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ツクモリ屋は今日も忙しい(20-中編)

【side:???】

ええと、セリノとタニムラが買い物をしているうちに、タニムラがイヤリングの片方を落としてしまった。落とされたイヤリングは、猫に拾われ、ここに連れ去られてきたと。そういうことでいいのか?

(前回のあらすじ?)

《ソウナノ! 助ケテナノ!》
 ピーピー喚きながら、イヤリング……から浮き出た白いモノは訴えかけてきた。

 イヤリングを咥えたままの愛猫(ちなみにこちらも白い)は、若干ドヤ気味に香箱座りをして、オレを見上げている。

 ……なんかこう、投げたボールを取って戻ってくる犬みたいに、たまに獲物を見せに来る猫に育ってしまった。安直に「シロ」と名付けてしまったせいか? 本来は犬によく付けられる名前だし。

「シロ、飲み込んだら、病院行きだからな?」
〈ベッ〉《キャァー!》
 まるで言葉を理解しているかのようなタイミングで、シロはイヤリングを吐き出す。解放された白いモノは依然騒々しい。
《乱暴ニスルナナノ~! バカ~!》
 気持ちは分かる。唾液まみれで地面に捨てられたら、普通は怒るわな。

 ただ、今のオレに、宥めている時間はあまりない。悪いが適当にスルーさせてもらう。

「あー確か、付喪神の子ども──通称『モガミ』だったか。久々に視たな」
《……オヨ? もがみヲ知ッテイルノ?》 
 オレが考えながら呟いていたのが聞こえたのだろう。コロッと態度を切り換え、モガミは興味深そうにシロからオレへ視線を移す。

「まーね。うちは専門外だけど」
《専門外、ナノ?》
 ワクワクとした面持ちで、モガミは「うち」を観察し出した。とは言え、ここはちょうど玄関先にあたる。建物はもう少し向こう。見えるのは、せいぜい大きな──鳥居だ。

《専門ハドチラ?》
「自然神だよ」
 つってもオレは神主の長男。ただの高校生。


(20)「あいるびーばっく」ナノ! -中編-


 昔々。この街の高台に、神様が棲んでいたという。

 オレ的に想像しがたいが、昔は土地の整備が行き届かず、周囲への交通が不便だったり、農作物が不作になりがちだったらしい。

 高台の神様は、自らに豊かな恵みを作ることで、人に手を差し伸べてきた。……具体的には、湧水や森林や山菜ってやつなのかな。とにかく人も感謝して、神を奉ってきた。

 で、元々は高台付近に、この神社はあった。

 しかし、時代が移ろうにつれ、交通の利便を手に入れ、人々は争いに手を染めていった。人との共生スタンスをとってきた柔和な神様にとって、それは忌むべき事実だったという。

 人と神と、何度も交信があったらしい。
 程よいバランスをとろうとしたらしい。

 それは叶わなかったのか……明治維新と前後する時期、神社が全焼するほどの戦災があった(明治維新に関連するものか、農民一揆にあたるのか、史料は残っていないらしい)。

 ただ、運命なのか「神体」は残った。
 同じ場所に神社を建てる動きもあったらしいが、いろんな事情で、少し離れた街中に再建されたのだ。

 明治初期に移設した神社は、それからは幾度の戦災の被害も被ることなく、ずっと存在している。
 ……はい、イマココ!!


《フムフム、ナルホドー!》
 イヤリングのモガミは、食い入るように俺の説明を聞いて、相槌を打っていた。その頭上でシロが欠伸をする。……退屈ならどこかに行ってくれ。

《神様ニ会イタイノ~》
「え、無理だよ……」
 オレ、会ったことないし。神主……親父でさえも、はっきり姿を見たことがないのに。こんなミーハーな奴が会えるなんて無いだろ。

 ……あ、でも付喪神も神の内なら、モガミも神格扱いなんだっけ?
 思考を巡らすが、思い出せない。だから、うかつに動けない。だって……親父に殴られるから。

 嫌だし。親父に殴られるとか。

「それより、帰りたいんでしょ」
《ア! ソウナノ!》
 話を元に戻すと、モガミは素直に応じてくれた。助かった。きっとイヤリングの持主がそうなんだ。愚痴とかグチグチ言わないタイプに違いない。

《ドウシタライイノ?》
「それは……オレもわからない」
 シロが持って来た白いイヤリング。どこにあったのかも、持主がどこから来たのかも知らないイヤリング。ヤバいくらいに詰んでいる。

「うちで預かることはできるけれど、うちの落とし物じゃないしな……」
 ここの参拝客なら、いつかまた神社に訪れるという可能性はある。でも、シロが持って来たものだしな……。

「シロに訊いても、わからないよな」
〈ミャ?!〉
 ため息交じりにシロに呟く。明日、交番に届けるか。そのほうが持主に帰る可能性は高そうだ。


「ええと、とりあえずさ」
 イヤリングのモガミに語り掛けたときだった。

〈フンッ〉《オヨヨッ?》
 シロはイヤリングをぱくっと咥えた。で、逃走。
《ジェジェジェ! じぇっとこーすたーナノォ!!》
 なぜか懐かしい叫び声を残してモガミも消える。


 あっという間だった。
「え、どゆこと?」
 ふと静かになった場で、混乱していた。

 シロが、持って来た獲物を、またどこかへ持って行くなんて、実は初めてだ。おもちゃを盗られると思ったのか?

 モガミの行方も気になるし、シロが誤ってイヤリングを飲み込まないかもシンプルに心配だ。それに。


 なんか、何も終わっていないって違和感が拭えない。どうしてだ。最初から最後まで、オレに始末できない展開だったように思うのに!

「何これ、次回に続く、みたいな」
 言葉にできない圧倒的な予感を胸に抱いて、オレはシロの消えた方向を見遣る。とりあえず、シロ、戻って来てくれ。


   ***


【side:シロ】

(御主人は、何もわかってないニャ)
 シロは考え、街中を爆走する。

 まぁ、猫の爆走である。基本的に裏道オンリー、猫の足テンポなので、ドローンなどで追跡すれば、緩やかかもしれない。ただしかし、シロの足取りはしっかりと目的地に向かっていた。

《イヤァー! ゴ無体ナァー!》
(こいつはうるさい……)

 シロは賢い猫である。そして宮司一家に飼われている猫である。飼い主の言葉も、モガミさんも、いろいろわかる。そして、名前もちゃんとある。
(吾輩は賢い猫であるニャ)

《ドコニイクノ~?》
 モガミさんの問いかけにシロは答えない。というか、咥えているがゆえに、答えられない。ただ、ある場所に向かう。

 シロは信じていた。
(きっと、あの場所に行けばいい)
 猫の足では、いささか遠い場所だが。道を迷うことは無かった。行ったことは既にあるのだ。


 やがて、シロは辿り着いた。
 目的地へ。──主人が語っていた、あの高台へ。

 自分の知っている神様がいる場所。そして、猫である自分の話を聞く神がいる場所を、ここしか知らない。

《アレ、猫ダゾ》《珍シイナ。野良猫カ?》
 ひそひそと、人外の存在が噂している。

 しかし、シロは迷わず進んだ。奥へ奥へ。

 なりふりは構わなかった。……なぜならば、特にマナーは必要なかったからだ。神社では、もうないのだから。


《おや、珍しい客が来たのぅ?》

 猫が歩くにしてはきつい坂道を進んでいると、前方から声が掛かった。シロは疲れた目で見遣った。

《ああ! やっぱりシロ殿か! よく来たの!》
(あ……会えた……)
 シロは安堵した。うっかりイヤリングを飲み込みそうになるほどに。《ヒッ!?》という声で、我に返ったが。

《どうしたんじゃ、シロ殿……おや、連れがおるな?》
《助ケテナノ~!!》
 口中で喚くモガミさんに嫌気が差し、シロは再び吐き出した。
〈ブヒャッ!〉《ヘァッ!?》
 飼い主がいない分、威力が強めだった。


《ふむ。耳飾りが土産かの。……その心は?》
 目の前で繰り広げられている光景に特に動揺はなく、神は猫に対してニコニコと質問する。そのマイペースさは、猫の飼い主たる高校生にも通じるものがあるかもしれなかった。

(あとはもう、大丈夫……)
 シロはそう判断した。そして告げた。

〈届かない声を、届けたいですニャ、ニレノ様〉

《そうか。よきにはからえ。今はしばし休息せよ》
 神様──古い斧から成る付喪神、ニレノはにこやかに猫を労わった。シロは静かに横たわり、寝息を立て始める。

 イヤリングは、いまいち状況を把握できない。
《オヨヨ……ドウスレバイイノ?》

《案ずるな。とりあえず、顛末を教えてくれ》
 ニレノはイヤリングのモガミさんに問い掛ける。
《ハイナノ。実ハ……》
 イヤリングのモガミさんは問われるままに話し始めた。本能的に、相手が格上だと悟っているのだろうか。口調は丁寧だった……。



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