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【短編】日曜日の朝が始まる

私はトーストを食べる。

食パンは6枚切りで厚さが20mm
黒いトースターで、やや焦げ目がつくまで焼く。
毎週、日曜朝のルーティンである。

その日は、いつもの日曜日と同じように、
7時10分過ぎに目が覚める。

二度寝をしたい欲を抑えつつ、
そのまま洗面台へ行き歯を磨く。

安い白チューブの歯磨き粉と、
これまた安いピンクの歯ブラシ。

歯磨き粉を付けすぎないよう少しだけ注意を払い、歯ブラシの先端に塗布する。

口を開け、歯ブラシを左奥の口腔内に突っ込み、目を閉じながら立って3分ほどシャカシャカと歯の全体を満遍なく磨く。

その昔、歯ブラシを口に入れ、
座りながら眠ったことがある。

だから立っているのだ。

シャカシャカと歯を丁寧に磨き3分後、歯磨き専用にしているダイソーで買った赤いマグカップに、コップ一杯水を入れ口に含み、3回ほど口をゆすぐ。

歯磨きをして眠気が少し覚める。

続いて、茶色いテーブルに置いてある「食パン」をビニールの包装から2枚取り出し、台所のトースターへ向かう。

トースターの取っ手を引き、
手に掴んでいる2枚の「食パン」を中へ入れる。
時間指定のメモリを3分にセットし、右へ回す。

家中に「ジー」という音が鳴り響く。

耳に入ってくるのは、
トースターから発する機械音。
それ以外の音はない。

テレビもラジオも、付いていない。
隣人のドタバタという音もないし、
外で声を発する人間もいない。
スズメの「チュンチュン」という声もない。

「食パン」が焼きあがるまでの3分間、
私はじっとトースターを見ていた。

特に何か理由があるわけではない。

その閉鎖されたトースターの中から食パンを救い出し、いち早くジャムを付けたい、という一心である。

トースターから「チーン」という、
3分経ったという合図が家中に鳴り響く。

私はすぐに食器棚からお皿を取り出し、
トースターへ駆け寄る。

やや焦げ目の付いた「食パン」を確認し、
私は首をややコクリと下げ
「これで良い」という頷きをする。

灼熱のトースターから、
「食パン」を素手で2枚取り出す。

左手と右手に熱せられた「食パン」の角を持ち、
用意していた白とピンクのまだら模様の、
平べったいお皿の上へサッと移動させる。

そして冷蔵庫へ行きアヲハタの「ブルーベリージャム」を取り、近くの食器棚から小さな銀色のスプーンを取り出す。

それらを手に持ち、リビングのテーブルにひとつずつ確かめながら配置をし、私は椅子に座る。

この日初めて椅子に座った。
ここで「ひと呼吸」をする。

用意した「食パン」に、
ブルーベリージャムを塗る。

「儀式」が始まる。

ブルーベリージャムの丸いふたを
「ポン」と開け、
スプーンをその瓶へと突っ込む。

そしてスプーンから「はみ出る」くらい濃紺のジャムを掬い上げ、そのままよく焼かれた焦げ茶の食パンへ「ダイブ」させる。

「焦げ茶」と「濃紺」のコラボレーション

私の日曜日の朝が始まったのだ。



つづく。


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