インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるためには?【課題理解編】
「小学生の放課後の現状と課題」シリーズでは、日本の小学生の放課後の現状と課題をひも解いて、解決のためのヒントを探ります。
今回のテーマは「インクルーシブな放課後の居場所づくり」についてです。
本記事は【課題理解編】と【実践編】の2回に分かれています。課題理解編では「インクルーシブな放課後の居場所づくり」を進めていくための課題について考えていきましょう。
▼【実践編】はこちら
▼Vol.1『データからひも解く「小1の壁」~原因と解決へのヒント~』はこちら
要配慮の子どもたちの放課後の居場所づくりが進まない?
今年4月にSNSで「#学童断られた」「#学童クビ」というワードが話題となりました。実際、発達に特性がある子どもが学童への受け入れを拒否される、もしくは受け入れを制限されるという事例が少なからずあります。
本来、どんな子どもにとっても放課後は自由で好きなことをして過ごせる時間であるはずが、障がいや発達に特性のある子どもにとって安心して通うことのできる放課後の居場所が少ないという現状があるのです。
保護者の声から見えてくること
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが学童を利用する障がい児等の保護者等を対象として実施した「放課後児童クラブの医療的ケア児を含む障害児の受け入れ体制及びインクルージョンの推進に関する調査研究」(2023年3月)では、保護者の学童に対する不満として「スタッフの対応や障がいへの理解に差がある」「学校や放課後等デイサービスとの連携がない」「受け入れを拒否されたことがある」などの声が集まりました。
また、放課後の過ごし方について国や自治体から受けられると良い支援や仕組みについては、「専門知識のあるスタッフがいると安心」「個別に相談できる専門機関との連携」などの声が集まりました。
受け入れ施設側が感じている課題
放課後NPOアフタースクールが2023年に全国の放課後の居場所運営に携わる行政職員または事業者に実施した、「小学生の放課後の居場所における要配慮児童の受け入れに関する調査」では、約70%が「要配慮児童を含めてすべての子どもの受け入れが必要だ」と回答したのに対して、「受け入れが十分にできている」と回答したのは45%にとどまりました(調査結果1-1)。
受け入れにあたっての課題を聞くと、「他児とのトラブルへの対応(73%)」や「コミュニケーションが難しい児童への対応 (45%)」など、スタッフの専門性の不足についての回答が多くあがりました。また、人手不足や場所・環境面の不足も問題となっていることも伺えました(調査結果2-1)。
要配慮児童を受け入れている施設からも、人手や専門性、場所・環境の不足を訴える声が多くあがっています。また、職員の負担が大きい、職員間での共通理解が難しい、当該児童や他の児童にとっても適切な居場所になっていないなどの問題が生じている状況が伺えました。
一方、要配慮児童の受け入れにあたって自治体等からどのようなサポートがあるとよいかを聞くと、 「職員への研修や専門性の向上」が最多、そして「学校や専門機関との連携・情報共有」「子どもの対応に関して専門家に気軽に相談できる体制・システム」などの回答があがりました(調査結果4)。
保護者・受け入れ施設スタッフの声から見えてくる課題
保護者や受け入れ施設スタッフの声からは、子どもたちが通う放課後の場が必ずしも要配慮児童にとって居心地のいい環境になっていないという現状が見えてきます。
こうした声をふまえて、「インクルーシブな放課後の居場所づくり」を進めていくための課題は4つあげられます。
①スタッフの人員拡充
放課後子供教室などではどのような子どもも受け入れはしているものの、スタッフの適切な人員配置ができていないところも多く、1対1の対応が必要である子どもに対しても十分な対応ができていない施設もあります。人手不足によってスタッフの業務量が増加し、疲弊している現場もあります。適切な人員配置を行い、スタッフがしっかり子どもと向き合えるよう人手を増やしていく必要があります。
②スタッフの専門性向上
現場では、特性がある子どもに対しての適切な支援方法が分からない場合や、スタッフ間で対応方法がうまく共有できていないケースがあります。子どもの発達や障がいについて正しく理解し、一人一人に合った支援についてスタッフ間でコミュニケーションをとりながら実践していくことで、施設全体の専門性を向上していくことが必要です。また、子ども同士が互いの理解を深められるような環境を作り出していくこともスタッフの専門性として求められています。
③場所・環境の拡充
子どもが癇癪を起こしてしまった場合は言葉で伝えられずに、物や人に当たってしまうこともあります。そのようなときは他の子どもと距離を離したり、静かな場所に移動させて落ち着かせたりする環境を用意する必要があり、そのためにも活動の場所・環境を拡充していくことが求められています。
④関係機関・専門機関との連携強化
学校と学童の連携、そして放課後等デイサービスと学童の連携を求めている保護者が多いことが調査結果に表れています。また、子ども対応への学童スタッフの悩みや、保護者の悩みについて気軽に相談できる窓口を拡充していくことも課題としてあげられます。悩みがあってもどこに相談してよいか分からず声を上げることすら諦めてしまう保護者や、専門家に相談したくてもできない施設スタッフも少なくありません。専門家に気軽に相談できる体制やシステムを構築していくことが求められます。
【課題理解編】ではインクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるために、保護者や受け入れ施設側の声をふまえた4つの課題について提示しました。
【実践編】では、これらの課題がある中で現場で取り組めることから工夫して実践している事例についてご紹介します。
文:コミュニケーションデザインチーム・佐々木