ファーストリテイリングはどうなる?
中国の「人質」に取られている可能性を感じる
柳井正氏の発言から透けて見える実態
日本経済新聞(2023年1月16日)のインタビュー記事における柳井正氏の発言を読んで、ファーストリテイリングの経営に不安感を覚えた。足元の業績や財務状況については、優良企業という評価で間違いないが、将来のリスクは、意外と大きいと感じた。
柳井氏は、世界の分断化を憂い、ビジネスにおいては、世界が一体化していくとの認識を示したが、現実的には、政治と経済は表裏一体であり、切り離して考えることは難しい。実際、様々な取引規制が既に課せられており、実質的な影響も出ている。
ファーストリテイリングの事業は、ハイテク分野ではないため、あまり大きな影響はないと考えている向きもあるようだが、そう単純な話でもない。
ファーストリテイリングの決算資料などを見る限り、その中国依存度は、かなり高いと評価される。以前のように生産拠点を中国に集中していることはないようだが、市場としての中国を重視している傾向は読み取れる。
ファーストリテイリングの連結売上収益の4分の1近くは、グレーターチャイナと呼ばれる地域のユニクロ事業から上がっており、その影響度は決して軽視できない。グレーターチャイナというのは、中国大陸、香港、台湾を指している。
中国依存度が高いことが、柳井氏の発言の背景にはあるものと推察される。柳井氏としては、中国との関係性が悪化するとか緊張が高まることは、事業上のリスク増大要因であり、極力避けたいことであろう。今回のインタビュー記事では、その思いを吐露しているように見える。
中国の国家体制自体が日本企業には経営リスク
中国は、共産党による一党独裁であり、共産党の指導部の意思が決まれば、いかなる法令をも変更し、かなり無理のある政策でも実施できる体制になっている。最近でも、コロナ政策を巡る、急転換によって、大混乱に陥ったことは記憶に新しい。
また、中国に資金を投じることは、ごく普通に実行できるが、一旦投じた資金を引き揚げることは、簡単ではない。資金移動に際して、規制が多く、時間がかかったり、金額が制限されたりすることも、しばしば起こっているのが実態である。
さらに、実物資産の処分に関しては、フェアな価格でできるとは限らない。どのような買主に売却するのかにもよるが、日本企業が工場や店舗を売却しようとすれば、足元を見たような条件を提示されることが多いとされている。
私自身は、これまで中国本土でビジネスをすることを徹底的に避けてきたため、全く影響がないが、現時点でも、かなりの影響を被っている事例を多数見聞きしている。具体的内容については、詳細を書き記すことはできないが、資金移動に伴う横やりや、資産処分における不当な扱いなどは、日常茶飯事だろうと推察される。こうした事態は、当事者が開示しない限り表面化しないので、あまり報道されるようなこともない。中国当局を刺激したくないこともあって、あまり世間には開示されない情報でもある。
中国で日本企業が事業を営むというのは、そうしたリスクと隣り合わせであるということだと解釈される。日本との関係性が特段悪化したとは言えない状況でも上記のようなことは起こっていたため、今後、両国間の関係性が緊張感を高めるような展開になれば、なおさら意識しておくべきリスクになるだろう。
中国大陸のユニクロ事業は「人質」か?
柳井氏の発言の裏側を推測すると、中国における巨大なユニクロ事業の存在が見えてくる。前述の通り、ファーストリテイリングの連結売上収益の4分の1近く(2022年8月期における比率は、23.4%)を占めており、全体の事業基盤の中でも、存在感が目立っている。
ここ近年は、コロナ禍の影響が大きく、中国における収益動向も、中国のコロナ政策に左右されてきた。2023年8月期の第1四半期決算説明会においても、決算説明の中で、中国大陸における収益が下振れしている状況が語られている。逆に1月からは、急回復しているとも言われているが、いずれにしても、コロナ政策次第で、振り回されている状況があるようだ。
中国大陸には、2022年8月末時点で、897店舗を展開しており、その重要性は、非常に高い。店舗数でも、全世界のファーストリテイリングの店舗の約4分の1は中国大陸に分布している。
この店舗網と、売上収益の依存度の高さから推察されるのは、ファーストリテイリングの事業価値のかなりの部分が、中国の「人質」になっている状況である。中国当局と関係性が良好な限りは、何ら支障なく事業を継続できるし、そこで得た利益の一部を日本で享受することができる。しかしながら、一旦、中国当局と対立関係にでもなってしまえば、その状況は一変するリスクが存在している。これを指して、「人質」と表現しているわけである。
台湾有事になれば多大なる影響が想定される
現時点においては、平時ということで、通常のビジネスが営まれているが、仮に、台湾有事が現実のものとなれば、日本企業のファーストリテイリングにとっては、まさに悪夢の展開になる可能性もある。
中国、習近平政権による台湾侵攻のリスクは、現実的なものとなりつつある。正確な時期は予想できないが、現政権の下で、実際にそうした動きになる可能性は高いと見ている。全面侵攻には至らないまでも、限定的な武力衝突については、起こるものと覚悟しておくべきだろうと思われる。
このような状況下で、中国ビジネスの比率をさらに高めようとするような経営戦略は、合理性に欠けているものと、私は考えている。
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