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回転の怪聞の転回

「人は嘘をつく。人は嘘をなぜつくのか。嘘はその人に利益をもたらすからである。という嘘にぼくは騙されている」

「玉ねぎをみじん切りにするときってどうやるのが正しいのかな。正しい方法を調べてみたけど、それが正しいとは思えなくて。そういうことが多くて疲れたのかもね」

「使えない人間がいる。仕事ができる人間は、モノになることができる人間だ。モノになれない奴は、みんな使えない」

「やりたいことに、無分別に手を出していると、そのうち何もできなくなったんだよ。積まれた本は、更に積まれていく。見たい映画は、忘れていく。聴きたい音楽は、ただ消費する。結果、何も残らない。であるなら、何もしなくていいじゃないか。でも、退屈に耐えられず、何か少しの興奮を探し倦ねている。そして今日が無くなる。何を期待しているんだろうね」

「子どもの頃とか、友達の口調が移ったりすることなかった?仲間だって証明みたいな気がしてたのかなあ。それかあたしは相手と同質になりたかったのかも。でも段々そういうことがなくなって。仲間意識みたいなものが鬱陶しくなったんだと思う。でも最近、ふと気づいたら、口調が移ってたんだよね。これってどうなの?好きなの?」

「優しさって何だろう。強さなのかあるいは、弱さなのか。優しさを装った優しさは、どこにでもあるよね。例えばさ、決定権を相手に譲るふりをして、実のところ、自分が決定権を持ちたくないんだよ。みんなそうだ。俺もね」

「残りひとつのものを、どうやって他者にあげようか。たくさんあるものは割りと簡単にひとにあげることができる。でも、あとひとつのものとなるとそういうわけにはいかなくなってくる。それが生きるために必要なものなら尚更だ。でも、あげるべきだという気がするんだ。ボクは既にそれを貰っている気がして怖いんだ」

「ありがとう、とか、ごめんなさい、とか、そういう簡単な言葉を言えない人がいるけど、オレはそういう言葉を簡単に言える人も嫌いなんだ。簡単な言葉ではあるかもしれないけど、軽い言葉ではないんだ。言えば何でも伝わると思っている人の言葉はいつも無意味で軽薄だよ。言っても伝わらないから、必死に伝えるんだ」

 駐車場として固められたコンクリートの上に、五月雨が打ち付けられて、無数の波紋が煩くぶつかり合っている。まるで家族、友人のように。私は不安に思った。この雨に愛を抱けるだろうか。

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