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インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるためには?【実践編】

今回は「インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるためには?」の【実践編】をお送りします。

インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるにあたって、保護者の声や受け入れ施設側の声をふまえると以下の4つの課題が見えてきました。

①スタッフの人員拡充
②スタッフの専門性向上
③場所・環境の拡充
④関係機関・専門家との連携強化

▼【課題理解編】についてはこちら


今回は、これらの課題がある中でも実践可能な工夫をすることで、インクルーシブな放課後の居場所づくりに向けて取り組んでいる放課後現場の事例を取り上げていきます。

放課後NPOアフタースクールが運営する都内の放課後子供教室の責任者に、具体的な実践事例 についてインタビューしました。

インクルーシブな放課後の居場所を目指した事例

―スタッフの人手不足・専門性不足が課題としてあがる中で、現場で取り組んでいる工夫はありますか?

人手不足解消のための採用活動は継続的に行いつつ、少ない人数でも効率よく運営していくためには、まずはスタッフの目線合わせが重要です。例えば一般的な業務の見える化を行うために、業務マニュアルを作るなどしています。

専門性については、行動・マインドの両方の意味で底上げを目指しています。外部の専門家の研修に現場の代表として参加したスタッフがそこで学んだ知見を共有する勉強会を企画し、スタッフ全員で受講しました。

さらに終業ミーティング時にはスタッフ同士で一日を振り返り、子どもたちの過ごし方や様子、他のスタッフが活かせるような気づきなどを共有しています。学んだことを現場でどう活かせているかをみんなで共有して、全員が学んだ知識を実践できる状態を目指しています。これによってスタッフに共通認識が生まれ、連携が取りやすくなると思います。

勉強会の様子

―同じ現場で働くスタッフに意識して伝えていることはありますか?

基本的に「良い支援」はその人その時それぞれと考えています。スタッフ間で最低限の共通認識を持った上で、臨機応変に支援を行うことが第一です。

その場でスタッフが行った支援や見守りは正しさを突き詰めていくときりがないですが、子どものことを一番に考えたのであれば、それはその時そのスタッフが取れる最善の行動だったと周りも該当スタッフも感じられるようにしています。

―場所・環境不足に対して何か工夫されている取り組みはありますか?

子ども全員に適切な環境を整えることは難しいため、どうしても個別対応になります。一つのエリアで場所を確保するためには、子どもの視覚と聴覚を制限することで比較的うまくいっています。

例えば、自閉症傾向のある子は聴覚過敏性がある場合も多いので、ブロックなどが床に落ちても音が響かないように普段使っている教室の床に吸音性のマットを敷く、イヤーマフを貸し出すなどです。

またパーテーションの設置や、使用している机を壁向きに置くだけでも、視界が制限され落ち着く子もいます。

―関係機関との連携について、何か取り組んでいることはありますか?

現場側から積極的に動くことで、つながれるところはどんどんつながって、該当の子どもについて考える大人の数を増やしていくようにしています。公設であれば役所に相談して心理カウンセラーを紹介いただき、巡回や研修を実施いただくことも可能です。

また、放課後等デイサービスや学童を併用している保護者には子どもに関する共有事項についてお伝えし、そこから他機関への情報共有につなげていきました。公設の場合は役所を通じて他の関係機関とつながれる可能性も大きいです。

―子どもたちとの関わりについて工夫していることはありますか?

例えば、ユニバーサルスポーツ(ボッチャやシッティングバレー)を行ったり、工作では子どもそれぞれの難易度に調整したりすることで、「誰でも楽しめる、参加できる」プログラムを実施しています。

子どもたちが一緒の空間で共通の遊びを行うことで、自然と他者を理解し尊重することを学んでいくきっかけになればと思っています。

シッティングバレーの様子

―子どもたちの印象に残っているエピソードはありますか?

発達に特性があり、大好きなブロックに熱中して室内で一人で過ごすことが多かった子が、スタッフの寄り添いやサポートもあり 、同じくブロックが好きな子どもたちと一緒に遊ぶようになっていきました。好きなことを通して友達の輪を広げられるようになったんです。

今はもう6年生で、他の子の「好き」にも興味を持つようになり、外に出て遊んだり、お絵描きをしたりと活動の幅を広げています。それだけではなく、みんなが気持ちよく一緒に遊べるようにけんかがあれば理由を聞いたり、話し合いの仲介をしたりなど、上級生らしい姿を見て成長を実感しました。

―保護者とのコミュニケーションで工夫していることはありますか?

 私たちの放課後子供教室には外国籍の子も多く、保護者が子育ての悩みを抱えていても言葉の壁で相談ができないご家庭も多くあります。​そこでやさしい日本語の案内を用意し、保護者だけでなく子どもも交えて談話するなどして信頼関係を築いています。​

​また、保護者の方には子どもの成長エピソードや、うまくいったことを積極的に伝えるようにして不安を解消したり、「こういう声かけがよかったと思う」など関わり方の案も伝えたりして、安心感を持ってもらう工夫をしています。​

当初は環境に慣れずに一人で施設への階段を上ることさえできなかった特別支援学級の子どもも、今では放課後の交流を通して通常学級の友達も増え、そういった話をお迎えの際に共有しています。保護者の方も成長エピソードを楽しみにしてくださっており、一緒に成長を見守る実感を持っています。


インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めていくために

事例のようにスタッフ同士の目線合わせを行い、子ども・保護者に寄り添った取り組みを行うことで、子どものポジティブな変化を感じている現場もあります。現場によって状況は変わりますが、それぞれの現場で実践可能な取り組みがあれば少しずつでも取り入れていくことによって、子どもたちの可能性はひらいていくはずです。

ただ人手不足など、現場における工夫では解消できない課題は存在しており 、自治体側も課題解決に向けて対応していくことが求められます。
また、保護者や受け入れ施設が専門家に気軽に相談できる体制・システムの構築も必要とされています。自治体が課題解決に向けた取り組みを行い、自治体間で積極的に情報共有していくことも期待されています。

放課後は子どものより良い成長につながる場として大きな可能性を秘めており、子どもに放課後の居場所があることで、子ども・保護者のウェルビーイングにもつながっていきます。保護者・受け入れ施設、そして自治体がどのような子どもにも良い変化が現れ成長につながることを信じて、連携・協力しあうことが子どものインクルーシブな放課後の居場所づくりを進める一歩となるのではないでしょうか。


▼ 放課後事業者の方へ

 【参加者募集】インクルーシブな放課後の居場所を目指して、放課後児童クラブ等を支援いたします!

このたび放課後NPOアフタースクールは、コンソーシアム構成団体のREADYFOR株式会社と共に「『排除』から『包摂』へ インクルーシブな放課後創造事業」に対する資金分配団体に選定されました。同事業を推進する活動を行う実行団体 を公募にて募り、採択された団体に対して資金支援および非資金的支援を提供いたします。
 
特性・事情・環境にかかわらずすべての子どもが成長できるインクルーシブな子どもたちの放課後の居場所づくりを進めていくためにも、放課後事業者の皆様にはこの事業へのご応募をご検討いただき、共に解決に向き合っていただけましたら幸いです。

【公募〆切】
2024年6月4日(火)17時(予定)

 
詳細はこちらよりご覧ください。