板垣千佳子

合同会社ノヴェレッテの代表として、クラシック音楽のアーティストのマネジメントをおこなう…

板垣千佳子

合同会社ノヴェレッテの代表として、クラシック音楽のアーティストのマネジメントをおこなう。 編書「ラドゥ・ルプーは語らない。」(アルテスパブリッシング刊)

最近の記事

サントリーホールでイーヴォ・ポゴレリッチを聴く。

前職で1991年から2018年までポゴレリッチの担当マネージャーをさせていただいていた。27年間、彼の音楽の移り変わりを近くでみてきて、他のアーティストよりもずっと劇的な変化を遂げているので、どんなに音楽が奇抜でも、無条件の愛で受け入れる土台が私にはできている。今日もどんな演奏になるのだろう、バックステージでなくてホールの中で聴くことができて幸せだな、と思いながらサントリーホールに向かった。 最初のショパン:前奏曲 Op.45 は意外に早いテンポでさらりと。(最近の私はこの

    • 最後の来日にはしたくない、、、円熟のピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフ まもなく来日

      鬼才ピアニストといわれるヴァレリー・アファナシエフは現在76歳。まもなく来日して、王子ホールでの3年に渡るプロジェクト「TIME」の最終回でシルヴェストロフ、ドビュッシー、プロコフィエフを、また大阪、横浜公演では、ショパン作品のみのプログラムでポロネーズ、マズルカ、ワルツを弾く。 先日秘書を通じて「もう来日は最後になるのではないか」とマエストロが呟いていると聞き、愕然とする。実際、来年以降のアジアでのオーケストラとの共演のオファーを断ったそうだ。 95歳で初来日を果たしたミ

      • ピーター・ゼルキンを想う

        サー・アンドラーシュ・シフのミューザ川崎のレクチャー・リサイタルに行った。 シフさんがゴルトベルク変奏曲のアリアを弾き始めた瞬間に、ピーター・ゼルキンのことを思い出した。そしたら、ピーターの愛弟子のTomoki Parkさんがシフさんの通訳として舞台上にあらわれたので驚いた。 以来、ずっとピーターのことを考えている。 なぜピーターのことが心に浮かんだのか、、前々日には八ヶ岳にいて、ピーター・ゼルキンと2017年に八ヶ岳を訪れた時のことを思い出していたから?その時すでに彼に

        • ワイセンベルクの思い出

          和喫茶でアイス抹茶ティーを注文した瞬間にアレクシス・ワイセンベルクのことを思い出した。 確か1990年頃のこと。当時、大阪のザ・シンフォニーホールの隣にはホテルプラザがあって、シンフォニーホールで演奏するアーティストはたいていそのホテルに滞在していた。ワイセンベルクのツアーに同行していた私は、マエストロに「ラウンジでお茶を飲もう」と誘われて行くと、マエストロは「ここのアイス抹茶ティーは本当に美味しいんだよ」と満面の笑みをうかべ、私にも同じものを注文してくれた。 私は大

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          ラドゥ・ルプーの引退公演

          4月17日。ラドゥ・ルプーがこの世を去ってからちょうど一年がたつ。 2019年6月21日、ルツェルンでの引退公演のことを思い出している。 もうこのシーズンで演奏はやめると本人から聞いていたので、2019年の年が明けた頃から、夏までにはヨーロッパに飛ばなければとずっと思っていた。 ところが2月はじめのパーヴォ・ヤルヴィ指揮フィルハーモニア管とのロンドン公演以降、体調不良でキャンセルが続く。6月初めのバレンボイム指揮ベルリン・フィルでは、旧友との共演だし、ここでは弾くのではな

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          怖いのは「展覧会の絵」

          どんなにクラシックが好きだって嫌いな曲はある。 私にとってはムソルグスキーの「展覧会の絵」がそれにあたる。おどろおどろしいものが嫌いだし、昔見たバーバ・ヤガーの絵が怖すぎたからか、「展覧会の絵」だけはどうしても好きになれない。 マネージャーをしていて幸福な時間は、アーティストとプログラムの話をする時。ある時、ガジェヴと話していたら、次のシーズンは「展覧会の絵」を弾くという。 ドキッ。えっ。私はすぐに顔に出るので、自分が苦手な作品だと告白しつつ、「私の好みは偏っていてクラシッ

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          半音の魅惑~「森の情景」から

          もうすぐ4月17日。ルプーさんが天国に召されてから1年がたつ。 やりきれないので、私の心の中に大切にしまわれた音の記憶をたどってみる。 「ラドゥ・ルプーは語らない。」のあとがきでは幸福な音の記憶としてシューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」と「ホルンとピアノのためのアダージョとアレグロ」をあげたけれども、もちろんそれだけではない。 とりわけ私の心に深く刻まれているのはシューマンの「森の情景」の第3曲「Einsame Blumen(孤独な花)」。日本での最後の公演となった2013

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