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#イベントレポート「実践者に学ぶ!企業課題を解決するデザイン経営の極意」

「NIKKEISHA STARTUP TABLE」では、スタートアップの「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。

組織が大きくなるにつれて、組織のカルチャーをどのように育てていくのか、悩みを抱えている企業も少なくないのではないでしょうか。新しい価値を創出するためにも、その価値を広めていくためにも、そして組織のメンバーが意義をもって仕事が出来るようになるためにも、経営や組織戦略の面において「デザイン」はとても重要な役割を担っています。

よく謳われる「デザイン経営」とはどのようなものなのか。なぜ今求められているのか。

先日、「実践者に学ぶ!企業課題を解決するデザイン経営の極意」と題して、デザイン経営の考え方や具体的な取り組み例について、KESIKI INC.の石川俊祐氏とシタテル株式会社の河野秀和氏にお話しいただきました。その講座から、ポイントを少しだけご紹介します。

■デザイン経営とは「愛される会社のデザイン」

ウェビナーでは、デザイン経営によって実現される「MEANINGFUL COMPANY(らしさを持って、創造し続ける企業)」がどのような企業なのかについて、石川さんからお話ししていただきました。

石川様_プロフィール

VUCAの世の中と呼ばれる変化が非常に激しい時代、従来と同じようにやっているとなかなか立ち行かない、競争力も強まらない、という課題があります。その中で、今の会社で働く意味が問われたり、その会社に対する愛情や情熱がないと働く意味も見出せなかったり、といったことも経営課題になってきています。私たちは、そこにデザイン経営が役立つものと考えています。

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私たちは、デザイン経営を「愛される会社のデザイン」という言葉で表しています。

モノやサービスのみをデザインしていても、会社自体が良くなっていくことに繋がらないと、会社自体も成長しません。例えば消費者やお客様からは愛されていても、社員自身が非常に疲弊している状態になっているのは望ましい状況ではありません。だからこそ、「愛される会社」を目指すことが大事です。

愛される会社のデザインの実現には、「カルチャー」と「イノベーション」の2つの輪で取り組みます。

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「イノベーション」とは、人々のことを想像しながら新しい価値をどうやって生み出していくのかに取り組む部分です。「カルチャー」の輪は、それを実施していく働く人々や会社自体のカルチャーそのものをどうデザインしていくかといった部分になります。

会社の意義が明確になることで、社員の人々もこの会社で働くことの意義を知り、自分ごと化できるようになります。その“会社らしさ”を持ったうえで、新たな価値を創り続ける、ということが大切です。左右の輪を両立させることで、愛される会社をつくることができるのだと私たちは考えています。

■デザインとは「誰かを深く思いやること」

私たちは、見た目や形だけではなく目に見えないものも含めて、「デザイン」をより広い意味で捉えています。

そもそも「デザイン」とは何か?
私が昔イギリスで学んだ、デザインで大事なポイントは、次の2つです。
現場へ行って観察し、何を感じたのかを明確にすること。そして、そこで発見したことを形にし、その場に持っていってみて何が変わるのか、を繰り返し続けること。その中で、自分なりに感じた解釈や主観をどう形成するのか、といったところがデザイナーとして最も問われる部分でした。

ここで大事なことは、どれだけ想像力を働かせて、そこにいる人々の体験や過ごし方や新しいライフスタイルを想像できるか、どこまで思いやりを延長することができるか、ということです。

イギリスでは、産業革命の時代にデザイナーのウィリアム・モリスが主導した「アーツ・アンド・クラフツ運動」が起きていました。産業革命によって、人々の生活は確立されたものの、手仕事をする人々の業務が単調になってしまい、意味を失いつつあるという課題がありました。生活者にはより良い生活を提供するべきだし、手仕事をする労働者にも仕事にやりがいを感じてもらおうとする運動でした。
そうした歴史から見えるのは、デザインというものが、経済的に合理的なものを生み出すだけではなく、文化的や社会的にどんな意味をもつのかを掘り下げることにも寄与するということです。

今の世の中では、実は経営の観点でも似たような課題が起きています。企業が経済的にうまく行けばいいかというとそれだけではなく、社会的・文化的にどのような意味をもつのかが議論されている状況です。そうした状況だからこそ、デザインと経営の関連性が高くなっていると私たちは考えています。

先にもお話した通り、デザインというのは、形をつくる前に、まずは観察し想像すること、つまり“誰かを深く思いやる”ことが大事です。

一つ、事例をお話ししましょう。

成長ホルモンを自身の体内で作ることができない体質の子供たちがいます。医療機器の会社が、そのような子供たちに対して何か出来ないだろうかと考え、デザイン会社に相談を持ち掛けました。

そこでフォーカスしたのは「恐怖時間を取り除く」ということでした。
子供たちは毎晩注射をしなければなりません。それは、痛い思いを伴う恐怖の時間でした。その恐怖の時間をいかに取り除くのかが、デザインのチャレンジとなりました。注射のための製品を、形や色を変えておもちゃのようなフレンドリーなものにしたりしながら、試行錯誤を繰り返したのです。

その中で、私が一番思いやりの深さを感じたのは、心理的なデザインでした。

形を変えても痛いのは痛いのです。さまざまな側面から観察や試作を行っていく中で、メンバーである心理学者の一人が、心理的であれば痛くなくなることを実現できるかもしれない、と考えました。

それは、毎晩注射する時に、針の深さやスピード・注入時間などを子供たちが親と一緒に対話しながら選択する、というオンボーディング期間を1週間設けましょう、というアイディアでした。初日はこのくらいのスピードで行い、痛みはどうかを確認します。そのようにして毎日続けることで、これなら痛くないという自分にぴったり合う設定が導き出される、というものでした。

実は、深さやスピードは、物理的には全然痛みとは関係のないものです。しかし、そうしたプロセスを経ることで、子供たちは自分で選んだという事実により、痛みを感じなくなっていくのです。

どのくらい相手を思いやることが出来るかがデザインのキモとなります。

■本質的な問いが、ものごとの再定義を促す

デザインシンキングもまた、人を思いやるというところが起点となっています。

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人間の欲求やニーズを、テクノロジーでどのように実現するか、ビジネスでどのようにサステナブルなものとするか、を考えていくことがデザインシンキングです。人を起点に始めることで、人間と未来の潜在欲求を発掘し、新しい価値を生み出すことが可能になりますデザインシンキングの方法は、0→1で新しいものを生み出すことに強みを持ちます。

ユーザーから直接答えを教えてもらおうというのでは、新しいものは生み出せません。例えば、馬での移動が主流だった時代、馬に乗っている人=コアユーザーに話を聞くと、馬に乗りやすいようにしてほしいとか、もっと速く走れる馬が欲しいとかいった、改善するための情報はたくさん得られます。しかし、その要求のままにプロダクトを作ったとしても、競合他社の人々でも同じようなものが出来てしまうため、競争に勝つことは出来ません。ニーズやペインが単純に表層化しているものだからです。

しかし、そこからさらに、なぜ馬に乗る必要があるのか、馬に乗らないといけないのか、ということを深く掘り下げていくと、そもそも馬ではなくてもA地点からB地点へ早く着ければ良いとか、A地点にいながらB地点の人と話が出来れば良いといった、そもそもの問いを打ち立てることが出来るようになります。それは、車や飛行機、電話などを生み出すことが出来る問いとなるのです。ユーザーを深く知る、共感するところまでいくことで、新しいものを生み出すことが可能になります。

そもそも、デザインとは「De-sign(“既成概念”を”壊す“)」が語源です。再定義をすることが前提になっています。世の中を新たなものにするということこそが、デザインなのです。

人を深く知ることをしないと、ビジネスの輪とテクノロジーの輪を行ったり来たりするのみで、ずっと改善することに終始してしまいます。本質的な人間の欲求を捉え、それをどう自分達なりに理解して自分達の解釈に落とし込んでいくことが出来るか、そしてそれを他社に先駆けて行っていくことが出来るか、が大事です。

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本質的な問いは、市場を塗り替えます。
デザインシンキングとは、再定義を促すために非常に使えるメソッドです。

■MEANINGFUL COMPANY(らしさを持って、創造し続ける企業)

ここまでは、モノをつくることにおけるデザインをお話してきました。

現在は、モノをデザインしていく会社自体がいかに創造的であるか、そのカルチャーをどうデザインしていくのかが大事になってきています。ここからは「らしさ」についてお話します。

とある会社から「空気をデザインしてほしい」という相談がありました。

その企業の社長自身は、世の中を観察して何かをデザインするということを昔から行ってきた方です。そのことを会社規模で考えた時に、社員にも同じようにアントレプレナー的な働きをしてもらえるよう、それが出来る環境や空気をいかに作っていくのか、が課題でした。

そこで、まずは組織のありたい姿や存在意義を明確にして、その目指すべき新しい会社における慣習を具体化していきました。大事なのは、パーパスを明確にするだけではなく、行動まで落とし込んでいくことです。よくありがちなのは、ミッションやビジョンを定義するけど、それが日々の行動にどう落ちていくのかが分からないといった状況です。ミッション・ビジョンの解像度を高め、自分達らしさを浸透し、目的を持って働くことのできる組織文化を育てる。きちんと組織の体制や環境、社員一人一人の習慣にまで落とし込んでいくことが非常に重要です。

現代において、会社にも人格がある、という考え方は大事です。外から見られたとき、または中から見たときに、どういう人として捉えられるのかが問われる時代です。それは、採用にもそうですし、社員のモチベーション維持にも、働く意味をもってもらうことで生産性を上げていく、ということにも影響してくるものです。

会社として、経済性の視点は、存続させていくためにもちろん重要なものです。それと同時に、社会性というところにも視野を広げることで、社員が働く意味や存在意義をより見出すことが出来るようになります。また、文化性の観点からも、その会社独自の価値や創造性をいかに身につけるかを考えることが、会社自体をデザインすることにとって重要な要素です。

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もともとデザインは「つくる」の領域で使われてきました。「らしさ」の会社のカルチャーの領域にもデザインを応用することで、「らしさ」と「つくる」の両輪を並び立たせることが可能になります。

そして、「らしさ」と「つくる」が直結することで、ビジョンとサービスやプロダクトとが繋がり、やっていることと存在の仕方そのものがニアリーイコールとなることで、「愛される会社」へとなっていくのです。

■シタテルが目指す世界

後半では、シタテル株式会社の河野さんから、より実践的なカルチャーデザインのお話をしていただきました。

河野様_プロフィール

シタテルでは、ビジョンに「IMAGINATION 人々の想像力を解放し、人類の豊かな未来をつくる。」を掲げています。何も特別な才能を持った人だけでなく、すべての人が「想像する力」を解放していって、より豊かな社会や未来を実現していく、そんな想いを掲げています。

また、ビジョンの実現手段として、ミッションに「ひと・しくみ・テクノロジーで衣服の価値を変える。」も設定しています。多くのメンバーは、このミッションに強く共感して事業に参画しています。

現在、衣服・ライフスタイル産業は「非ネットワーク/非コミュニケーション/非ワークフロー」といった3つの大きな課題を抱えています。まさに多重構造化された産業の代表格とも言え、課題が山積しているような状況です。また、消費者の細分化も進んでいます。売り方についても、コロナ禍の影響もありEC化率が高まっていますし、素材や機能、生産体制なども非常に多様化が進んでいる状況です。

シタテルの創業は2014年。こうした課題やニーズを補完し解決するためのプラットフォームを提供してきました。今では、アパレル事業者だけでなく、さまざまな企業が「何かをつくる」という時に利用していただいております。

私たちが今取り組んでいるのは、単にプラットフォームを拡大させるだけではありません。
産業全体では、大量生産・大量消費・大量廃棄といった課題が非常に目立ってきており、シタテルでは衣服の消化率を2025年までに70%にまで高めることをコミットしています。もちろん1社で出来ることではないので、エコシステムのさまざまな企業と取り組んでいるところです。

社会課題・産業課題に対する、新たな取り組みを一つご紹介します。
現在、「1/2 ENERGY(ハーフエナジープロジェクト)」という取り組みを進めています。シタテルのプラットフォームを介してものづくりを行うと、従来の衣服バリューチェーンで発生していたエネルギー量を半分にすることが出来る、という取り組みです。将来的には、1/5や1/10にまで、エネルギー消費量の縮小を目指しています。

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衣服・ライフスタイル産業は、全産業の中でも2番目に位置するほど、非常に多くの水を使う産業です。私たちの本社は熊本にあり、水が豊かな地域でもありますので、そうした地域環境にも貢献したいという想いもありました。

こうした活動を行うにあたっても、とってつけたようなCSR活動としてではなく、「経済性」と「社会性」を両立・反響させるCSVとして取り組んでいます。経済性と社会性は一見すると二律背反なイメージがありますが、十分に共存できますし、むしろ共鳴させ、相乗効果を生み出しながら進めています。

■組織戦略の具体的な進め方

ここからは、シタテルの組織戦略をどのように行っているのかについて、ご紹介します。

長期的な利益を得るための戦略として、大きく二つの考え方があります。

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戦略に伴って組織を有機的に変化させていく「SP型(Strategic Positioning)」と、組織の能力を生かした、人・組織ドリブンの「OC型(Organizational Capability)」です。

この2つには、それぞれメリット・デメリットがあります。
例えば、SP型ですと、非常にフレキシブルに事業の価値を創出しやすく、「想定~設計~実行~修正」というサイクルにおいても、修正の部分が非常に築きやすいものです。しかし、常にリファインしていかなければなりませんし、先手を打ち続ける、創造し続ける必要があるので、企業によって出来るところが限られてきます。

それに対してOC型は、人に依存するところがあるため、他社にマネされづらいという特長があります。長期的には組織をデザインすることにもなっていくので、今まさに必要性が高まっている戦略かと思います。ただし、構築していくまでには時間がかかりますし、組織が大きくなるにつれて軌道修正やドラスティックな判断を行うことへの難易度も上がっていきます。

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結論としては、どちらか一方というわけではなく両方の要素が必要です。その中で、理想に近づくためのアプローチとしてどちらを強めていくのかを考えることが重要なのです。

精度の高い戦略ももちろん大事ですが、それを運用していくのは人ですので、シタテルでは、常に柔軟に対応できるしなやかな組織となるよう、組織力を高めることに重要性を置いています。

例えば、それぞれの部門の経営メンバーが、企業の価値を最大化させるだけでなく、それぞれのケイパビリティを補完しあうことを意識し、組織としての一体感を醸成しています。

「ビジョン」と「ミッション」、そしてその行動指針である「ベースバリュー」においても、重視していることがあります。

ベースバリューは、「それは未来か。」「それはゴールか。」「それは幸せか。」と大きく3つに分けて示しています。ベースバリューに基づく明確な行動指針を、イラスト等で分かりやすくまとめた冊子を制作しました。社員がいつでも見ることができるようにし、じわりじわりと浸透を図っています。

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この3つの指針は、ESGの「E(Environment)」「S(Social)」「G(Governance)」にも対応しています。先述の1/2 ENERGYをはじめ未来をきちんと考えていくこと、美しい目標を掲げるだけでなく、組織としてもきちんと成立させて産業や社会全体に貢献する体制をつくっていくこと、社員は充実した仕事が出来、パートナーとも誠実なコミュニケーションをとっていけること。

こちらは石川さんと一緒に制作したものです。行動指針を決める際には、社員にも参加してもらい決めていきましたので、非常に納得感のあるものになったと思います。

私たちは半期に一度、メンバーのミッション設定を行っています。定量設定については、目指すKPIや自部署の数値的な指標をもとに上長と相談のうえで基準を決めていきますが、定性設定では、このベースバリューに関連する自身のアクションを、メンバー自らの意思で目標として設定してもらっています。

単に冊子を配るだけでなく、評価シートと連動させ運用していることが、ビジョン・ミッション・ベースバリューの浸透に非常に有効だと思います。ビジョンをつくるだけで終わらせず、きちんと実働させていくことに本気で取り組んでいくことで、より良い組織をつくることができます。


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