【脚本】『幕末鳥人伝~地に足つかない男たち~』(下)

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今回でこの『幕末鳥人伝~地に足つかない男たち~』は完結です。
上演時は、ライブハウスでの公演で、第一話と第二話の間に休憩を入れました。
飲食OKでご覧頂いてたので、休憩中に揚げ物のオーダーが入って、
『唐揚げ待ち』
で第二話開演したり・・・なんていうのは懐かしいよき思い出です。
あと、画像フォルダ見たら、出演者全員のこんな写真が残ってました。
(私とドヰ以外は出さずにおきますが・・・)

画像2

画像3

なんでキン肉マンなんでしょうね。
きっと楽屋で流行ったんでしょうね。
なんで流行ったのかは全く覚えてませんが。

第一話はこちら↓

さて、第二話、はじまりです。

第二話 空に恋した男たち

#5

前話終了から数日後。
朝。小鳥のさえずりから幕は開ける。
場所は、余市の家(酒巻屋)の離れの庭。
明かりが点くと、角造の端折ったプリッ尻。
どうやら小鳥を捕まえようとしているようだ。
そこへやってくるお鈴。

お鈴   「あら、角さん」

びっくりして手を緩めてしまう角造。
飛び立つ小鳥。

お鈴   「あ・・・」
角造   「あ・・・」

二人の目線が鳥を追う。
目が合う二人。微妙な間。
不自然に笑う二人。
落ち込む角造。

お鈴   「ごめんなさい、私、知らなかったもんだから・・・」
角造   「いや、いいんだ」

微妙な間。

お鈴   「・・・で、角さん、どうしたのさ。随分早いじゃないか」
角造   「・・・ああ、余市っちゃんの具合はどうだい」
お鈴   「ああ・・・今はまだ寝てるわ」
角造   「隣組のお医師から薬草をもらってきたんだ。煎じて飲むと、痛み止めに効くらしい」

と、懐から包みを取り出して渡す。

お鈴   「・・・ありがとね。とりあえず意識もハッキリしてきたし、ちょっと起き上がったりは出来るようになったわ。まったくもう、あんな真っ暗闇の中を飛んで、怪我をしないわけがないじゃないか・・・いくつになっても馬鹿なんだから・・・」
角造   「・・・ごめんなさい」
お鈴   「あ、角さんを責めてるんじゃあないよ。あの子が勝手に突っ走ったんだから。まったく、いつも勢いだけというかなんというか・・・」
角造   「・・・」

お鈴、縁側に腰掛ける。角造も自然と腰掛ける。

お鈴   「ねえ角さん、そんなに空飛びってのは魅力的なもんなのかい」
角造   「うん・・・」
お鈴   「アタシにゃ全くわからないよ。そりゃ、空が綺麗に晴れ渡った日なんかは気持ちいいけどさ、わざわざ危ない思いをしてそこを飛ぼうだなんて・・・」
角造   「・・・昔、余市っちゃんに訊いたことがあるんだ。飛んでいる時はどんな感覚なんだいって。余市っちゃんはこう言ってた。身体がふわりと浮いて、見る見るうちに足は地面から遠のき、視界がパァーっと広がる。天にも昇る気分だって・・・」
お鈴   「・・・」
角造   「オイラは飛んだことはないけれど、オイラが作った飛行具で余市っちゃんが空を飛ぶ。一緒に助走して、オイラの手の中から飛行具は離れ、目の前を飛び立っていく時の感覚は、何度味わっても毎回ゾクゾクするんだ」
お鈴   「そう・・・でもね、アタシはやっぱり賛成できない。あんな馬鹿でも弟だもの、また危険な目に遭わせるわけにはいかない」

と、そこへ余市が出てくる。
手は骨折して吊っている。頭にも包帯。

余市   「俺はまた飛ぶぞ」
お鈴   「余市・・・」
角造   「余市っちゃん・・・寝てなくて大丈夫なのかい」
余市   「鉄人余市をナメるな。こんな怪我程度で・・・」

と、手を動かそうとする。

余市   「痛―っ」
お鈴   「ほら、言わんこっちゃない。何が鉄人余市よ。ずっと痛い痛いって泣きべそかいてたくせに」
余市   「何を」
お鈴   「ほら」

と、余市の傷を触る。

余市   「痛―っ!何しやがるんでぇ」
お鈴   「うふふ、ほらほら」

笑いながら立て続けに触ろうとする。
避けようとする余市との攻防。

余市   「やめろ、やめろってば」
お鈴   「うふふふふ、ほらほら」
余市   「てめえ、楽しんでやがるな」
お鈴   「うふふふ、誰が楽しむか。ちょっとは心配しているこっちの身にもなれってんんだ。うふふふ、いつも怪我して運び込まれて、こっちは胸がキューっと締め付けられるような思いをするんだ。三日三晩も意識が戻らなくて・・・死んでしまうかと思ったんだから。ちょっとは思い知れ、この大馬鹿野郎」

泣きそうになりながらも決して泣かないお鈴。

余市   「姉貴・・・」
お鈴   「・・・角さんが痛み止めの薬を持ってきてくれたよ。アンタは酒巻屋の若旦那なんだ。いつまでも寝込んでちゃ奉公人たちに示しがつかないよ。さっさと治して出てらっしゃい」

お鈴、一発余市の腕を叩いて去る。
無言で見送る二人。

余市   「・・・思いっきり引っ叩きやがって・・・痛えなぁ、チクショウ」
角造   「うん・・・」
余市   「・・・で、角。どうした?ただ見舞いに来たってわけじゃあないんだろう」
角造   「うん、ちょっと聞きたいことがあって来た」
余市   「なんだ?」
角造   「今回の失敗原因についてさ。オイラ、余市っちゃんが飛び立ってからは暗くてあまり見えなかったんだ。余市っちゃんの落下現場で、壊れた飛行具も確認したんだけど、大破しててどの部分が原因で落ちたのかは特定するのは難しかった。飛んでた時の感触を教えてもらいたい」
余市   「ああ・・・。最初は調子よく浮かび上がった。確かにおまえの言うとおりだった。今回の飛行具は、今までとは風を掴まえる力が格段に違った。だが、しばらくして、ミシリという音が聞こえた。そこからはあっという間さ。翼が折れ曲がる音が聞こえて、暗闇の中を真っ逆さまだ。嗚呼・・・俺はこれで死ぬのかもな・・・なんて思っているうちに地面に叩きつけられた。その後は記憶がねえ」
角造   「ふぅむ・・・最初にミシリと聞こえたのはどの辺からだい」
余市   「風の音なんかと混ざって定かじゃあねえが、そうさなぁ・・・意外と近く、翼の付け根辺りだったような気がするぜ」
角造   「やっぱりそうか・・・」
余市   「何か思い当たる節はあるのか」
角造   「うん・・・余市っちゃん、最近ちょっと目方が増えたんじゃないかい」
余市   「ん?・・・測っちゃいねえが、もしかしたら太ったかもしれねえなぁ」

と、お腹の周りの肉をつまむ。

余市   「ん??もしや・・・この肉のせいでか??」
角造   「まあ思いつく原因はいくつかあるんだけれど、それもひとつかもしれないよ。響一郎の設計は、鳥の身体を参考にしてるんだ。色々な鳥を観察して、目方と翼の大きさの比率を割り出して設計してるんだ。だから、余市っちゃんの目方が増えると、飛行具の翼の大きさとの比率が変わってくる」
余市   「なるほどな」
角造   「それから、もうひとつ考えられるのは、さっき余市っちゃんが言った通り、今回のはいつも以上に風を掴まえられるという点さ。いつも以上に浮き上がる力が加わって、翼の骨組みにさらに力がかかったんだ」
余市   「ほう」
角造   「で、助走時の負担を減らすために飛行具の軽量化を進めたことは言ったろう?軽くするために削った骨組みが、それらの力を受け止めきれなくなって亀裂が入った」
余市   「それが、俺が聞いたミシリって音か」
角造   「・・・恐らく。亀裂が入ってからはあっという間に空中分解というわけさ。オイラの推測が間違ってなければ、の話だけれどね」
余市   「くそ・・・この肉のせいか・・・三十過ぎて急についてきたんだよな・・・」
角造   「オイラだって二十代の頃はもっと痩せてたさ・・・と言っても誰も信じちゃくれねえけどさ」

余市、角造の腹と顔を交互に見る。
二人、笑うしかない。

角造   「・・・余市っちゃんの話を聞いて、大方の原因は掴めたよ。これからは響一郎の代わりにオイラが設計もしなくちゃならないんだ。帰って図面を引きなおすよ。余市っちゃんはしっかり傷を治しておくれ」
余市   「ああ・・・なあ角、響の野郎はどうしてる」
角造   「・・・あの後は一度も会ってないよ」
余市   「・・・そうか・・・薬、ありがとな」
角造   「うん・・・じゃあ」

と、角造、帰る。
見送って、余市も部屋へ戻る。

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