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ツクモリ屋は今日も忙しい(17-中編)

【side:荒木あらき拓真たくま

 久々の実家にて、置きっぱなしだった私物を整理するように言いつけられた僕。モガミさん達との再会を果たしつつ、物の詰まった段ボール箱を開けようとしたところ《暗黒ダカラ気ヲツケテ》と忠告されるのだった。

(前回のあらすじ)

「こ……これは……!」
 箱を開けた僕は、想像を超えた光景に言葉を失っていた。

《ワー!》《オォオーッ》
 周りのモガミさん達もどよめきながら、精神体をあちこちに彷徨わせている。その動きは箱の中でも同じだった。

《りばーす!》《どーん!》
 爆発したかのように、飛び出してくるたくさんのモガミさん。さながら封印の解かれたビックリ箱といったところか。とにかく皆叫ぶ。

「ひぃいっ! 大人しくてくれよ!」
 僕は手をバタバタ動かしながら彼らを宥めに掛かった。このまま騒ぎが収まらないと、整理整頓どころではない。どーどー、しーっというジェスチャーでアピールに回る。

 そうしていると。

「……拓真、何してるの?」
「……あっ」
 部屋の近くにいたらしい母さんに、思いっきり見られた。いつの間にか開けられた扉から、顔が覗いている。

 あーこれは。客観的には、何もない(ように見える)空間へと真剣に話し掛ける息子を、怪訝そうに眺めている母親……という場面ですね?

《アッ》《ハッ!》
 モガミさん達も、僕の置かれた状況に気づいたようで、しまったという顔で次々と黙り込んだ。
 遅いんだよ。そう言ってやりたかったが、それは叶わず、僕は言い訳に悩んだ。なんにも出てこない。


(17)「拓真はアイドル」ナノ! -中編-


「ははーん、あんた……」
 僕をじっと見ていた母さんは、急に意地の悪いニヤリ顔をした。まるで、ほくそ笑むちびまる子ちゃんのようだ。ちょっとムカつく。

「な、なんだよ……」
「アレ、見ちゃったんでしょ」
 母さんは片手をひらりと回して指さすポーズをした。その指先にはモガミさんがいて《どきんっ》とびくつく。まさか──。
「な、何を?」

「何って、虫に決まっているでしょ」

 そっちか。
「あ……あーそうそう! 虫! 見た!」
 慌てて言葉を繋げ、僕は場を取り繕う。おかげさまで変なカタコトで言ってしまった。ふー落ち着け、自分。

「……ていうか、まさか部屋にいるの? あんたがここで見つけたヤツは、あんたが退治してよ!?」
「う、うん。わかった……」
 今度は不気味そうに室内を眺めながら、母さんは強く念押ししてくる。扉の向こうから。この部屋で出くわした虫が、余程トラウマなのだろう。

 言いたいことを言い、母さんはさっさと姿を消した。なんだか妙に振り回された気もするが、こちらの「奇妙な」言動も不問になった。現状は良しとするべきだろう。


《タクマー大丈夫?》《ゴメンナサイナノ~》
 そろそろとモガミさんが寄ってきて、謝ってくる。はしゃぎ過ぎたことを反省しているようだ。

「いいんだよ、大丈夫」
 呟いて、僕は開けっ放しのドアを、そっと閉めた。

 本来謝るべきは、こちらかもしれない。だって、僕が周囲の人間にモガミさんのことを説明できないから。モガミさんを視れない人に、モガミさんの存在を信じ込ませる自信がなくて、隠しているだけなんだ。

 僕もモガミさんも、何も悪いことはしていないが。

 モガミさんから、隠そうとする行為を責められたことは一度もない。だから、申し訳なく感じることも、もしかしたら変かもしれないけれど。

《タクマー》《遊ンデー》《ホイホーイ♪》
「……。はいはい、あとでね」
 一部の能天気なモガミさんのじゃれつきにより、完全にセンチメンタルな思考回路は切断されて、僕は踵を返した。

 モガミさんの思考回路は、ツクモリ屋に関わって8年目になった現在でも、よくわからないときがある。今だって、いつも通りなのか、僕の心境を察知し慮ったのか。案外ポーカーフェイスなのかも?


   ***


 それで、だ。

 僕は実は、モガミさんに「暗黒」呼ばわりされた箱の中身を、まだ思い出せずにいた。先程、開封して覗き込もうとした際も、飛び出したモガミさんに隠れてしまい、上手く見えなかった。

 ちょっと片鱗は捉えたのだが。
 本のようなものが見えたような。そういう平べったいフォルム。ただ、まだ思い当たる節がない。見たことはない気もしないので、実家内で接した記憶はあるのだろう。でも思い出せない。

 まぁ、きっとマンガ本とか、小学校の文集とか、入っているんだろう。

 モガミさんが「暗黒」と言うのも、そういう昔のネイティブな思い出が詰まった箱だからだろう。良いこと・悪いこと、幼い故の、僕のストレートな感情が込められた品が入っているからに違いない。

《トウトウ……ノゾクノ……?》
 ぽつりと、僕に声を掛けてきたのは「暗黒」の箱そのものだった。気を遣うような、抑えた声音で問うてくる。

「うん……見るね」
 僕は答え、にこっと笑う。箱の中身を覗く。箱のモガミさんは、ふっと目を逸らす。


 その箱の内部、一番上にあったのは、厳密には本ではなかった。今の文具店では見かけなくなったブランドの、クリアファイルだ。その形、色合い。覚えている。記憶が掘り起こされる。


「……ああああ……嘘だろ……」

 ファイルを手に、僕は呟いていた。忘れもしない、夏の思い出。正確には夏の夜。確かに僕が作ったものだった。

 ああ。世界は……僕は……思い出してしまった。

 ……ちゅ、ちゅーにびょう……。
 くろれきし……。

《タクマー?》
「あ、うん。大丈夫。平気」

 平気と言いながら、兵器が欲しい気分だ。これは……駆逐してやる……案件かもしれない。

 落ち着け、自分。冷静になれよ、僕。

「……モガミさん達。応援してくれる?」
《ふぁいとー!》《タクマー》《頑張ルノー!》

 結局モガミさん達に頼ってしまい、情けない気持ちで、僕はファイルを握る手に力を込めた。ファイルのモガミさんが言う。

《優シクシテナノー》「ご、ごめん」

 なんだかエロイ会話をかましながら、僕はファイルをぺろっとめくった。そこに展開されたのは……想像通りの写真たち。

 このファイルは、正確には写真ホルダー。
 そこに収められているのは、間違いなく僕自身。

「……はははははははははははは」

 僕は独りでに、奇妙な笑い声を上げていた。
 これはやばい。自分の覚えている以上、かもしれない。しんどい、重い、暗い……まさに暗黒。


《タクマー?》《遊ンデイルノ……?》
 モガミさん達の声が聞こえる。

 さて、どう駆逐するか。
 昔の自分と対決するべく、僕は真顔に戻った。これも間違いなく、他人に言えない問題であった。

 これだって、別に悪いことではない。
 でも──決して見られたくはない。
「暗黒」というか黒歴史が、あるのだった。



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