ふたつの「好き」が重なった─ Mr.Children ×「きみの色」
“Mr.Childrenの新曲、アニメ映画「きみの色」主題歌に決定”
何気なくSNSを眺めていた早朝。このニュースを知った俺の心はざわつき、ピントの合わない寝ぼけ眼は即座に覚醒した。
「Mr.Children」と「きみの色」──。一切交わらない、交わるはずがないと思っていたふたつの要素が、コラボレーションを果たそうとしている。
◇
Mr.Children。略してミスチル。中学生時代に出会ってから今日に至るまでの約15年間、人生の半分にも及ぶ期間をファン活動(ありふれた言い方にすれば“推し活”だろうか)に捧げているバンドだ。人生経験を積むにつれて数多のバンドに触れてきたつもりだが、俺にとっての“ロックの象徴”“最も偉大なミュージシャン”は未だにミスチルであり続けている。
ミスチルの楽曲タイアップはCM・ドラマ・実写映画が過半数を占めているが、近年は「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」「バケモノの子」「映画ドラえもん のび太の新恐竜」といった、ファミリー向け大作アニメ映画の主題歌を手掛ける機会も増えている。だが、「きみの色」は先述の作品群とは大幅に毛色が異なる。何の事前情報もない人に「きみの色」の作中画像を見せて「ミスチルが主題歌だよ」と話しても、到底信じて貰えないのではないだろうか。数日前の俺も、間違いなくその一人だ。
◇
「きみの色」は、「音楽」と「色彩」を題材にした青春群像劇アニメだという。映画の詳細はPVをご覧頂くとして、ここではスタッフについて言及したい。
予告編やあらすじが公開される以前、タイトル・メインスタッフが発表された段階で、俺は本作に待ち遠しさを感じていた。報道・インタビューでは「監督:山田尚子最新作(以下、人物名敬称略)」であることが強調されているが、俺の中で本作は「脚本:吉田玲子最新作」としての印象、そして期待感が非常に強かった。
「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」。「ガールズ&パンツァー」。「若おかみは小学生!」。俺の心に深く刺さったアニメ作品には、高確率で「脚本:吉田玲子」のクレジットが存在する。いずれも人物描写の丁寧さが際立っている(ように感じられた)点が、俺が吉田玲子を崇拝するようになった理由だ。非常に多作であるため、作品全てを鑑賞するまでには至っていないが……。
更に、非常に遅ればせながら昨年鑑賞し、俺の「オールタイムベストアニメ映画」に加わった名作「リズと青い鳥」(2018年公開。監督:山田尚子 脚本:吉田玲子)のコンビが手掛ける完全新作だと意識した途端、映画に対する期待値は更に高まることになった。
そんな吉田玲子作品たる「きみの色」、そしてミスチル。全く別の角度から惚れ込んだ、俺のふたつの「好き」が重なり合ったなど、今でも易々と信じられない。俺がその両者を好きだと知っている人物が発した高度なジョークではないか……?とさえ感じてしまうのは、流石に疑い深すぎるだろうか。
◇
主題歌が公開される以前の予告編では、主人公たちが作中で結成されるバンドの楽曲(軽快な打ち込みと女性ヴォーカルが印象的)が部分的に披露されている。劇伴同様に牛尾憲輔が手掛けているのだろうか……と想像しているが、現状では定かでない。
俺は牛尾憲輔にはさほど詳しくないが、「リズと青い鳥」において大変美しく、また時には心に爪を立てるかのように張り詰めたピアノの劇伴を手掛けていたことを忘れずに言及しておきたい。また、個人的にはアニメ版「ピンポン」の劇伴(テクノ色が強く、実写映画版の劇伴へのオマージュを感じさせる)を深く気に入っており、iTunesの配信開始直後、間髪入れずにサントラを全曲購入した程である。ミスチルとは全く異なるが、こちらはこちらで俺好みの音楽性だ。
さて、PVで披露されたミスチルの主題歌「in the pocket」は、はっきりした輪郭を感じさせる昔ながらのド直球ポップスだ。令和以降に発表されたミスチル楽曲中、最も明るく最も昔風の印象さえ受ける。正直に言うと、最初に主題歌入り予告編を視聴した際、映画がまとっている繊細なイメージ(映像・物語双方において)・劇伴の音楽性とは異なる雰囲気を受け取ってしまった。
だが、作詞作曲を務めたミスチルのフロントマン:桜井和寿は、登場人物の「繊細さ」について、主題歌決定インタビューで繰り返し語っている。「in the pocket」は、「きみの色」の主題歌になることを前提として楽曲が書き下ろされた。作品を構成する重大な要素が「繊細さ」だ……と受け止めた上で、この曲は産み出されたのだろう。PVで流れる高らかな歌声も陽気なメロディーも、桜井和寿なりに「きみの色」を解釈した結果の産物であるはずだ。ならば、ファンの一人として、俺はその解釈を信じて見届ける必要があろう。
とはいえ、映画本編の内容はまだまだ未知数であり、楽曲の全貌も明らかになっていない。「楽曲が作品に合うか合わないか」など、今の段階では語りようもないかもしれない。
だからこそ、「きみの色」とミスチルがどのような相乗効果を引き起こしてくれるのか、期待を抱きながら公開日(8月30日)を待ちたい。残暑を吹き飛ばすかのように瑞々しく、そして思わずnoteに高熱量の感想を投稿したくなるほどの作品となっていることを、心より願うばかりだ。その時は、エンドロールで「in the pocket」が流れた瞬間、俺が浸った感情を確かに記したい。
※ヘッダー画像・記事内画像は「きみの色」公式サイトより引用しました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?