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【エッセイ】エンコーしようとした話 ~カップル成立~
この物語は第3回(全5回)
前回の記事を読まなくても分かるように、
「あらすじ」を付ける。
■前回までのあらすじ
晴れた土曜日の昼下がり、主人公は私鉄の駅から日本最大級の繁華街に向かう。
家族を失い孤独感から第三者とのつながりを求め、「出会いカフェ」に入る。
店内で男性たちに品定めされ、女性用ルームに案内される。そこでは、マジックミラー越しに男性が女性を見るシステムである。
女性用ルームに入るとすぐに呼び出され、食事をする暇もなく1番ルームへ向かう。
■前回の記事
1番ルームは店内に設置されており、
2人きりで話すことができる。
カーテンがついている、
「ツーショット」形式だ。
最長10分間、話をすることができる。
私は先に1番ルームへ入り、そこには黒いビニールの椅子があった。
2人で座るとやや余裕がある。
その椅子へ腰掛け、持っていた鞄を足元に置いた。椅子はやや硬めの、しばらく座るとお尻が痛くなりそうであった。
約1分後に、私を指名した男が1番ルームへと入ってくる。
男はカーテンを、ザーッと開けて現れた。
そして、私を数秒間まじまじと凝視をした。
すぐに、すこし前に首を垂れる。
私もそれに合わせ、
すこし前に首を垂れる。
「挨拶の言葉」ではなく、
「しぐさ」での合図だ。
そこに「言葉」というものは存在しなかった。
その男は明らかに太っており、
短髪で髪色は黒く、やや白髪が混ざっていた。
年齢は、およそ50歳というところ。
目は細く、眉はしっかりと黒くて太い。
服は黒と白の混じった長袖のネルシャツ。
ズボンはベージュのチノパン。
小さめのカバンを肩から掛けていた。
その男は、そのまま私の隣に座る。
2人用の椅子では、私にピッタリとくっつきそうなほどとなる。1番ルーム自体が狭いのもあり、熱気が漂う。
自然にじんわりと「イヤな」汗が滲む。
すると開口一番「マスク外してよ」
とその男が言う。
私はそれに従い、片手でマスクを外す。
「へーいいじゃん」と、
細い目を少し見開きその男は言う。
その表情から、笑っているのかは分からない。
私は少し気分が高揚する。
このまるまる太った男が言い放つ、
とても陳腐で「テキトー」な言葉。
その言葉にも屈するくらい、
私は「イカれて」いた。
--
その男と、何を話したかは覚えていない。
私はその時「イカれて」いたので、
男と至近距離にいることが、
とても刺激的だった。
たとえどんな男であれ。
話し始めて2分ほど経った時、
その男は私の太ももに手を乗せてきた。
指は5本ともに太く、
手の甲には肉が付きすぎており、
まったく血管が見えない。
私が無反応で「嫌がるそぶり」を見せないとわかると、その大きなクマのような手を、私の日焼けしていない白い太ももの上で「すりすり」と動かす。
私はその事については「何も言わず」
いや「何も言えず」
黙って話を聞いていた。
--
私はその10分後に「出会いカフェ」を出た。
そして、その店の前に私は立っていた。
すぐに「出会いカフェ」のドアが開き、
まるまると太った男が出てきた。
その男は、肉付きのいい体を揺らし、口元を少し緩ませながら、私のもとへと歩いてくる。
「カップル」が成立したのだ。
1番ルームで10分近く話したあと、
「この後遊べる?」とその男から聞かれ、
「うん」と私は言った。
これで、1組の男女が繋がる。
私とその男は隣に並び、
繁華街の雑踏へと向かってゆく。
つづく。
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