見出し画像

ツクモリ屋は今日も忙しい(17-後編)

【side:荒木あらき拓真たくま

 実家を訪れ、懐かしの私物を整理することになった僕。久々の再会で興奮気味(?)のモガミさんに振り回されながらも、《暗黒》と呼ばれる謎の箱を開ける。そこにあったのは写真ホルダーで……。

(前回のあらすじ)

《タクマー?》《コッチ向イテホイ!》
 モガミさんの声が聞こえる。はっきりと聞き取れるが、残念ながら頭の中に上手く入ってこない。

 返事する余裕もないぐらいに、今の僕は集中していた。手元の写真ホルダーに。全神経、全集中。それなのに、自分の指先はピクリとも動かない。

 捲りたくない。
 それが正直な本音だった。

 でも……他の誰かより前に捲らくなくては!

《イツマデ、ソウシテルノォ~……?》
「えっ??」

 一際、意味ありげな声に僕は顔を上げる。
 そこにいたのは、あのモガミさんだった──。


(17)「拓真はアイドル」ナノ! -後編-


 にょろーん、と写真ホルダーの隙間から伸びてきたのは、妙にキメ顔のモガミさんだ。

「な、なんだよ……」
《君ノ瞳ニ乾杯スルゼ☆》

 少々ウザい表情とセリフ。
 それと、絶妙な間合いのモガミさんのウィンクに、本能的に閃く記憶があった。あれは……あれは、13歳の頃……だったような。

「の……残していた!」
 震える手を叱咤激励しながらホルダーを開くと、暗黒写真・第3位が登場した。一生懸命に腕を伸ばして自撮りした、ウィンク&バキューン(※手で銃の形を作るやつ)ポーズの幼き僕の写真。

 ……きしょい。これはモザイク処理(脳内で)。
 これは、のちに電撃結婚で引退するアイドルを、射止めるつもりで撮った写真だ。

 ちなみに、使い捨てカメラだ。
 家族共用のカメラではできなかった。お小遣いのやりくり、大変だったけれど……。


「はぁ……。自信過剰だったよな」
《ソウナノ? 僕モカイ?》
 独り言に返されて、僕は瞬く。少し後ろのページ部分から、モガミさんが頭を出し、こちらを見ている。

 モガミさんは、アンニュイに、躊躇い顔をしている。不思議と懐かしみがあり、僕は黙ってページを捲った。

「……そう来るよな」
 該当写真に納得。そこには同じく自撮りの僕がいる。第2位・頬杖をついているポーズ。これは、アイドルが電撃結婚をして、なんか他の推しアイドルを探してダメで、やけくそにアイドルに送りつけようとした写真だ。

 君は過ちを犯したぞ、的な……? そんな感じ。

 結局、現像した後に、思い直したけれど……。
 思い直して正解だった。未来の自分から手紙を出せるなら、今すぐにでも書きたいくらいだ。僕は幸せ者だ。

 ちなみに、後の推しポジションに収まったのは、なっちゃんなワケよ。


「……次、どうぞ」
《ツイニ来タカ!!》
 待ち構えていたと言わんばかりに、圧倒的オーラを放つモガミさんが顔を出した。サングラスをかけた、ワイルドな出で立ちと口調だ。

 そう来ると思っていた。だって、写真ホルダーを見て真っ先に思い出したのは、このイメージ(&写真)なのだ。

《僕ハあいどるダ!!》
 とびっきりのスマイルと小道具が写真に写っている。僕は、アイドルに先立たれた(=芸能界引退された)ショックを抑えきれずに、自分でアイドルっぽい写真を撮っていたのだった。第1位、首傾げてニヤリ顔。


 別にアイドル事務所に応募したわけではない。
 自称アイドルをした、センシティブな自分がいたと言えばそこまで。

 ただ、成長した大人の自分にとって、これは黒歴史でしかない。

《タクマ?》《ドウシタノカイ》《顔ヲ上ゲロ!》
 モガミさん達にどんな顔を向けたらいいのか。
「ごめん……」
 言葉だけ掛けると、モガミさん達は押し黙る。黙って、僕を眺めているのはわかる。

 まるで、昔の僕に見られている気分だ。

 その時、そのときに取った行動は全部、正しいんだ。それなりに本気だったんだ。推しのアイドルと会えると、結婚できると、そして自分もアイドルにもなれるんだって。少なくとも、当時の自分にとっては。
 でも、年月が、時間が、その感覚を変えていった。

 変わる前が間違っていた、かは分からない。
 ただ、もう、昔の自分じゃいられない。


 だから、この写真たちは捨てなくちゃいけない。


《タクマ!》《イインダヨ》《顔ヲ上ゲロッテ!》
「……え?」
 恐る恐る顔を上げると、写真のモガミさん達は、満面の笑顔だった。

「でも……」
 僕は、モガミさん達の言わんとすることを察して、戸惑う。だって、これはまるで、捨てていいって……。

 次の瞬間、暗黒トリオは、完璧にセリフをハモらせた。
《僕ラハ、タクマト会エテ楽シカッタ!!》


 僕と、あの時期を過ごせて楽しかったと??

「うぅ……」
 気づけば僕は、結構泣いていた。暗黒トリオの笑顔がそうさせたのか、思春期の追憶が切なかったのか、両方なのかは分からない。

 ただ、あの頃の自分が、認められた気がして。
 あと少し、どうにもできない後悔もあって。

「拓真、そろそろできて……え、泣いてる?」
「な、泣いてない!!」
 不意に訪れた母親に、必死に取り繕いながら、僕は見つめていた。

 3つの黒歴史な僕と。
 僕にずっと寄り添ってくれたモガミさん達と。
 見つめ合っていた。

 3つって、多い方なんだろうか?


   ***


《ネー、イイノ?》「いいの!」
 僕は3葉の写真を、鞄の小ポケットに丁寧に入れ込んだ。ホルダーの他の写真は、改めて家族共用として置いてもらうことになった。他のグッズも然りだ。

 しばらく僕は、写真を眺め、覚え込んでからサヨナラする。

 もちろん、誰かに見られるのは恥ずかしい……。
 その間は、絶対に他人に見られないよう、そして自分が死んでしまわないよう、できうる限りの配慮をしようと思う。

 そして、昔の自分も一緒に生きるんだ。
 それは、エゴかもしれないけれど。

 自分の納得できる選択をしないと、モガミさんにも申し訳ないから。


「拓真ー! カレーができたわよ」
「はーい!」

 母親の声に応えて、僕はリビングへと向かった。気づけばお腹がペコペコだ。スパイスの香りに誘われるように僕は鼻の穴を大きくした。



「3葉の写真」で、しつこいくらいに『人間失格』をオマージュした表現を入れましたことを、どうかご了承ください。好きなんです、太宰治(笑)。

(ツクモリ屋は今日も忙しい・18-前編へ)

『ツクモリ屋は今日も忙しい』シリーズ一覧へ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?