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資源ナショナリズムが広がっている

チリの大統領がリチウム関連産業の国営化方針を表明した

資源ナショナリズムの考え方

 資源ナショナリズムは、国家が自国の天然資源や産業を保護し、国内の産業を発展させることで経済的自立を図るという目的をもって主張されている考え方である。国内の資源関連産業を国有化するなどして、国家が管理する体制を強めることが多い。
 外国企業の資源関連産業における活動を制限することも多いため、自由な経済活動を損なうとの批判もある。また、たまたま貴重な資源を大量に保有するということで、裕福な暮らしをできるということに関しては、資源を持たない国等から不公平であるとの声もないわけではない。資源は地球上の人類全体の資産であって、特定の国の国民のためだけのものではないはずだという主張である。
 一方で、資源を活用した経済発展の可能性に注目し、海外に利益が流出することを防ぐのは、国家の自己完結性を重視する立場からは、当然のことだという主張もなされている。所与の条件の下、自国民の福祉を追求することに、何ら問題はないという考え方もある。

資源ナショナリズムの歴史

 資源ナショナリズムの歴史的経緯は、19世紀後半から20世紀初頭にかけての時期にさかのぼる。この時期、資源の需要が高まり、多くの国家が自国の天然資源を保護するために、資源ナショナリズムを採用した。
 例えば、アメリカでは、1891年にシャーマン法が制定され、国内の石油、銀、鉄、石炭などの天然資源を保護するために、公共地を管理することが定められた。また、メキシコでは、1917年の憲法改正によって、石油や鉱物資源などの天然資源が国有化された。
 旧ソ連においても、共産主義革命時に、バクー油田の国有化が実行されている。バクー油田は、ロシア帝国時代においては、外国資本によって開発、生産が行われており、利益を国内にとどめて活用するために国有化が行われた経緯がある。
 このように資源ナショナリズムは、最近になって提唱された概念ではなく、それなりに、長い歴史的な積み重ねを経た考え方である。

チリがリチウム関連事業を国有化

 チリのボリッチ大統領は、4月20日、国内のリチウム産業を国有化すると発表した。経済成長の促進と環境保護が狙いだとされる。チリは、世界第二位のリチウム産出国であり、埋蔵量では、世界第一位である。チリは、(生産量を開示していないアメリカを除く)世界の産出量の30.0%を生産しているが、第一位のオーストラリア、第三位の中国と合計すると、世界シェアの約9割を占めている。リチウムの生産量には、地域的偏りが大きいと言える。
 そのチリがリチウム産業を国営化するというのは、大きなニュースではある。とりわけ、EV化を進める自動車業界にとっては、リスク要因としても認識される。リチウムは、EVのバッテリーには不可欠な資源となっており、価格が高騰すれば、EV普及の足かせとなりかねない。供給量の確保も重要であり、世界一の埋蔵量を誇るチリが、安定的な供給体制を構築することの意義は大きい。

チリのリチウム産業と国有化のプロセス

 現在、チリのリチウム生産体制は、チリ国内企業のソシエダード・キミカ・イ・ミネラ(以下SQMと呼ぶ)と、アメリカ企業のアルベマールが担っている。これらの民間企業から、新たに設立する国営企業に事業を移管していくことになる。
 SQMには、2018年に中国のリチウム大手、天斉リチウム業が24%程度出資しており、純粋なチリ企業とも言い切れない。チリは、中国との関係性を強化しており、それもあって、SQMに出資したという経緯がある。
 SQMとアルベマールは、チリ政府との間に、長期の採掘権契約を締結しており、その契約は尊重するとされるため、即座に国有事業になるわけではない。SQMの契約は2030年まで、アルベマールの契約は2043年まで有効で、長期にわたって事業を継続することができる。
 また、民間企業がリチウム関連事業に投資すること自体は禁止されるわけではない。国営企業と民間企業が合弁会社を設立することも認める方針だが、その場合は、国営企業が過半を出資することになる。
 完全国有化ではなく、中国との関係性もにらみながら、民間企業の力も活用していくということになる見込みである。とはいえ、チリ政府の影響力は、非常に強くなり、国益を優先した意思決定が基本的には行われることになろう。

資源ナショナリズムの高まり

 資源ナショナリズムについては、前述の通り、100年以上の歴史があるが、気運が高まる時期と鎮静化する時期があった。現在は、各国において、資源ナショナリズムを主張する傾向が強まっていると理解される。
 例えば、インドネシアは、2020年にニッケルの未加工鉱石の輸出を禁止している。また、リチウムに関しては、まだ採掘実績こそないものの埋蔵量は大きいとされるメキシコが、2022年に国有化を宣言している。
 さらに言えば、石油産業に関しては、産油国の結束が強まっており、OPECプラスなどでは、原油価格を見ながら、産油量を調整する役割を強めている。最近でも、原油相場が下落すると、減産幅を拡大すると表明して、相場を支えている傾向が見られる。
 リチウム以外の資源についても、今後、資源ナショナリズムの広がりが見られることになるだろう。日本のような資源小国にとっては、非常に気になる動きであり、しっかりとフォローしていきたい。
 リスクヘッジのためにも、代替的な資源の活用や、そのための技術開発なども、積極化していくことが求められる。

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