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さながら“劇場版クロノ・クロス”!? 「ラジカル・ドリーマーズ Kid 盗めない宝石編」 感想



 RPG「クロノ・クロス」のひな型となったサウンドノベル「ラジカル・ドリーマーズ -盗めない宝石-」。発売形態(配信形態)の特殊さ・希少価値の高さ故に“幻のゲームソフト”と呼ばれていたこの作品が、この度発売された「クロノ・クロス」のリマスター版「ラジカル・ドリーマーズ エディション」に収録された。


●“幻のゲームソフト”、念願の復活



 note上でもたびたび「クロノ・クロス」(以下、「クロス」)ファンを公言している俺だが、重要な関連作品である「ラジカル・ドリーマーズ -盗めない宝石-」(以下、ラジカル)をプレイした経験は一度もなかった。理由を端的に言えば、遊ぶハードルが高過ぎたからである。




 衛星放送を受信し、配信限定のゲームを遊ぶことができるスーパーファミコン用データ放送受信端末「サテラビュー」。「ラジカル・ドリーマーズ -盗めない宝石-」は、1996年にそのような特殊な形態で配信された作品だ。
 パッケージ版の販売もなければ、他機種への移植・リメイク版も存在しない。よって、これまでは専用メモリーパックに保存された中古品(ネットオークションでの取引価格:数万円)を手に入れるしか遊ぶ手段がなかった。しかし、念願の「ラジカル」は今や我が手中にある。



 とりいそぎ「クロス」と密接に関わるメインシナリオ「Kid 盗めない宝石編」のみプレイしたため、本稿ではその感想を述べることにしたい。ネタバレは極力排しているのでご安心を。


●既に完成していた「クロノ・クロス」の根幹設定


 楽師の少年セルジュは、盗賊の少女キッド・魔術師の男性ギルと共に三人組の盗賊団“ラジカル・ドリーマーズ”を組んでいる。彼らはある夜、秘宝“凍てついた炎”を求めて辺境の貴族:ヤマネコ大君の屋敷に潜入する。そして屋敷を探索するうちに、セルジュはキッドの過去・凍てついた炎に隠された秘密を知ることになる…。
 これが「Kid 盗めない宝石編」のあらすじだ(Wikipediaより引用。一部改変)。




 凍てついた炎。ヤマネコ。聖剣イルランザー。アカシア竜騎士団。キッドとその正体。そして前作「クロノ・トリガー」(以下「トリガー」)との関連性。細かな違いこそあるものの、「クロス」(1999年発売)に登場する要素の大部分とメインプロットが1996年の時点で練られていたことになる。そもそも本作の設定を膨らませたゲームが「クロス」なのだから、根幹設定が完成しているのも当然といえば当然だろう。




 ストーリー面においては「クロス」の最重要キーワード“パラレルワールド”こそ登場しないものの、その分シナリオが濃くコンパクトに纏まっている。宇宙と時空を股に掛けた壮大なドラマが、たったひとつの屋敷だけを舞台に成立しているとは中々見事なもの。加藤正人氏によるポエミーなテキストも、「クロス」の遺伝子が感じられて味わい深い。
 なお、プレイ開始から「Kid 盗めない宝石編」のエンディングを見るまでは約1時間半程度、短めの映画ほどの尺だ。そう、本作は“劇場版「クロノ・クロス」”と呼んでも差し支えないだろう。


●主人公:セルジュのキャラクター造形について



 「ラジカル」を遊んだ俺が一番驚いたのは、物語の狂言回し役でもある主人公:セルジュ(「クロス」主人公とは同名の別人)のキャラクター造形であった。
 「クロス」は“ドラクエ方式+α”(主人公は選択肢でしか喋らないが、その台詞が「はい・いいえ」でなく具体的)のゲームであるため、こちらのセルジュは基本的に無口だ。しかし、「ラジカル」のセルジュはまあよく喋る。様々な人物や物体に容赦無くツッコミを浴びせたり、舞台となる屋敷の様子を丁寧に解説してもくれる。テキストを読むことで進行するサウンドノベル”というジャンルの特性上、お喋りなセルジュの独白なくして「ラジカル」は成立しないのである。






 また、「クロス」のセルジュは漁村に住む“家事手伝い(by ステータス画面)”、そして世界の異変の鍵を握る重要人物でもあった。しかし、「ラジカル」では成り行きで盗賊団に加わった“元・旅の楽師”という設定。戦闘能力も盗賊としての腕前もそこそこ。魔法は一切使えない。しかしこの“楽師”という設定が、思わぬ形で物語に活かされることになる。
 「クロス」は世界観を構築する美術面の魅力が大きいゲームだ。中でもBGMの素晴らしさは一級品。ラストバトルでは音楽を使った特殊演出まである。その“ひな型”の主人公が楽師であったとは、何たる奇遇だろうか?
ちなみに、楽曲を手掛けたのは「トリガー」「クロス」、「ゼノギアス」等でお馴染み光田康典氏。本作の劇伴の多くは「クロス」にアレンジされ受け継がれている。

一番左の人物が「ラジカル」のセルジュ。「クロス」とはだいぶ容姿が異なる。
なお、真ん中はヒロイン:キッド。右側がキッドの相棒:ギル(その正体は本稿では語らない)。


●最後に




 以上が、「クロス」ファンによる「ラジカル」初プレイ後の感想となる。
 フィールドマップも地図もメニュー画面もなく、主人公の独白を頼りに屋敷を探索し、ひたすらテキストを読んで物語を進める…。サウンドノベルを始めて遊んだ俺は「何てシンプルなゲームなんだ!」と面食らってしまったが、攻略サイトに頼ることなく楽しく遊ぶことができた。
 テキストによる謎解き・推理要素は“重要なヒントメッセージ”であることが強調されるため、さほど迷わないだろう。一方、所々で挟まれる戦闘イベント(「クロス」の戦闘曲「疾風」が一足早く採用されていた)は、正解の選択肢が分かりにくいので運に頼るしかない。コマンド入力に制限時間があるのにタイムカウントが存在しないのは理不尽に思えた。
 ともあれ、クロノシリーズのファンであれば本作を遊ばない理由がない。俺のようにRPGばかりしか遊ばない方も、これを機に“数値の介入がないゲーム”を遊んでみてはいかがだろうか。




 余談だが、肝心の「クロス」HDリマスター版に関しては、画質面(特にプリレンダムービー)の粗さ・倍速モードの操作性の悪さ(それに伴う“しらべる”ポイントの当たり判定の劣悪さ)が非常に気になる。大変心苦しいが、満足な出来のリマスター化とは言えないのが現状だ。望み薄ではあるものの、アップデートで修正が入ることを切に祈っている。

2023/5/5追記:2月末頃、大規模なアップデートが行われていたようです。内容は以下のリンク先をご参照下さい。




※画像は本編スクリーンショット(Switch版)を引用しました。

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