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結婚も学問も すべてはコミットメント

イギリス学部留学の3年間はLampeterというウェールズのとても小さい町にすんでいた。イギリスで一番小さい大学街だ。現地ではヨーロッパ一小さいと聞いたが真偽は定かではない。1年目は学生寮に入っていた。大学のキャンパス内に流れる小川のそばに立つ小さな家、その名もリバーサイドコテージというマチュアスチューデント用の静かに暮らしたい人向けの寮。年上の学生達との生活はそれなりに楽しかった。2年目からは寮が保証されていない現地学生はプライベートの学生向け部屋か家を借りてシェア家することが多い。留学生は寮に入る権利が保障されていたのだが、何かと勝手が良く手頃なプライベートの部屋に住みたがる人は多かった。

偶然にも2年目に商店街にある小さなクリスチャンチャリティーカフェの2階に部屋を見つけた。チャリティーカフェなので一部の従業員以外給料は出なかったのだが、週3回カフェで働くと家賃が無料になるよう取り計らってくれた。基本クリスチャンが多いが地元の学生や退職したおじさんおばさんもボランティアで働いており居心地の良い場所であった。そんな人々に見守られ野心的な学生仲間や刺激的なナイトライフとは無縁、静かで童話的な学生時代を過ごした。あまりにも牧歌的な生活は今考えるとまるでおとぎ話のようだ。

当時から付き合っていた彼、今の夫は当時フランスとスコットランドの大学院で学んでいた。ただでさえ外国人がほとんどいない小さな田舎町。カフェで初めて働いた日本人学生だったわたしは遠距離恋愛の彼氏がフランス人という知らず知らずのうちゴシップには事欠かない材料を提供し続けていたようだ。郵便受けはカフェと共同。彼からの絵葉書も話好きなボランティアのおじいさんが先にチェックして丁寧に内容を教えてくれながら渡してくれた。幸い絵葉書に挨拶程度しか書かれてなかったので事なきを得たが、プライバシーなどあったものではない。しかしながら遠い母国から離れて暮らす孤独な学生にはありがたい環境でもあった。

大学が忙しい時はホリデー期間に滞在していた彼もカフェで働いた。地元の方々はお礼にサンデーランチに招いてくれたりと親しい交流は続いた。イギリスでは学生はお金がないからと当たり前のようにごちそうをしてくれる、もう子どもが巣立ったくらいの親切なご婦人にたくさん出会った。当時は礼儀を知らず手土産も持たず訪ねていたが何も言われず温かくもてなしてくれ家庭でつくられた柔らかくジューシーなローストビーフやポークにかかるグレービーやパイ、手作りのデザートに本当に心も身体も満たされた。

卒業が近づいたころある親しくしていた60過ぎの女性から「卒業したら彼との関係はどうするの?」と聞かれまだわからないと答えると「でもあなたたちコミットしてるでしょう?」と返されてコミットってなんなんだと思ったことを今でも覚えている。

コミットメントが何を意味するのかイマイチ掴めなかった。好きだから一緒にいたいだけで結婚した。と思っていたけれど私は彼と一緒に過ごすことを決めたのだと今はわかる。そして勉強も同じじゃないかしら、と進まぬ課題をみて思うのだ。結婚を後押ししたのはイギリス人の友人からの「離婚してもいいんじゃない?」の一言だった。

わたしは自分の人生にコミットしたいのだ。たとえそれが失敗で終わったとしても。

今でも脳裏に浮かぶ緑が広がる丘に羊が放牧されたのどかなウェールズの町をいつか家族5人で訪ねたい。日本より少し近くなったこのベルギーで毎年送ってくれるクリスマスカードを見ながら願う。


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