放課後の音楽室
曲が流れている。
微かな音で。
聞き間違い、耳鳴りかも分からない、でも私にだけ聞こえる音で。
どこかで聞いたことのある、懐かしいメロディー。
そうだ、窓際にずらっと並んだ机と、すっかり暗くなったキャンパスの物悲しい感じ。家に帰る時間だよ、と告げる、大学の図書館の閉館のメロディーだ。
遅くまで図書館に残って勉強していた人たちが、どこからともなくポツポツと明かりの灯った図書館から暗い中帰路につく様。そんな様子を見て、心に言いようもない気持ちが湧き上がる。
ああ、私にとってICUのキャンパスは聖域だった。終わってしまった恋を想うように思い出す。あそこで色んなことが始まり、終わった。
でも、私、大好きだったなあ。本当に幸せだった。
あの時だって、きっと心のどこかで知っていた。この幸福の刹那は永遠には続かないと。いつかは醒めてしまう甘い夢。だからこそ一瞬一瞬が愛おしくて、どうかずっとこの景色、この気持ちを覚えておけますようにと願った。
曲が流れている。
私の頭の中で。
ひと時だけあの楽園へ連れ戻してくれるメロディー。
私にはあの思い出があるから大丈夫。みんな一度孤独な旅に出ただけで、またいつか会える。そう信じて一歩進む。
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