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『傲慢と善良』 私達はどうして結婚したいのだろう

先日読んだ辻村深月さんの『傲慢と善良』が思った以上に良かったので感想を書きたく初めてのブックレビューに挑戦します。愛聴中のPodcast「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」で紹介され気になってはいたのだけどベルギーにいると日本の新しい本を手に入れるのは至難の業。先日の読書会で日本に帰っていた知人が誰か良かったらと差し出してくれ、思わず「読みたいです!」と前のめりに主張して手に入れてしまいました。

辻村深月さんの本は何冊か読んだことがあるが文章が上手で面白くはあるけどなかなか印象に残らず積極的に新作を手に取ることはなかった。今回も日本を離れて日本語の文学界を恋しがってなかったら読んでなかったかも。しかし読んで正解でした。やはり売れてる本には理由がある。

今後この本を読むかもしれない人のためにできるだけネタバレはしたくない。主人公は控えめで自分の意志より他者の願望を優先するアラサー女性。しかし人並に承認欲求や結婚願望があり、30歳を超えて上京し婚活をして知り合ったアラフォー男性と付き合い結婚を決めるところまで来たのに、急に彼の前から消えてしまって。。。というミステリー仕立ての小説です。前半は彼が彼女を探しながら故郷を訪ねてその足跡を追う。後半は彼女の視点から同じ時間軸をみてみると、というつくり。前半のまわりから語られる彼女と後半の主観的な彼女の思考がリンクしながら実は違ったりと構成がまず逸名。

物語は佳境に向かうにつれ結婚したかった2人がお互いを結婚相手としてふさわしいかではなく相手を理解したいという個人の関係に変わっていくところが圧巻。これが恋愛というものなのか、告白されたことも恋愛経験がない主人公がうろたえるところがすごく現在の性をあらわしているなと思う。無駄な恋愛をせず親や社会の求められることをただひたすらこなす若者たちの行きつく先を批判的にそして優しく包むラストであった。

文庫は浅井リョウさんが解説。

どこまでが自分で、どこからが社会なのか。どこまでが理性で、どこからが本能なのか。これまで私たちが選んできた何もかもは、果たして本当に自分の意志で選択したものなのか、名もなき大いなる流れの中で選択させられていたものも多いのではないだろうか。

びっくりした。これってまさしく私が人類学で学んでおり知りたいこと。どこからが自分の意志でどこからが社会が求める何かを実践しようとしてる欲求のあらわれなんだろう。自分自身の意志や自由なんて存在するのかな。そんな事を考えてる人が研究の世界の外にもたくさんいたんですね。ちっとも知らなかった。

私達はなんで結婚したいのだろう?人を好きになる気持ちって条件ですか?26歳で結婚し30歳で第一子を出産しまわりからは順当に人生を歩んでると思われる私は、未だになぜ皆私自身を含め結婚し出産する、したがるのかわからない。現代社会では女性が結婚、出産することも当たり前でも必須でもなくなってるのに。体言していてもわからないのだ。

物語は時に多くのものを伝えてくれる。言葉では説明できない感動も言葉を通して届けてくれる。そんな物語が母語で常に新しくつくられる世界をありがたく思う。今住むベルギーのフランダースでは母語であるオランダ語よりも英語で本を読む人が多いそうだ。母語で生み出される多彩な創作物は当たり前ではないことをここにいると強く思う。





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