単にサプライズが素敵なのではない
察してくれることが愛情だと信じていた
大人になって分かったことの一つとして、
「自分で伝えなきゃ相手はわからない」ということがある。
文字にすればそりゃそうだと思うのだけど、どうやら私は普段から言葉が足りないらしい。
私が「あれがさぁ、」と言えば、瞬時に何について何を言いたいか理解してくれる。
私がなんとなく口数が少なくなれば、「あなたの好きなあのお店に行こうか!」と、落ち込んでいることをわかって連れ出してくれる。
そんな「阿吽の呼吸」とでも言えるようなコミュニケーションができることこそ、真の友人・恋人である、と昔から思っている節がある。
近い相手こそコミュニケーションコストがかからないと思っているのだ。
だから「曖昧な会話」が伝わることが嬉しいので、進んで「曖昧に」会話をしてしまう自分がいる。
知らず知らずに察して行動してくれることを期待してしまう自分がいる。
察してくれたエピソードを美徳として語りたがる
事実、そういった類の話はもてはやされる。
SNSなどでは、
『風邪で寝込んでたら、彼氏がお粥を作ってくれていた』
『私の好きなデザインのアクセサリーをくれた』
『サプライズとかしないタイプだったのに、記念日に花束を買ってきてくれた』
と、何も言わずとも素敵なことをしてくれるスーパー彼氏たちのスーパーエピソードが転がっている。
(私は日々のSNSパトロールで、この類のエピソードを大量に摂取しており、「どんなに嬉しいことだろうか……」と感嘆している。特に最後のエピソードはお気に入りで、その投稿を見返すことがある。)
なぜこんなにも察してくれたエピソードとして美しく語られるのか。
フィクションによって作られた「ハイコンテクストコミュニケーション信仰」に溢れてるからではないか?という結論に至った。
フィクションによって作られた察しの美学
歌でいえば私の世代ではORANGE RANGEの『以心電心』が流行った。
「黙ってたって気持ちはわかる、テレパシーで繋がってる」みたいな、みんなが好きそうなフレーズに溢れている。
この曲が流行ったとき、私はまさに中学生。私は中学校のさまざまなジャンルの人間が集まるクラスの雰囲気に馴染めず、限りなく孤独な生活を送っていた。
そんな中、みんながこの歌を聴いており「友達ってこういうもなんだろうな」と刷り込まれた。
恋愛映画や小説でも、「言わなくてもわかってくれた」みたいな瞬間が描かれ、皆そこにときめく。
突然彼女が姿を消しても、きっとあそこにいるだろう、と察して無事に落ち合い仲直りするストーリーを、何度見ただろう。
昔読んだとある小説で「1年付き合って仲も深まり、彼女がどんなアクセサリーが好みかわかってきた」と語る彼氏の描写があった。
私はこの一説にいたくときめき憧れた。
しかしこれらは、作詞家・作家が、日本人として美徳とされるものを、作品としてさらに尊く描いたものだ。つまり、フィクションが作り上げた幻想だ。
そうじゃなきゃ皆あこがれないから、そういう話を作ったのだ。
『察してくれた』ことを美しく描かれることによって、わたしたちはそれが素晴らしいことのように感じるんだと気づいた。
なんだ、『少女漫画に憧れる夢見がちな少女』と一緒だったんだ。
サプライズの裏側にあるもの
阿吽の呼吸をしているよう見える彼らも
きっとそう見えているだけで、彼女らはたくさんコミュニケーションをとり、同じような状況を繰り返して理解し合えたのであり、
その人の様子だけを見て察せられたわけではないだろう。
上で書いたスーパー彼氏たちだって本当に彼が察して行動したのだろうか。
サプライズできるようになった彼氏を持つ彼女は、毎日栄養バランスの良いお弁当を彼氏に作り、サプライズが大好きだ。
彼らの生活には、きっと日々「彼女からの」サプライズと、「彼女の」心がこもったエピソードに溢れているだろう。
だから、サプライズが苦手だった彼にも花束を用意する勇気が出たのかもしれない。
好みをわかったプレゼントをもらった彼女も、「普段からこういうデザインの指輪が欲しいんだよねと話していた」とのことだ。
しかし、こうした裏で行われていたコミュニケーションをなぜか隠す。
「察して行動してくれた」ことの方が美しいからだ。
サプライズをできるようになったこともすごいが、「日々彼にサプライズを沢山している」ことや、
「日々自分の好きなものを話して、それを流さず聞いてくれる」ということだって十分美しいのに。
もっとそういう話ができればいいのにと、最近はそう思うようになった。
サプライズが尊いのではなく、その行動ができるまでのコミュニケーションの積み重ねが尊いのだ。
会話を積み重ねられていることに喜びながらコミュニケーションをしていこうと、思うのだった。
そして、サプライズよりもコミュニケーションの積み重ねが美徳とされるようになってほしいと思う。
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