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3年後の「拘禁刑」施行に向けて、再犯防止・社会復帰につながる刑務作業のあり方を考える ー 被害者・加害者支援双方の視点からの対話レポート

「刑務作業が必須でなくなったら何をする?~新たな「拘禁刑」に向けた公開トーク」というトークイベントが、2022年9月23日に行われました。今回のnoteでは、このイベントの対談内容をダイジェストでお届けします。

「拘禁刑」という言葉をはじめて聞く方も多いと思いますが、これはいったいどのような制度なのでしょうか。

「拘禁刑」は、受刑者を刑事施設に拘置した上で「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、必要な指導を行うことができる」両刑であると規定されています。2022年6月13日に参院本会議で可決された改正刑法によって創設されました。
 
これまで、犯罪を犯して刑務所に入ることになった受刑者に課される両刑は、刑務作業が一律に義務づけられる「懲役刑」と、作業が義務化していない「禁錮刑」の2種類に分かれていました。2025年の改正刑法施行後は、この懲役刑と禁固刑が廃止され、拘禁刑に一本化されるとのことです(※1)。
 (※1:拘禁刑、懲役と禁錮一元化…改正刑法成立 侮辱罪 刑厳しく

今回のトークイベントでは、3年後の「拘禁刑」施行によって刑務作業が必須ではなくなるとしたら、刑務所でどのようなことを行うのが当事者の再犯防止に資するのかということを、刑事事件の被害者・加害者支援に取り組む3人のスピーカーが話し合いました。

スピーカーのNPO法人マザーハウス・五十嵐弘志さん(左上)、被害者と司法を考える会代表・片山徒有さん(左下)、特定非営利活動法人WorldOpenHeart・阿部恭子(右下)、司会進行のNPO法人マザーハウス・風間勇助さん(右上)

かつては自分も塀の中にいたからこそ、わかることがあるーNPO法人マザーハウス・五十嵐弘志さんのお話―

「もっと、当事者(受刑者)の声を聴いた方がいいと思います」
かつて受刑者だった五十嵐さんはそう語ります。
受刑者たちの将来の夢に応じて刑務官たちが協議してそれに合わせた作業をすればよいのでは、と五十嵐さんは考えます。

「就職が難しいのは刑務所の中の在り方にも問題がある。もっと刑務所が社会とつながることをきちんとやりながら、社会の人と触れ合いながら、交流しながら作業・指導をしていくべきかと思います」と話しました。

五十嵐さんは服役当時、「被害者感情教育というのを受けたい」と刑務官に伝えて受けることができたものの、形だけのような印象だったそうです。また、社会の人(塀の外の人)がもっと刑務所の中のことを知る必要があると主張しました。

今までの刑務所の在り方を刷新していくことに、意味があるー被害者と司法を考える会代表・片山徒有さんのお話

「再犯をなくすことによって次の被害者が出なくなることは非常にいいことではないかと考えました」と語るのは、被害者と司法を考える会代表の片山徒有さんです。

これまでの量刑が一本化され「拘禁刑」という新たな名前になった背景として、「今までの刑務所での収容形態が現実に属していないのではないかという声が上がり、様々な部分から変えていこうじゃないか、ということが起こってきたのではないかと思っています」と片山さんは語ります。問題は刑務作業があるため、教育に時間が割きづらく、現場の理解が必要な状況です。

誰かと一緒に生きるという関係性の中で、更生を願ってー特定非営利活動法人WorldOpenHeart・阿部恭子さんのお話

「加害者家族の支援の活動をしていますが、容疑者の家族の方とまずお会いすることが多いです」と語る阿部さん。

被害者の視点を取り入れた中の、加害者家族理解という活動も行っています。現場の方々からも取り入れたいというお声をいただいていて、いわゆる「凶悪犯」(殺人、強盗、放火、強姦の罪を犯した者)とされる方々とグループワークを行うことが多く、このような対話活動を行うことは非常に重要だと考えています。

家族理解教育のようなことを取り入れたらよいのではないか、それも固定的・伝統的家族観を押し付けたプログラムではなく、「誰かと一緒に生きていく(ペットなども含む)」ために生まれ変わるという”共生教育”が必要なのではないかと、阿部さんは提案します。阿部恭子さんからは、「やっぱり守るものがあって、守るもののために生まれ変わっていく。(中略)自分の大事な人とか、大切なものとかをどう守っていくかの教育を提案したいです」と語りました。

おわりに

この対談で印象的だったのは、刑務所のプログラムの中で自分との対話をすることが大切なのではないかということ、これからは被害者の視点に立った教育が行われる必要があるということ、加害者もある時点では被害者だった場合もあるということなど、多岐に渡りますが、一番印象的だった言葉は、無理だと思われるようなことでも、チャンスやタイミングが合えば前に進むこともある、というお話でした。「拘禁刑」に改編された意味をきちんと踏まえたうえで、再犯防止や被害者家族の感情への理解など、必要な教育が刑務所内でなされていくことが必要だと感じました。

執筆:田代智美


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