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金の需給は心配ない!?



トルコ中央銀行の金売りで、需給が一時的に緩んだ

World Gold Councilの四半期アップデート

 8月1日にWorld Gold Councilの「Gold Demand Trends Q2 2023」が発表された。需要動向を中心にゴールド関連の統計をまとめたものである。
 4-6月期の統計データで、最も注目されるポイントとしては、このところ続いていた中央銀行による金買いが、スローダウンしていることである。これは、主にトルコ中央銀行による大量売却の影響だと考えられる。トルコ経済は、混乱状態が続いているが、(一時的に)その影響が出たものと推察される。トルコでは、一般国民の間に、トルコリラの下落や急激なインフレを受けて、金を買う動きが広がっているとされている。その需要に対応することも意図しての売却との見方がある。さらに、通貨安が続くことに関連して、為替介入資金に充当する目的だとの解釈もある。いずれにしても、トルコ経済の混乱に伴う一時的な金売却だったとされている。
 実際、トルコ中央銀行の純売却量は、132トンに達しており、世界の中央銀行全体の買い需要(純購入量)は、前年同期比35%減の102.9トンにとどまった。
中央銀行の需要減が大きく響いて、全体の金需要も前年同期比2%減の920.7トンとなった。

宝飾品需要

 最大の需要セグメントは、宝飾品用途だが、インドと中国が最も盛んに金を宝飾品に使う国である。4-6月期で見ると、インドが前年同期比8%減の128.6トンとなったのに対して、前年においてゼロコロナ政策の影響が大きかった中国は28%増の132.2トンとなり、インドを上回る宝飾品需要を記録している。
 インド、中国は伝統的に宝飾品に金を好む傾向が強いが、今回は、インドで需要が明確に減少している。インドでは、通貨安も手伝って、(現地通貨建ての)金価格の高騰が比較的強く影響したものと推測される。
 世界全体の宝飾品需要は、475.9トンとなり、前年同期比3%増にとどまった。このところ、金価格は高止まりしているが、2023年に入って宝飾品需要の伸びが復活しつつある。

投資需要

 投資需要は、前年同期比20%増の256.1トンと、堅調に推移している。4-6月期においては、バーとコインという現物投資が伸びたことが大きい。現物投資においても、インドは前年同期比3%減であったのに対して、中国は32%増と急増している。宝飾品と同様の傾向が見られ、同じ理由で説明できるものと考えられる。
 なお、金を対象としたETFについては、前年同期の-47.4トンから-21.3トンに売り越し幅が減少し、投資全体の需要拡大に貢献した。

テクノロジー需要

 半導体需要の減退などが響いて、テクノロジーセクターの金需要は、引き続き弱い数値が記録されている。4-6月期のテクノロジー需要は、前年同期比10%減の70.4トンにとどまった。
 内訳を見ると、エレクトロニクス向けが12%減の56.4トンと大幅減になっている。その他工業用は1%増の11.6トンだったが、歯科向けは10%減の2.4トンとこちらも大幅減となっている。歯科向けの不振は、価格高騰の影響が大きいものと見られる。他の素材で代替する動きがあったことと、コロナ期の反動需要が収まったことが理由として挙げられている。

中央銀行の金需要

 前述の通り、中央銀行の金買いは、全体としては前年同期比35%減となっている。しかしながら、その主たる要因は、トルコ中央銀行の大幅な売り越しによるものである。
 中国やポーランドの中央銀行は、4-6月期に大幅な買い越しとなっている。中国については継続的にハイペースで買い越しとなっているが、ポーランドは、4-6月期において、買い越し幅を48トンと急増させている。
 ポーランドについては、地政学的リスクに対処して、自国通貨の信用力を維持するためだと推察される。
 中国は、人民元の信用力補完と脱ドル依存のために金の準備高を積み上げている。6月末時点の金準備高は、2,113トンに達している。

供給側の状況

 供給面についても、簡単にまとめておこう。総供給量は、前年同期比7%増の1,255.2トンとなっている。鉱山からの産出量が4%増の923.4トンとなったのに加えて、リサイクル供給分が13%増の322.3トンに達したことが貢献している。
 鉱山の採掘に関しては、南アフリカの回復が著しい。前年同期比29%増を記録している。南アフリカでは、前年同期において、大規模なストライキがあって、生産が停滞していた。その反動もあり、大幅増となった。また、アフリカでは、ギアナにおいても、20%増となっている。アフリカ全体では、前年よりも11トン増加した。
 ロシアなど旧ソ連諸国のCISでは、前年同期比8トンの生産増となった。経済制裁の影響は、生産規模には出ていないが、コスト増になっているものと見られる。
 北アメリカの金生産も前年比7トン増加した。アメリカでネバダ州の鉱山などが増産に成功したことが主たる要因だとされる。

需給動向と金相場

 世界の金需給全体を見ると、4-6月期においては、総需要が920.7トンにとどまったのに対して、総供給は1,255.2トンに達しており、差し引き334.5トンの供給超過となっている。超過分は、前年同期比44%増加しているが、これは市中在庫として積みあがったものである。
 全体として見ると、4-6月期においては、中央銀行の金買いペースが鈍化したことと、半導体需要減退の影響でテクノロジー向けの金需要も減少したことが、需要減の要因となっている。一方で、バーやコイン等の現物投資の積極化で、投資需要は拡大している。
 また、供給面では、南アフリカのストライキの影響がなくなり、通常の生産体制に戻ったことなどで、供給量も大幅に拡大している。
 需給は全体としては、緩んだ時期ではあるが、地政学的リスクが意識される状況が続いていることもあり、今後も金価格については、底堅い動きが予想される。
 仮に短期的な金価格の下落があれば、長期的視点で、積極的に動く投資家は多いものと推察される。今後も金相場への注目度は、高いものと期待されよう。

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