の体を支えるように手を添えながら、みーちゃんが呟く。声音は思っていたより低くて、驚いている……よりかは、絶望しているように耳に届いた。 「え……何アイツ、プロポーズしたの?」 「ううん……そういうわけじゃ、ないけれど」 私たちは、お互いにぽつぽつと質疑応答する。 「じゃあ、告白されたとか?」 「ううん」 「……まさかとは思うけど……なっちゃん、から?」 「ううん、
【side:筑守菜恵】 今日は忙しい。うん、多分そう。だから、急いで店のモガミさんや品揃えをチェックして、開店前に出かけなきゃ。 うん、決して、他に理由なんてない! 忙しいんだから仕方ないんだ── 「あ、菜恵さん。おはようございます」 「ひゃっ!」 背後から声を掛けられ、私は思わず変な声を出してしまった。体もビクッと揺らしてしまう。私を見ていたモガミさん達も、ユラユラした。 《オヨヨ?》《ビックリナノ?》《クロ、オハヨー》 「……菜恵さん? すいません、驚かせ
【side:室井玄】 そうかもしれない。夢かもしれない。 しばらく接客と商品陳列の並行作業が続き、俺はいつしか、そんな言葉が浮かぶ心境に至っていた。 「パイセ~ン」 ふと仕事が一段落したころ。西松が間の抜けた声を出しながら、俺の方へ歩いてくる。これも夢かも。眠い気すらする。 ガシッ!! 「うっ!? な、何すんだ、西松」 それまでの能天気な物腰からは想像できない握力で、西松は両肩を掴んできた。なぜかジト目だ。 「パイセン……これだけは言っておきますよ!」 えっ
【side:室井玄】 つんつん、ツンツンと。指で肩を小突かれている。 「パイセン。……パイセ~ン? あ、これは完全にやられましたね。思考回路はショート完了~♪」 西松が、微妙に歌詞をいじったアニメソングを口ずさんでいた。どこか機械的に、俺はそれを理解する。 「あら……。さすがに、話が急過ぎたかしら?」 気遣うように微笑む多恵さんの顔を、ただぼんやりと眺める。何か応えなくてはいけない。困らせたくはない。でも、何も言葉が浮かばない。 「気にしなくてもいいと思うっす。こ
【side:室井玄】 その日、俺はツクモリ屋で忙しくしていた。 「西松、次はコレとコレを検品してくれ」 「はいはーい、パイセン!」 たまたま店に来ただけの西松を捕まえ、俺は効率よく指示を出す。 西松は近頃、すっかり常連の助っ人だ。いつも嫌な顔一つせず、手を貸してくれる。 だから実は、いっそ店員になるかと提案したこともある。だがそれは嫌なんだと。相変わらず変な奴だ。……そういえば、ユーチューバーになるって話はどうなっているんだ。なってるのか? 「ん? パイセン、
【side:荒木拓真】 《タクマー?》《コッチ向イテホイ!》 モガミさんの声が聞こえる。はっきりと聞き取れるが、残念ながら頭の中に上手く入ってこない。 返事する余裕もないぐらいに、今の僕は集中していた。手元の写真ホルダーに。全神経、全集中。それなのに、自分の指先はピクリとも動かない。 捲りたくない。 それが正直な本音だった。 でも……他の誰かより前に捲らくなくては! 《イツマデ、ソウシテルノォ~……?》 「えっ??」 一際、意味ありげな声に僕は顔を上げ
【side:荒木拓真】 「こ……これは……!」 箱を開けた僕は、想像を超えた光景に言葉を失っていた。 《ワー!》《オォオーッ》 周りのモガミさん達もどよめきながら、精神体をあちこちに彷徨わせている。その動きは箱の中でも同じだった。 《りばーす!》《どーん!》 爆発したかのように、飛び出してくるたくさんのモガミさん。さながら封印の解かれたビックリ箱といったところか。とにかく皆叫ぶ。 「ひぃいっ! 大人しくてくれよ!」 僕は手をバタバタ動かしながら彼らを宥めに掛か