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「かみかさ」第8話

夜、帰宅すると、燈郎の弟、真巳が就職祝いをくれた。
「兄貴、就職祝い。」
「ありがとう。高校生が無理すんな。」
と、袋の中を開けてみた。櫛とブラシがたくさん入っていた。
「何?」
「いくらあっても、大丈夫でしょう。」
「百均で買ったのか。」
「そう。」
「一生分あるぞ。」
「一生続けれるように頑張って。」
「ありがとう。」
茶目っ気たっぷりのプレゼントは嬉しかった。
「おまえもバスケ頑張って。」

燈郎は、数日後にシャンプーボーイとして働く事になる。プラス雑用全般だ。とんでもなく忙しかった。目まぐるしくて、お客さんに目を配ったり顔覚えるなんてまだまだであった。

「あらぁ。ほうき、もうボロボロね。」と皆川が言った。
「掃きにくかったでしょう。」と次の日には買ってきてあった。

住川がひかりに電話した。
「若尾くんはどんな様子ですか?」
「大変そうにしていますが、仲間にも溶け込み、頑張ってますよ。横井さんも、しっかり協力してるれて指導してくれます。」
「そろそろカット練習に入れそうですか。」
「はい。」
「夜遅くなるから、皆川さんにとっても踏ん張り時だが、よろしく頼みます。私の出番があれば行くので言って下さい。よろしくお願いします。」

燈郎の閉店後のカット練習が始まった。環境に慣れたかと思ったら、また緊張するし、帰ると10時とかになった。
それでも店長、自ら教えてくれた。
「私も勉強になるからね。」
そう言ってくれた。
「ここでは手も内巻きにしておいて、ハサミも内巻きになるように、こう。」
と一瞬、燈郎の手に皆川の手が添えらた。

ただそれだけのこと。
ごく当たり前のこと。

その手で燈郎に手を振った。
「お疲れ様。」


お喋りな人の手に
触れると
心は口をつぐむ
手から心が
気づかれませんように

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