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最後の来日にはしたくない、、、円熟のピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフ まもなく来日

鬼才ピアニストといわれるヴァレリー・アファナシエフは現在76歳。まもなく来日して、王子ホールでの3年に渡るプロジェクト「TIME」の最終回でシルヴェストロフ、ドビュッシー、プロコフィエフを、また大阪、横浜公演では、ショパン作品のみのプログラムでポロネーズ、マズルカ、ワルツを弾く。
先日秘書を通じて「もう来日は最後になるのではないか」とマエストロが呟いていると聞き、愕然とする。実際、来年以降のアジアでのオーケストラとの共演のオファーを断ったそうだ。

95歳で初来日を果たしたミエチスラフ・ホルショフスキー や、94歳にしてドイツ・グラモフォンにはじめてソロ録音をしたメナヘム・プレスラーのことを考えると76歳なんてまだ若いと思うのは、まだ自分がその歳になっていないからだろうか。

ラドゥ・ルプーは2001年から2012年まで来日していないが、この10年以上の空白の間に、実は計画していたツアーが延期になってしまったことがある。理由は「アメリカ旅行から戻って○○日の休養をへて日本に飛ぶつもりだったが、このスケジュールは2年前に計画されたもので、その時は○○日で時差が回復されると思っていた。だが2年たった今自分は年をとり、予想していた以上に時差の回復に時間がかかる。時差が回復しないまま日本に飛んで不本意のまま日本で演奏することは避けたい。」ご本人からこういった内容の手書きの手紙を受け取って、その誠実さに心を打たれた。

アファナシエフが今年6月に録音したベートーヴェンのハンマークラヴィーア・ソナタのCDが11月22日に発売となる。

「22分をかけてじっくりと構築した第3楽章アダージョは吸い込まれるような漆黒の深みを湛えている」はまさに言葉通り。

今回の来日ではべートーヴェン作品を演奏しないが、王子ホール公演(完売)にお越しいただく皆さまには、TIME最終回のプログラムを、またアファナシエフをまだ聴いたことがない方にもぜひ大阪、横浜公演でのショパン演奏を心ゆくまで味わっていただきたい。
生のコンサートはアーティストとお客さまが作る再現不可能な貴重な時間。素晴らしいツアーとなって、また日本に来たいと思ってもらえるような時間になればよいと思う。

〈来日スケジュール〉

こちらの映像はアファナシエフの師匠であるエミール・ギレリスに捧げるコンサートでのショパン: マズルカの演奏。情感のこもった演奏に心をうたれる。

アファナシエフは今まで若林工房にショパンのワルツとポロネーズ、そしてDENONレーベルにショパンのマズルカとノクターンを録音しており、今回の来日でとりあげるショパン作品はアファナシエフ本人が愛してやまない曲。
モスクワで同じショパン・プログラムでのアファナシエフの演奏を聴いたあるピアニストは「まるでプルーストの小説のような、長い人生の回想録を読み終えた感がある」と語った。

以前は極端に遅いテンポのシューベルト演奏や、シューマン「クライスレリアーナ」を演劇化した作品などで世間を騒がせてきたが、近年では、思索的で円熟を極めた深い音楽性とともに、ひとつの音にまるで人生が凝縮されたかのごとく、アファナシエフにしか体現できない芸術を披露する。

上手にショパンを弾ける若いピアニストは現代にたくさんいるかもしれない。でもこうしたショパンを弾く、過去の時代を知るピアニストはそうは残されていないように思う。

NHKで放送されたドキュメンタリー「漂泊のピアニスト・アファナシエフ・もののあはれを弾く」でも日本への愛を語っていたアファナシエフ。
よき滞在となりますように。

<アファナシエフに関する文章>

◎世界的な鬼才ピアニスト、アファナシエフの「最後の時」……演奏会シリーズ「TIME」最終回を前に by 青澤 隆明

◎昨年来日時のインタビューより
「ピアノ界の隠者」ヴァレリー・アファナシエフ「今の音楽界は芸術ないがしろ」…若手にも苦言 by 松本良一(読売新聞)

◎アファナシエフとガジェヴが語り合う それぞれのショパン by 飯田有抄(ontomoマグ)

◎「ピアニストは語る」by ヴァレリー・アファナシエフ(講談社現代新書)


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